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武藤 泰明

武藤 泰明(むとう・やすあき) 早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

“Timid Investment”
―海外現地法人の新経営スタイル―

武藤 泰明/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

持分法適用会社による収益貢献の理由

 最近見られる面白い現象の一つに、日本の上場会社の連結損益の中で、持分法適用会社がもたらす利益が増えているという点がある。それも国際展開している会社でこの傾向が強いようなので、海外の持分法適用会社が利益貢献しているということである。私はこのような日本企業の直接投資行動を、timid Investmentと名付けている。収益を上げられるグループ会社なら、100%子会社にすればよさそうであるがそうなっていない。そこがtimidな(おずおずとした)ところなのだが、仮説として考えてみたいのは、持株比率を下げることで利益が生まれているのではないかという点である。

 では、なぜ持株比率を下げると利益が生まれるのか。この理由として考えられるのは、現地の投資家の出資が、彼らの経営参加、経営努力を促しているということである。100%子会社なら、日本の親会社の管理下で行動する。それより、現地に出資者がいて、この出資者がその会社の利益に期待し、流通チャネルの構築、許認可などに手腕を発揮してくれれば、そのほうがうまくいきやすいのではないかと思われるのである。

 出資者だけでなく、幹部社員も同様である。日本企業の現地法人の多くは非上場会社だと思われるが、そうすると幹部社員に供与できるインセンティブは、配当やストック・オプションではなく、成果に連動する年俸である。このようなインセンティブがモチベーションに繋がれば、企業の成果は向上する。逆に固定的な年俸であれば、努力に期待することは難しいだろう。結果として、うまく経営され収益を上げている海外のグループ会社では、現地幹部の年俸が日本の親会社より高い・・場合によっては社長より多いということになる。

 現地幹部の意識特性は、日本の社員とはかなり異なっている。日本人は(最近は多少変化はしているものの)長期雇用を前提に働いている。生え抜きの取締役も社員と同様の意識を持っている。彼らはポスト、役割を与えられれば、たとえ固定的な年俸であっても懸命に働く。そこで生み出した成果が、次のポストにつながるからである。たとえそうならないとしても、懸命に働く日本人は多い。つまり、海外現法において、日本の親会社の出資比率が低く、幹部社員の中に親会社の社長より年俸が多い人がいるのは、日本人とは異質なモチベーションによって収益を生み出すための仕組みだと考えることができる。

Timid Investmentの多様なメリット

 Timid Investmentには、これ以外にもメリットがある。たとえば、現地の出資者の持分の割合を日本企業以下にすると、現地株主は、まず配当を求めるだろう。しかし、自分に過半の持ち分があれば、配当の絶対額が十分に多いという前提の下では、利益の一部を再投資に供し、将来の、より大きな配当に期待する可能性も高いものと思われる。

 もう一つのメリットは、リスクが小さいという点である。分散投資はリスクを低下させる。事業投資は経営戦略に基づくものなので、それを株式の分散投資と同様に論じてはいけないのかもしれないが、会社への出資も株式投資の一つであり、日本企業のこのような出資スタイルはリスクを低下させる。そして同じ額の投資原資を分散させるということは、事業投資を多様化できることを意味している。

グループ経営の新たなスタイルが生まれる

 図は出資比率(支配力)と経営管理スタイルによって、グループ会社の経営管理を類型化したものである。グループ経営の基本的なスタイルだとされてきたのは、この中の第II象限の米国型であったといってよいだろう。つまり、100%子会社とすることで親会社の完全な経営管理下に置き、戦略の浸透を実現するということである。

グループ経営原理の新たな類型

グループ経営原理の新たな類型

 これに対して日本では、歴史的にはグループ会社株式を100%は保有しないという例が多かったといってよい(象限I)。この理由としては資本不足、子会社上場慣行などがあるが、日本の親会社はそのかわりグループ企業を人的に支配することによって、経営戦略の浸透を実現しようとしてきた。経営管理が親会社集権的であるという点では、実は日本企業は米国企業と似ていたのである。

 最近の例で面白いのは、インド企業(財閥)による欧米企業買収である。インド企業は株式を100%保有しても、経営は現地の、これまでの経営陣に任せている。子会社になった欧米企業の幹部は、成功すれば同じ企業グループの中で昇進し、高い年俸を得る。会社だけでなく人も買っているということである。子会社のビジネス・経営ノウハウが出資する側にないということが、このようなスタイルの前提になっている(象限III)。

 そして日本企業のTimid Investmentが象限IVである。持分割合は低く、経営管理も現地を尊重する。日本企業は国内では象限Iのままだが、海外ではIVも(もちろん100%子会社もあるのですべてではないが)あるというのが、使い分けとして面白いところである。IIIもIVも新たなスタイルと言ってよいだろう。日本とインドの企業の行動が、これまでグループ経営の基本原理として認識されていたものの修正を求めているのである。

武藤 泰明(むとう・やすあき)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】

1955年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。三菱総合研究所主席研究員を経て現在早稲田大学スポーツ科学学術院教授。併せて(社)日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)理事・経営諮問委員長等を務める。専門はマネジメント、スポーツマネジメント

【著作】

持株会社経営の実際(第2版)日本経済新聞社、2007
マネジメントの最新知識 PHPエディターズグループ 2007
ファンド資本主義とは何か 東洋経済新報社 2005
スポーツファイナンス 大修館書店 2008
プロスポーツクラブのマネジメント 東洋経済新報社 2006
(以上いずれも単著) ほか多数

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