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河野 勝(こうの・まさる)早稲田大学政治経済学術院教授 略歴はこちらから

連続世論調査から見る竹島・尖閣問題

河野 勝/早稲田大学政治経済学術院教授

 2012年の8月から9月にかけて起こった一連の衝撃的な事件により、日本とそのふたつの隣国との関係は、急激に悪化した。筆者らの研究チームは、昨年10月から実施してきた世論調査(註1)のデータに基づいて、韓国および中国に対する日本人の感情がどのように変化したか、また竹島および尖閣問題への政府の対応を国民がどのように評価しているかを、客観的にとらえようと分析をすすめている。すでにその一端は、一昨日発売になった『中央公論』にも掲載されたが(註2)、以下では、そこで扱ったのとまた違う角度から、世論の動向にみられるいくつかのパターンを明らかにしていく。

 われわれの調査の特徴は、世論の短期的な変動を跡づけるために、毎月連続して調査を行い、しかも(サンプルの約3分の1にあたる)1000人ほどの回答者には繰り返し聞き取りを続ける「パネル調査」を組み込んで実施している、という点にある。質問項目には、毎回尋ねている常設項目と、調査の時点で重要と思われるオムニバス質問との二種類が含まれる。主要な常設項目の一つは、「各国に対する親しみの気持ちを温度にたとえるとどうなりますか。最も温かい気持ちは100度、最も冷たい気持ちは0度とし、温かくも冷たくない中立の場合を50度として、数字でお答えください」という、いわゆる「感情温度」(feeling thermometer)の質問である。一方、最新の9月調査で尋ねたオムニバス質問のひとつは、竹島と尖閣の問題に対する「日本政府の対応を、全体としてあなたは支持しますか、支持しませんか」というものである。

 図1は、この二つの質問に対する回答をもとにして、韓国と中国に対する国民感情の変化を時系列に表したものである。図中の実線のグラフは、昨年10月から連続して回答し続けている回答者の全回答の平均値を結んだものである。一方、点線のグラフは、そのような回答者のうち、9月の時点で日本政府の対応を「支持しない」もしくは「どちらかといえば支持しない」と回答した人だけを取り出し、その人たちの感情温度の平均を(過去にさかのぼって)結んだものである。この図は、2012年の8月から9月にかけて、韓国と中国に対する日本人の感情が急激に悪化したという、疑いない事実を映し出している。韓国に対しては、李明博大統領の突然の竹島上陸をきっかけとして、また中国に対しては香港の活動家の魚釣島上陸、その後日本の尖閣諸島国有化に反発して反日デモが暴徒化するといった事件を通して、日本国民の親近感が急速に下がっていると予想されていた。われわれの調査データに基づいて作成したこれらのグラフは、国民感情に起こった変化が、短い期間に大きな振幅をもって起こったという意味できわめて異例であることを表しており、事態の深刻さを明瞭に物語っている。

 また、この図は、韓国と中国のどちらについても、実線と点線のグラフが数ポイントの間隔を置きながらも、ほぼ並行して推移している点においても興味深い。これは、ひとつには、政府の対応に不満を感じている人々は、平均すると若干ではあるが、もともと韓国と中国に対する親しみの度合いが低い人々であることを物語っている。しかし、他方では、もともと韓国と中国に対してよい感情をもっていない人たちだけが今回とりわけ政府の対応に批判的であるわけではないことも、明確に表している。政府の対応をネガティヴに評価する傾向は、そもそもの対韓・対中感情にかかわらず、かなり全般的なひろがりをもって生じているとみるべきである。

 さて、前述の『中央公論』に掲載された論文では、政府の対応への評価が回答者のイデオロギーや経済状況と関連性をもち、また特に若い人たちのあいだで政府への批判が顕著であったことを示した。以下では、年齢別にみられるパターンについて、さらに2つの重要な特徴を指摘したい。

 第一は、若い人たちは年齢が高い人たちに比べて、単に政府対応に対して批判的であるばかりか、対外的に強硬な政策を支持する傾向が強い、という点である。われわれの9月調査では、竹島および尖閣問題について、政府の採りうるいくつかの対応策を具体的に示した上で、その賛否を尋ねた。図2は、このうち、竹島について、「自衛隊などによる韓国の実効支配の強制排除」という最も強硬なオプションを「ぜひ実施すべきである」と回答した人々の割合を、年齢別に示したものである。この図から明らかな通り、この対応策についての支持率は、年齢が下がるほど高くなり、20代と60代では10ポイント以上の開きがあることがわかる。

 第二は、今回の竹島・尖閣問題にいたる日本政府の責任についての認識についてである。われわれの調査では、「今回の事件を招いた責任は、これまでの日本政府の外交政策にどの程度あるとお考えですか」と尋ね、「2009年以前(政権交代前)の自民党を中心とする政権の外交政策」と「2009年以降(政権交代後)の民主党を中心とする政権の外交政策」について、それぞれ「おおいに責任がある」「ある程度の責任がある」「あまり責任はない」「まったく責任はない」の4つの選択肢の中から回答してもらった。図3は、このうち自民党および民主党に「おおいに責任がある」と回答した率を、年齢別に表したものである。この図からは、自民党に責任があるとする人々の割合は年齢が高くなるほど多いという、興味深い特徴が見てとれる。その一方で、民主党に責任があるとする人々の割合は、年齢によってそれほど差がない。今回の一連の事件に関して、民主党政権への批判は世代を超えて幅広く共有されている、といわなければならない。

 以上から、8月から9月にかけて起こった国民感情の変化は、きわめて深刻なものであり、韓国と中国に対する対外政策に関して民主党(を中心とする)政権に対しては厳しい目が向けられることがわかる。今後われわれは、調査を続けるなかで、この隣国に対する意識がさらにどう変化するか、そうした対外的な意識が近々予想される衆議院選挙にどのような影響を与えるかを注視していきたい。

図1:韓国(左:青色)と中国(右:赤色)に対する国民感情の変化

図2:年齢層別の強硬オプション支持率

図3:自民党政権および民主党政権の責任

 註1:この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金「日本人の外交に関する選好形成メカニズムの研究」(研究課題番号:23243030)、及び早稲田大学重点領域研究の支援を受けている。毎月の調査は、調査会社(日経リサーチ)に委託し、ウェブを通して実施している。リアルタイムで外交と国際関係に関する民意をとらえているデータの社会的価値にかんがみ、各月の調査結果は迅速に集計し暫定的な分析とともに、早稲田大学現代日本社会システム研究所のホームページ(http://www.cjs-waseda.jp)で公開している。

 註2:飯田敬輔、河野勝、境家史郎「【連続世論調査で追う】尖閣・竹島——政府の対応を国民はどう評価しているか」、『中央公論』2012年12月号。

河野 勝(こうの・まさる)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】
1962年生まれ。上智大学法学部卒。イェール大学M.A.(国際関係論)。スタンフォード大学Ph.D.(政治学)。ブリティッシュコロンビア大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所ナショナルフェロー、青山学院大学助教授などを経て、2003年から早稲田大学政治経済学術院教授。同高等研究所兼任研究員、同大学現代日本社会システム研究所所長。国会図書館調査局客員調査員。BSフジ「プライムニュース」ブレーンキャスター、同「ザ・コンパス」コメンテーターなどもつとめる。

【主要業績】
Masaru Kohno, Japan's Postwar Party Politics, Princeton University Press, 1997.
三宅一郎・西澤由隆・河野勝『55年体制下の政治と経済:時事世論調査データの分析』木鐸社 2001年
河野勝『制度』社会科学の理論とモデル12、東京大学出版会、2002年
河野勝編『制度からガヴァナンスへ―社会科学における知の交差』東京大学出版会、2006年
Masaru Kohno and Frances Rosenbluth, eds. Japan and the World: Japan's Contemporary Geopolitical Challenges. New Haven: Yale University Council on East Asian Studies, 2009.
河野勝編『期待、制度、グローバル社会』勁草書房 2009年
田中愛治・河野勝・日野愛郎・飯田健・読売新聞世論調査部『2009年、なぜ政権交代だったのか』勁草書房 2009年

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