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田村 正勝(たむら・まさかつ)早稲田大学社会科学部教授 略歴はこちらから
デフレ克服に分かち合いと談合を
田村 正勝/早稲田大学社会科学部教授
日本だけがデフレ
日本企業は、リーマンショックによる輸出の急落に驚愕して、輸出大手をはじめとして「五里霧中の異常な縮減」に走った。しかし輸出の回復にともない、景気は昨年4〜6月期から回復してきた。だが回復力は強くない。雇用と賃金の落ち込みゆえに、「消費不況」と「安売り競争」から「デフレ」が進んでいる。
(表1)輸出総額(兆円)と対前年同期比伸び率(カッコ内%)
*年度以外は年率換算
| 総額 | 電気機器 | 自動車 | 対米 | 対アジア | |
|---|---|---|---|---|---|
| 00年度 | 52・0( 7) | 13・7( 13) | 6・9( 0) | 15・5( 5) | 21・4( 16) |
| 08年1〜9月 | 85・3( 4) | 16・4(△1) | 16・0( 7) | 15・1(△10) | 42・4( 7) |
| 08年10月〜09年3月 | 51・8(△39) | 10・1(△39) | 9・7(△52) | 9・0(△45) | 27・3(△35) |
| 09年4〜6月 | 53・4(△36) | 10・5(△34) | 5・7(△60) | 7・6(△47) | 28・2(△36) |
| 09年7〜9月 | 57・8(△34) | 12・1(△29) | 7・6(△58) | 9・3(△36) | 40・9(△8.5) |
先進国のなかで日本だけがデフレ経済となった。表2に見られるとおり、昨年末はロイター指数が00年の2倍近くに達し、その後でも58%増。原材料価格もこれに並行して上昇している。したがって先進諸国では物価も名目賃金も20〜30%も上昇している。
しかし日本の物価と賃金だけが下落を続けてきた。親企業が下請け中小企業の搬入価格を下げさせる。その背景には、大型販売店の値下げ競争もある。それゆえ企業利益、ことに中小企業の利幅が縮小し、したがって従業員の賃金も切り下げられる。こうした状況から、デフレが昂進してきた。
(表2)09年9月の物価・賃金指数とロイター指数
(00年=100、左列08年、右列09年9月)
| 日本 | アメリカ | イギリス | ドイツ | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 卸売物価 | 106・3 | 100・6 | 128・3 | 126・3 | 117・1 | 114・1 | 124・3 | 118・1 |
| 消費者物価 | 99・5 | 98・2 | 125・0 | 125・4 | 116・7 | 120・0 | 115・0 | 115・3 |
| 名目賃金 | 93・2 | 82・8 | 129・0 | 133・2 | 136・4 | 138・8 | 115・0 | 139・6 |
| ロイター指数(06年)145・8 (07年)173・1 (08年)183・1 (09年10月)158・5 | ||||||||
*賃金は全産業、日本の卸売物価は企業物価
深刻な格差経済
この値下げ競争は、経済グローバル化のためだと一般に言われているが、いっそう大きな要因は、非正社員の増加によって、サラリーマン報酬総額が落ち込んでいることだ。正社員の月額平均賃金は40.9歳で31.6万円、フルタイムの非正社員19.4万円、これら双方の従業員の総額平均が29.9万円と10年ぶりに30万円を切った。したがって07年の世帯平均所得も、前年より10万円減って556.2万円で、89年以降の19年間で最低であったが、09年はさらに減少したであろう。
他方で失業率は昨年7月に最悪の5.7%、現在もなお5%台。有効求人倍率も0.4台。また「所得格差」も深刻化の一途。平均所得228万円の半分に満たない所得者が全体の14.9%で、この低所得者の割合は米、メキシコ、トルコについで4番目に多い(OECD08年報告)。同様に格差の度合いを示す「ジニ係数」が、93年の0.25から05年の0.39に跳ね上がり、主要国中でもっとも平等な国の一つから、中国、アメリカ、ロシアに次ぐ格差大国となった。
時短・ワークシェアリング
このようなデフレ・雇用問題を解決するために、第1にオランダ型の「時短・ワークシェアリング」による「所得の上向きの平準化」で内需を拡大し、第2に「中小企業の協調体制」による「値上げと賃上げ」によって正常な経済に戻すことが不可欠だ。
前者は「同一価値労働は同一賃金・社会保障」を目指す「時短・ワークシェアリング」である。他方で全被雇用者の3分の1となっている非正社員を、全て正社員にすることは難しい。これを拙速に強要すれば、倒産と失業がいっそう深刻となる。
そこで“3分の1”を逆手にとって「同一価値労働は同一賃金」を目指すべきだ。正社員も経営者も痛みを分かち合い、行政もこれに積極的にコミットする方向が正しい。連合の今春闘も非正社員の処遇改善に本腰を入れ、賃金の「上向きの平準化」をはかる方針だが、これを、さらに上述の時短・ワークシェアにつなげるべく「政・労・使の協定」が不可欠である。
業界の協同体制と正しい談合
デフレ克服のためには、もう一つ中小企業の「同業者組合」や異業種を含む「地域業者組合」が、「オープンな談合」をして、誰もが納得できる「値上げ・賃上げ」をすべきである。現在の過当競争のままではデフレがひどくなる一方だ。
そのためには、どんな企業連合も自由競争原理に反するという、市場原理主義の誤った考えを修正しなければならない。ただしこのような企業間組織は、社会共同体の精神基盤が不十分な場合、自分たちの業界の利益だけを追って、公共目的を追求しない可能性もある。
これを防ぐために政府や地方公共体は、厳格な監視を怠ってはならないが、それを個別企業に直接するのではなく、第一に企業間組織に「公開」の原理を導入して、これを通じて監督させるべきだ。その方法としては、これらの事業組合に、消費者などの公共の利益を代表する第三者を参加させるやり方もある。
他方で業界は日ごろから、社会的正義を実現する「公共的組織」を心がけて連帯し、大企業の横暴やグローバル経済の荒波に対応して、中小企業を護ることが大切。それは業界エゴではなく、消費者の利益にもつながる。このような業界組織と政府および地域社会の「協同体制」こそが「自由経済」の核心で、それは「秩序ある競争(オーダリー・コンペティション)」にほかならない。
田村 正勝(たむら・まさかつ)/早稲田大学社会科学部教授
【略歴】
1945年 松本市生まれ 長野県立松本深志高校卒業
1968年 早稲田大学第一政治経済学部卒業
1974年 同大学院経済学研究課博士課程修了
1972年 早稲田大学社会科学部助手
1982年 早稲田大学教授(1992−94年 社会科学部長)
【専攻】
経済政策、社会哲学。
【学位・資格】
経済学博士
【学会等】
経済社会学会常務理事(元会長)、社団法人「日本経済復興協会」理事長など。
【主要著書】
『経済社会学研究---近代社会の論理を超えて』(1977、早大出版)
『現代の経済社会体制---両体制の行方と近代の超克』(1980、1990年、新評論)
『世界経済動態論---ナショナリズム、ユニオニズム、グローバリズム』(1983年、早大学出版)
『社会科学のための哲学』(1986年、行人社)
『日本経済の新展開---人間復興の経済・余暇論』(1989年、新評論)
『新時代の社会哲学---近代的パラダイムの転換』(1995、2000年、早大出版)
『世界システム「ゆらぎ」の構造/EU・東アジア・世界経済』(1998年、早大出版)
『見える自然と見えない自然-----環境保護・自然の権利・自然哲学』(2001年、早大出版)
『現代社会とボランティア』(共著、2001年、ミネルヴァ書房)
『甦るコミュニティ----哲学と社会科学の対話』(文真堂、2003年)
『社会科学原論講義』(早稲田大学出版、2007年)
『ボランティア論----共生の理念と実践』(編著、ミネルヴァ書房、2009年)







