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天児 慧(あまこ・さとし) 早稲田大学国際学術院教授 略歴はこちらから

習近平第二期政権の特徴とこれからの中国

天児 慧/早稲田大学国際学術院教授

 10月18日、第19回中国共産党全国代表大会が開催され24日に閉幕した。習近平の3時間半に及ぶ長大な「政治報告」、その壮大な内容、習近平支持一色に染まった中央・地方の指導部人事、これらによって、まさに「習近平時代の到来」を思わせる大会となった。5年前の18回党大会で就任した習近平総書記の政治的基盤は強くなかった。当時の党や軍の指導部には、江沢民系の人物が目立ち、国家では胡錦濤寄りの共青団系の指導者が目立った。この5年間に自分の権力基盤を強化するために、習は何に力を入れたのか。まずこの点について解説しておきたい。3つの特徴が浮かび上がってくる。

反腐敗闘争と対抗勢力の打撃の繋がり

 第一は、「腐敗の一掃」を錦の御旗にしてライバル、対抗勢力を打撃したことである。反腐敗闘争の最高責任者は習の強い信頼関係にある王岐山であった。18回党大会後「反腐敗闘争」を本格化したが江沢民系で公安部門、石油部門を握っていた周永康ら、軍の二人の副主席、徐才厚・郭伯雄らを追い落とし、他方で共青団系の指導者、令計画を失脚させ、さらにポスト習近平の有力候補の一人、李源朝国家副主席、国務院総理の李克強なども重要な政策決定から排除した。17年7月にはポスト習の最有力候補の一人で若手の重慶市党書記・孫政才も失脚に追いやった。このように反腐敗闘争の結果を見れば、習近平のライバル、ポスト習近平の有力候補者がことごとく政権周辺から排除されていったこと読み取れる。

習近平への権力集中と権威化

 第二は、制度的な習への権力への集中である。江沢民時代以降、党総書記は国家主席、中央軍事委員会主席の主要3権の他に、外交など個別の政策審議・決定を行う幾つかの領導小組のトップを兼任するのが通例であった。しかし習は10以上のこれら領導小組のすべてのトップに就き、その上特に重要な安全保障や改革政策、メディア・サイバーセキュリティーの3つ分野で新たな政策決定機関を新設し、これらのトップもすべて習自身が就任した。

 第三は、習近平の「権威化」である。習への権力の集中、そして様々な大胆な戦略の設定、政策の実践はやがて最高指導者としての習近平の権威化を促すことになった。「中国の夢」の提唱、「2つの百年」(共産党創立百年=2021年と、中華人民共和国建国の百年=2049年)の成功裏の実現、米国指導者に提唱した「21世紀の創造的な新型大国関係」樹立の呼びかけ、陸と海のシルクロード構想、すなわち「一帯一路構想」の提案・推進、その具体化のために初めての中国イニシアティブの国際銀行である「アジア・インフラ投資銀行」も設立した。これらを呼びかけ、実践することで偉大な指導者のイメージを高めた。

「偉大な指導者」のイメージ作りに合わせ、昨年初め頃から習近平を「核心指導者」にするという声が上がり、やがて「習近平同志は党の核心」が正式に決定された。この表現は毛沢東、鄧小平、江沢民に継いで四人目である。さらに今回の大会で「党規約」に「習近平『新時代の中国の特色ある社会主義』思想」という表現が盛りこまれた。まさに習の集権化と権威化の成功といえよう。

長期政権を目指す戦略と指導体制づくり

 では党大会での習近平の「政治報告」の内容、「人事」からどのような特徴が読み取れるのだろうか。私が最も注目した点は、長期目標の設定のし方と、彼自身が長期政権を目指す強い意志を表明したことである。「2つの百年」という長期目標の提起はすでに触れたが、今回それをより具体化すると同時に、その間の2035年に中間目標を設定した。経済はすでに量から質を目指す段階に入っており、国有企業の戦略的再編、環境改善、ハイテク・金融の役割を重視した資本市場の健全な発展を目指し、35年までには、経済・技術の面で革新型国家の上位に立ち、「美しい中国」を実現し、中華文化の国際的影響を高めると主張した。35年からの第2段階では世界一流の軍隊を建設し、トップレベルの総合国力を持つ近代化した社会主義強国を実現すると言明した。35年時に習は82歳、健康であればまだ第一線に立てる年齢で、毛沢東に匹敵する「偉大な指導者」への意気込みを示したといえよう。

 では指導部人事にはどのような特徴が見られるか。党中央政治局常務委員会では、注目されていた王岐山の留任は見送られた。しかし、同時にポスト習近平候補といわれた若手の指導者もトップ7人から排除された。そして政権の運営、各政策決定で自分の考えをスムースに政策に反映させやすい指導者を抜擢し配置することができた。

中国の目指す目標と課題

「政治報告」では数々のバラ色の目標が提唱されている。例えば、➀すべての子供に良質な教育を、②2020年に農村の貧困脱却を実現、③全ライフケアをカバーするヘルスケアシステムを確立、④生態文明改革を加速、そして最後に「まずまずの生活ができる社会を全面的に達成し、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現し、人民の美しく素晴らしい生活を実現するために引き続き奮闘しよう!」という表現で「報告」を結んでいた。

 これらはすべて大変素晴らしく大変結構なことである。しかし、それらすべてを同時的に追求できるほど現実は甘くない。これらの目標を整理すると、⑴国内の健全な経済社会建設、⑵外交・経済交流などによる国際的影響力の増大、⑶世界入り流の軍事力を持ち米国に対抗する軍事大国の建設に集約できるが、結局習近平体制の優先順位は何なのか。⑴さらには⑵にまい進することが国内外で強く求められるが、「歴史の屈辱」の払拭、「中華民族の偉大な復興」にこだわるとすれば⑶が最優先されるかもしれない。習近平の中国を⑴⑵への方向性に促進できるよう、これからも注意深く見守っていきたい。

天児 慧(あまこ・さとし)/早稲田大学国際学術院教授

【現職】
早稲田大学国際学術院大学院アジア太平洋研究科教授。早大現代中国研究所所長(人間文化研究機構現代中国地域研究拠点代表)。文科省グローバルCOE「アジア統合を目指す世界的人材育成拠点」プログラム代表 岡山県出身1947年生まれ。専門:現代中国論・アジア国際関係論。東京大学客員教授を兼任。

【略歴】
早稲田大学教育学部卒業。一橋大学大学院博士後期課程社会学研究科で博士号取得。琉球大学助教授、共立女子大学国際文化学部教授、青山学院大学国際政治経済学部教授を経て、2002年4月より現職。2006-08年同研究科科長、1999年アメリカン大学、2009年ブリティッシュコロンビア大学、2010年オーストラリア国立大学で客員教授。1986-1988年駐中国日本大使館専門調査員、1999―2001年アジア政経学会理事長。

【主著】
『アジア地域統合講座』全12巻、編集代表(勁草書房、2012年、文科省グローバルCOE「アジア統合を目指す世界的人材育成拠点」プログラム成果)、『日中歴史の「変わり目」を展望する』編著、勁草書房、2013年、『日中対立-習近平の中国を読む』筑摩書房、2013年(韓国語翻訳)、『中華人民共和国史 新版』岩波書店、2013年、共編著『アジアの和解』岩波書店、2016年。