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水島 朝穂(みずしま・あさほ) 早稲田大学法学学術院教授 略歴はこちらから

「特定秘密保護法」の問題性
――原則と例外の逆転へ

水島 朝穂/早稲田大学法学学術院教授

 「開かれた政府」を標榜する民主主義国家においては、情報の公開が原則であって、秘密は例外的にのみ認められる。秘密保護には特別の正当化が必要となる。日本にも、国家公務員法や地方公務員法、自衛隊法、刑事特別法、日米相互防衛援助協定(MDA) に伴う秘密保護法など、秘密保護に関する法的仕組みがすでに存在している。それぞれに問題点を含むが、ここへきて、安倍政権は新たな「特定秘密保護法」を制定しようとしている。これは、日本における、戦後初の包括的な秘密保護法制になるだろう。安倍晋三首相の好む言葉で言えば、戦前のような秘密保護法制を「取り戻す」可能性が高い。なぜ、いま、新たな秘密保護法が必要なのか。この法律の制定を正当化しうる理由(立法事実)は何か。

 政府は、従来からの外国情報機関等による情報収集活動による情報漏洩に加えて、政府の保有する情報がネット流出して世界規模で広がるという事情を挙げる。だが、筆者は内外の2つの要因が背後にあると考える。内的要因は、2010年10月、警視庁公安部のテロ対策の秘密資料が、警察官や監視対象者の個人情報を含めて大量にネット流出したことである。公安警察の「ダーティな」秘密活動を秘匿することが、今回の法律の有力な動機としてあるのではないか。外的要因は、2007年8月に締結された「日米軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)にある。日米が情報交換を円滑化し、装備計画や運用情報などを共有する上での情報保全の確立が求められている。今国会で、国家安全保障会議 (日本版NSC)法も同時に成立するが、情報に関与する要員の人的管理の強化がこの法律の狙いの一つにある。

 この法律は問題点が非常に多いが、4点のみ指摘する。

 第1に、「特定秘密」の著しい不特定性である。行政機関の長が、別表に掲げた情報のうち、公になっておらず、「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」から、MDA秘密保護法の「特別防衛秘密」を除いたものが「特定秘密」とされる。これは、防衛、外交、「特定有害活動」防止、テロリズム防止に関わる4つの情報に区分される。だが、この法律には「その他」という文言が36箇所も出てきて、秘密の範囲が指定権者の裁量で容易に拡大できる仕掛けになっている。政府にとって「有害」な活動が「有害活動」とされかねず、時の政権にとって「不都合な真実」が安易に秘密に指定され得るのである。特に警備・公安警察関係の秘密保護が今回の特徴で、実際、秘密指定に関わる「行政機関の長」として頻繁に登場するのは警察庁長官である。なお、国会審議のなかでは、首相の一日の動きを報じる新聞記事(「首相動静」欄)まで秘密扱いの対象になるような議論もされた。秘密の拡大に関する危惧は払拭されない。

 第2に、秘密にアクセスできる者についての「適性評価制度」(セキュリティクリアランス)である。秘密を扱うことが想定される公務員や契約業者(民間人)は、犯罪歴、渡航歴、家族の状況、飲酒の節度、精神疾患、借金の状況に至るまで執拗に調査される。特に「飲酒についての節度」という文言には驚かされる。閣僚や行政機関の長は「適正評価」の対象にならないが、かつて酒に酔っぱらって記者会見して世界に恥をさらした閣僚がいた。現内閣にも「節度」の怪しい重要閣僚がいることは、新聞記者間では常識である。むしろ、「適正評価」対象外の閣僚などから秘密が漏えいする可能性も否定できない。

 第3は、処罰範囲の広さである。過失も処罰され、教唆、煽動も独立に処罰される。民間人も想定されており、取材活動が秘密漏えいの教唆や煽動にあたるとされる可能性も否定できない。「雑則」で、「国民の知る権利の保障」への言及や、「著しく不当な方法」でなければ取材も認めるとあるが、「不当な方法」の認定は取締り当局の裁量に委ねられている。メディアの活動に対する萎縮効果は免れない。

 第4に、秘密指定の無期限化のおそれである。秘密指定の有効期間は5年だが、5年の延長が可能である。しかも通算30年以上になるときに内閣の承認を求める規定があるので、内閣が公開を承認しなければ、いつまでも秘密にしておくことが可能である。秘密の指定や解除に関して、有識者の意見を聴くという規定があるものの、これは信用できない。なぜなら、「有識者会議」は法律の根拠をもつ審議会などではなく、首相や官房長官の私的諮問機関が想定されているから、「安倍首相のお友だち」で構成されるおそれが強い。各国の秘密保護法制、とりわけ米国のそれと比較しても、政権側に甘い、かなり後退した設計になっている。

 こうした重大な法律を十分な審議もなしに制定することは、ただでさえ情報公開制度が不十分な日本において、情報の公開が例外で、秘密が原則という異様な状態を生み出す危険がある。まずは完成度の高い情報公開法を制定して、そのなかで不開示にすべき情報を慎重かつ厳密に確定していくことが求められる。

戦前の秘密保護法制のもとで、国民に防諜の義務が課せられた。政府がつくった啓蒙用の絵はがき。

戦争末期、政府が検討した決戦非常措置案。極秘の内部資料。

水島 朝穂(みずしま・あさほ)/早稲田大学法学学術院教授

【略歴】

早稲田大学法学学術院教授。1953年東京生まれ。早大法学部卒。大学院法学研究科博士課程を経て、1983年札幌学院大助教授、1989年広島大助教授。1996年現職。博士(法学)。全国憲法研究会代表。主著『現代軍事法制の研究』日本評論社、『はじめての憲法教室』集英社新書、『改憲論を診る』法律文化社、『18歳からはじめる憲法』同ほか多数。NHKラジオ第一放送「新聞を読んで」のレギュラーを2011年番組終了まで14年間つとめる。

水島朝穂ホームページ「平和憲法のメッセージ」

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