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大稔 哲也(おおとし・てつや)/早稲田大学文学学術院教授 略歴はこちらから

早稲田大学の中東・イスラーム研究
-「中東・イスラーム研究コース」新設までの歩み-

大稔 哲也/早稲田大学文学学術院教授

 本年4月から、早稲田大学戸山キャンパスに文学部・大学院文学研究科の「中東・イスラーム研究コース」、そして文化構想学部の「中東・イスラーム文化プログラム」が開設された。文学部・文学研究科に新コースが創設されるのは数十年ぶりと聞くが、それほど稀有な改変といえる。同時に、第二外国語(必修基礎外国語)としてアラビア語も加えられることになり、早大における中東・イスラーム研究をめぐる教育環境は、劇的な進化を遂げつつある。しかし、ここまでの道のりは険しいものであり、ここで先人たちの味わってきた多大な労苦に、あらためて思いを馳せてみたい。

マルディンからシリア平原を臨む

 そもそも、早稲田大学創設者の大隈重信(以下、敬称略)が日本の「歴代首相中もっともイスラームに理解が深」かったと評されることは、やはり特記されるべきであろう(小村不二男『日本イスラーム史』)。大隈がソ連治下のムスリム訪問団を迎えて会見したことは、とりわけ有名な話である。1909年にはエジプトからの留学生が早大で2000人を前に講演しており、1939年には文学部に「回教」関連の授業も開設されたとされる。

 この流れが断たれたのは、第二次世界大戦後である。日本の中東・イスラーム研究は、戦前のアジア主義や政治状況への直接的なコミットに対する反省と、占領下の施策などによってか、戦前のイスラーム研究とは決別する形での再出発を余儀なくされたように思われる。その中で、いち早く中東・イスラーム研究の重要性を再認識し、その再興に奔走したのが、松田壽男(文・東洋史)であった。松田は戦前からイスラム文化協会や回教圏研究所などに関わっていたが、1963年に前嶋信次らとともに日本イスラム協会を設立し、日本の中東・イスラーム研究の再興に尽力した。また、戦前の日本のムスリムに関連する貴重資料を早大図書館へ寄贈もしている。日本イスラム協会の本部はしばらく早大に置かれ、松田の弟子たちがその運営も担った。筆者は松田に一度しか面識がないが、大学院進学の折、古賀登教授(文・東洋史)から「イスラム協会を宜しく」と言われたことを記憶している。

2009年アレクサンドリア図書館で国際シンポジウムを主催

 松田の薫陶を受けた中から、早大に中東イスラームの専任職を得た者はいないが、強い関心を持ち続ける研究者は輩出した。そこから他大学へ出て活躍した中には、松本耿郎(聖トマス大名誉教授)らもいた。松本は井筒俊彦の薫陶を受け、イランでも学んだ俊英であり、早大の非常勤も続けたため、筆者の前後の世代には多大な影響を与えた。その後永らく、中東やイスラームの研究を志す早大生の多くが、必要に迫られて他大学大学院へ出て、道を切り拓いてきた。

 近年になり、状況は少しずつ変化し始めた。店田廣文(人科)に加えて、桜井啓子(国際)、家島彦一(教育)、佐藤次髙(文)、小松香織(教育)らが次々と専任教員となり、中東・イスラーム関連の教育を個別に行うようになってきた。また、佐藤次髙(途中から桜井啓子)は早大を拠点に大型研究プロジェクト「イスラーム地域研究」を遂行し、全国の研究者に多大な便宜を供与した。しかし、依然として、ライバルの他大学に比べて、早大は専任数で半分以下という冬の時代が続いていた。

マリ共和国北西部の岩塩板の隊商と共に

 しかし、ここ2~3年の内に劇的な変化が生じつつある。まず、新たに中東やイスラームに関わる専任教員が増員された。加えて、筆者は2014年に赴任したが、それから間もなくして、早大の学生達や学外からの強い要請と世界情勢の変化を受け、悲願であった中東・イスラーム研究の新コース設立に向けて準備が始まった。そして、Vision150と文学学術院構成員の英断などにより、ついに新コース設立へと至ったのである。

タハリール広場の親子(2011年3月18日)

 新コースは中東やイスラームの現在・過去・未来を見据えた学問を志向し、独創的かつ世界発信を続ける研究者や地球大に活躍する人材を育成することを使命としている。「中東・イスラーム」の「中東」の部分は地域空間概念であり、中東に関連する事柄であれば、イスラーム以外についても学べることを示唆している。また、「イスラーム」の部分は、イスラームに関連する事象であれば、世界中いかなる地域の事例であっても学ぶことができることを示している。

 研究・教育の在り方としては、世界的な視野のもとでの活動を重視する。そして、早大と中東現地の研究者・研究機関、そして欧米などの研究機関をトライアングルに連結し、研究・教育を実践していく予定である。研究の方法論は多様であり、とりわけ学部生には自由に、単数・複数の方法論を駆使して、研究対象を深く掘り下げていただきたい。専任教員3名に兼任教授2名と助手が加わる予定だが、幸い多数の非常勤講師陣も加わったため、多様なディスィプリンへの指導対応が可能となった。

 この4月以来、行事も目白押しであり、新スタッフと学生の熱気に押され、筆者も新コースの運営に粉骨砕身している。皆様方には、どうか新コースを温かく見守っていただければ幸いである。

大稔 哲也(おおとし・てつや)/早稲田大学文学学術院教授

専門は中東社会史、中東歴史人類学。1983年早稲田大学第一文学部卒。その後、東京大学大学院人文科学研究科(東洋史学)、カイロ大学文学部で学んだ後、山形大学専任講師、九州大学助教授、日本学術振興会カイロ研究連絡センター長、地域研究学会連絡協議会事務局長、東京大学人文社会系研究科准教授などを経て、2014年より現職。

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