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戸波 江二(となみ・こうじ) 早稲田大学法学学術院教授 略歴はこちらから

安倍内閣の衆議院解散決定は、解散権の濫用である

戸波 江二/早稲田大学法学学術院教授

 2014年12月の総選挙は、明確な争点がなく、大多数の国民が関心をもたず、そのため52.67%という戦後最低の投票率で行われ、当初からの予測どおり自民・公明の圧勝に終わった。この結果は、解散の大義のないまま政権のさらなる安定をもくろんで解散・総選挙に打って出た安倍政権のねらい通りのものとなった。しかし、今回の解散・総選挙には、「解散権の濫用」という重大な憲法上の誤りがある。つまり、解散の理由のないまま党利党略によって解散を断行したこと、喫緊の課題である議員定数の是正をしないまま解散したこと、の2点において、憲法上許される解散権の行使の範囲外での解散決定であった。

1.安倍内閣の今回の解散権の行使は解散の大義を欠き、解散権を濫用している

 日本国憲法は衆議院の解散制度を採用しているが、解散権の根拠、主体、時期等に関する明確な規定をもたない。この点で、学説は、衆議院で内閣不信任決議が可決された場合以外でも、内閣は自己の判断で衆議院を解散することができると解しており、それが実務上の慣行にもなっている。しかし、内閣の解散権の行使は全くの自由裁量というわけではなく、憲法上の限界があるというべきである。

 解散制度は、内閣が議会(衆議院)を解散することにより、議会と政府の相互の抑制均衡を保つための制度であるが、民主的な選挙によって選ばれた議会(衆議院)を解散するものである以上、解散には十分な理由がなければならない。たしかに解散は内閣の自由裁量に委ねられているが、それは解散が「民意を問う」という民主的な要素をもつからである。つまり、解散は、重大な政治問題が生じて議会内の政治対立が激化した場合のように、政権の担当者の変更や政策をめぐる根本的対立があった場合に、国民の意思を問うために行われるべきものであって、そのような大義を欠いた解散は「民主的議会に対する挑戦」であって、本来許されないものである。

 今回の選挙には解散の大義がなかった。4年の任期を2年以上残して、11月になって突然の解散の決定があったが、自民・公明の与党はすでに300議席を超える議席を保持して安定しており、選挙に訴えるべき根本的な政治対立もなかった。否、正確にいえば、集団的自衛権や特定秘密保護法、原発再稼働は重大な争点となりえたが、それらはすでに一方的に政治決定がなされており、選挙の争点とはされなかった。他方、消費税延期やアベノミックスは国民の関心をもつ政治対立の争点とはならず、実質的な解散の理由とはなりえない。今回の解散はまったくの党利党略のための解散・総選挙であった。争点なき選挙に対する国民の関心は低く、戦後最低の投票率となった。そのため投票所に足を運んだ人の多数は、安倍政権の現状肯定的な人々であり、自民党圧勝の結果は選挙前とほぼ同じことになった。今回の選挙は何のために行われたのか、まったく説明がつかない。

 解散は、重大な政治対立が生じた場合のみ、行われるべきである。解散の理由のない不必要な解散は無駄であり、それ以上に、解散権の濫用である。国民の関心を引くような重大な政治対立がないにもかかわらず、不必要な解散・総選挙を決定した安倍内閣の責任は重大である。

2.議員定数不均衡を解消しないまま、解散・総選挙に走った

 選挙において選挙区間の選挙人の投票価値の平等が確保されるべきことは、公正な選挙のための大前提である。しかし、現状では議員定数不均衡が放置され、それが違憲状態にあることは最高裁判所も認めている。衆議院については、1993年の小選挙区制の導入にあたって、各県に定数1名を配分したのちに人口比例によって配分規定を定めるといういわゆる一人別枠方式が採用されたが、2011年3月に最高裁はこの一人別枠方式そのものがすでに合理性を失っており違憲状態にあると説示した。2013年11月の最高裁判決でも、ほぼ同様に、一人別枠方式が違憲の状態であるが、国会では是正努力が一定程度なされているとして合憲の判決を下している。

 ところが、今回の解散は、衆議院議員の任期を2年以上残したまま、選挙区の区割りを改めずに、解散の大義をもたずに突如として行われた。これは、定数不均衡を早急に是正せよという最高裁判決を無視するものであり、したがって、選挙の基礎となった定数配分規定が違憲と判断されなければならない。それとともに、定数不均衡を是正しないまま解散を断行した安倍内閣の解散権行使も解散権の濫用であって違憲というべきである。この点に関して、定数不均衡を是正しないのであれば、「内閣の解散権は事実上制約される」とした東京高裁判決(東京高判昭和59年10月19日)がある。

3.なぜ解散の大義のない解散が行われるのか。

 解散の大義をもたない解散は、実は、戦後の自民党長期政権の下で、自民党の都合によってしばしば行われてきた。それは日本の議会政治が成熟していない証左でもあった。解散をするには、民意を問うに足りる重大な政治対立や政治的混乱がなければならないが、大義なき解散は政権の維持・強化という党利党略に基づいていた。今回の安倍内閣の解散は、解散の理由がなく、公正な選挙の大前提である議員定数不均衡の是正義務を放置したまま、安倍首相の政権基盤の安定のみをねらって行われた。それは、安倍内閣による解散権の濫用といわざるをえない。

戸波 江二(となみ・こうじ)/早稲田大学法学学術院教授

【略歴】

東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。日本大学、筑波大学を経て、1996年より本学教授。国際人権法学会理事長、ミュンヘン大学客員研究員、アウグスブルグ大学客員教授、ドイツ憲法判例研究会代表、国家公務員採用Ⅰ種試験専門委員等を歴任。専門は公法学。『講座 憲法の規範力 第1巻 規範力の観念と条件』(共著、信山社、2013年)、『早稲田大学21世紀COE叢書―企業社会の変容と法創造 2 企業の憲法的基礎』(編者、日本評論社、2010年)、『やさしい憲法入門 第4版』(編者、法学書院、2008年)など多数。

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