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平山 雄大(ひらやま・たけひろ)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教 略歴はこちらから

ブータンがブータンであるために
-島根県隠岐郡海士町との相互交流-

平山 雄大/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教

ブータンとの繋がり

インドとの国境にあるゲート(2004年、プンツォリンにて)

 私がブータンを初めて訪れたのは、まだ早稲田の学部生だった2004年3月のことでした。当時いわゆるバックパッカーだった私は、ブータンという貧乏旅行者お断りの国(宿泊・食事・移動等をパッケージ化し、1泊最低200ドルを旅行者に課す公定料金制度を導入している)の存在を知り、「何か風変わりだ!怪しい!行ってみたい!」とかねてより思い巡らせていたのです。そのときはインドから国境を越えブータンのプンツォリンという町のみを訪れましたが、そこは喧騒と活気が渦巻くインドの町とは正反対の、長閑でどこか心落ち着く不思議な場所でした。いつか必ずまたこの国に戻ってくる、そんなことを予感しながら旅を終えました。

「地球体験から学ぶ異文化理解」の実習(2006年、ブムタンにて)

 再訪の機会を伺いながらも実現せずに悶々としていた2006年初頭、早稲田でブータンに実習に行く授業が始まるという衝撃的な噂を聞きつけました。平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)提供科目として2006年度から2008年度まで開講された「地球体験から学ぶ異文化理解―ブータン王国での実践を通して学ぶ―」です。大学院に進学し履修資格がなかった私は、担当教員である坂本達先生に「何でもやるので授業に関わらせてください!」と頼み込み、TAとして参加し授業運営や実習の引率補助をさせていただくことになりました。結局、このとき3年間TAを務めた経験は、その後ブータン研究の道に進む直接的な契機となりました。

 ブータンの人々の屈託のなさや育まれてきた多様な文化に惹かれたのはもちろんですが、私が特に興味を持ったのは、チベット仏教を基盤にした文化を強く保護する一方で英語を教授言語とした学校教育を行う等、伝統的なものと近代的なものを共存させながら国家開発を行おうとしているところです。授業終了後も再訪を重ねたり文献収集を続けたりしていましたが、いろいろなかたとの出会いや偶然の繋がりがさらに私をブータンに結びつけ、気がついたら両足がどっぷりはまり抜け出せなくなっていました。現在は主に、ブータンにおける近代学校教育史の解明を目指して研究を続けています。

「秘境」から「幸せの国」へ -GNHを巡る四方山話-

 1907年に王国として成立したブータンは今年で建国110周年を迎える小国で、南はインド(西ベンガル州・アッサム州等)、北は中国(チベット自治区)という2つの大国と接しています。国語であるゾンカ語を含め20ほどの言語が話されており、人口は70万人ほど。2006年にはジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク第5代国王が即位し、2008年には王制から立憲君主制に移行しました。

 1959年1月から50回に渡って毎日新聞に連載された中尾佐助先生によるフィールド調査の記録「秘境ブータン 中尾助教授の探検記」と、同年11月に毎日新聞社から刊行された著作『秘境ブータン』によって、日本におけるブータンの知名度は飛躍的に高まりました。以降「秘境」や「桃源郷」という枕詞をつけて語られ、一般観光客を受け入れ始めた1974年以降もそのイメージを大きくは変えてこなかったブータンですが、ここ十数年は「幸せの国」や「世界一幸福な国」としてメディアに紹介されることが多いです。

 ブータン政府は2002年に策定された第9次5ヵ年計画において「GNH(Gross National Happiness、国民総幸福)の最大化」を国家開発目標に定め、試行錯誤しながら国づくりを行っています。よく誤解されていますが、ブータンは決して「世界一幸福な国」ではありません。正確には「世界一幸福な国となることを目指して、頑張っている途上の国」です。文化保護や環境保全を考慮し、GNPやGDPの増大一辺倒だけではない開発の在りかたを提示・実践し、さらに世界に発信している点が評価され参考にされるべきであって、決して現状のすべてが光り輝いているわけではないのです。2012年、国連本部で開催された幸福に関するハイレベル会合においてジグミ・ティンレイ首相(当時)が以下の通り演説されましたが、まったくもってその通り!だと言えましょう。

 多くの人が誤って信じているが、ブータンはGNHを成し遂げた国ではない。他の大部分の開発途上国と同様、我々は、国民の基本的ニーズを満たすという課題のために奮闘している。他と我々を隔てているものは、幸福という最も根本的な人間のニーズを社会変化の目標としたことである。

ブータンの社会課題解決に向けて

ブータンの地方の風景(2016年、ティンレイガンにて)

 上述の通り、ブータンは近代化を推進するうえで「GNHの最大化」という独自の開発目標を掲げ、その主体性・独自性を保つ努力を怠らずに国づくりを行おうとしています。開発の在りかたを問い直す挑戦事例として各国・地方自治体から注目される存在となっていますが、一方で、当然のことながら近代化に伴う問題も数多く内包しています。とりわけ、都市への人口の一極集中と対をなす地方を巡る問題は今後より一層深刻になると予想され、ブータンがブータンであり続けるために、その打開が急務となることは明白です。とにかくブータンの田舎は元気がありません。自給自足の農業国家と呼ばれたのも今は昔、農業従事人口は右肩下がり、耕作放棄地面積は右肩上がり、過疎化、コミュニティの繋がりの希薄化、貧富の差の拡大、地域間格差の拡大…等、他の多くの国と同様の状況が生まれてきています。

 私は、地域活性化の事例を数多く有する日本の地方からブータンが学べることは多いと考え、特に、「自立・挑戦・交流」を町政の経営指針に掲げ「ないものはない」というキャッチコピーで知られる島根県隠岐郡海士(あま)町の皆さんから指導を仰ぎながら、その可能性を探っています。嬉しいことに海士町は町としてもブータンに興味を持ってくださっており、ここ1年ほどの間に、高校生のブータンへの派遣、ブータンからの視察・研修や短期留学生の受入等を通して相互交流が強まってきています。この4月には、早稲田ボランティアプロジェクト(ワボプロ)のひとつとして「海士ブータンプロジェクト」(アマタン)が立ち上がりました。海士町における就労体験を通して課題や施策を学び、ブータンの地域活性化に主体的なプレーヤーとして携わることを目指した同プロジェクトでは、実際にこれからメンバーが渡航し、現状の把握をもとにアクションを起こしていきます。

「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」の実習(2017年、ポブジカにて)

 2016年4月にWAVOCに着任し、講義科目「ブータン地域研究―社会を見る目を養う―」、海外実習科目「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」、国内実習科目「海士の挑戦事例から学ぶ地域創生」といった関連する科目を立ち上げてきました。自身の研究やアマタンを含め、それぞれの取り組みが相互に影響し合い可能性を広げていくことを期待しながら、引き続きブータンに関わっていきたいと思っています。

“Address by the Hon’ble Prime Minister on WELL BEING AND HAPPINESS at the UN Head Quarters, New York”(2017年10月17日最終閲覧)

平山 雄大(ひらやま・たけひろ)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教

早稲田大学大学院教育学研究科教育基礎学専攻博士後期課程満期退学。内閣府「東南アジア青年の船事業」管理部員、日本学術振興会特別研究員、早稲田大学教育総合研究所助手を経て、現職。専門は比較・国際教育学/地域研究。日本ブータン学会理事、日本ブータン友好協会理事。2013年4月に立ち上げた日本ブータン研究所の諸活動を通して、学際的な相互向上の場の創出及び研究者間のネットワークの確立を図っている。

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