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橋本 周司(はしもと・しゅうじ) 早稲田大学副総長・理工学術院教授 略歴はこちらから

早稲田が国境を越えるために グローバル化改革の真意

橋本 周司/早稲田大学副総長・理工学術院教授
2018.1.22

 Waseda Vision 150は、日本の枠を越えて世界の早稲田大学になることを展望するものである。そのためには、開放性、多様性という建学以来の早稲田大学の特徴に加えて、グローバルな流動性の確保が求められる。Waseda Vision 150の始動から5年を経過し、教育研究のグローバル化に係わる多くの指標で国内第1位となるなどの成果がでてきた。また、これを加速する計画として採択された文部科学省の研究大学強化促進事業(2013年)およびスーパーグローバル大学創生支援事業(2014年)の中間評価が昨年実施された。ここでは、早稲田大学の目指すグローバル化の意味を考えてみたい。

教育のグローバル化

 スーパーグローバル大学創成支援事業の「Waseda Ocean 構想」では、10年間で10万人のグローバルリーダーを輩出することを目指している。ここでいうグローバルリーダーとは、語学力を駆使して国際的にビジネスや学術で活躍するというような狭い人材像を意味するものではない。どこにいても、どの分野であっても、世界を視野に入れて直面する課題に取り組み、人々のよりよい未来への強い意志を持ち、多様な価値観・文化的背景を持った人々との対話を通して、しなやかに解決をリードできる人間力を備えた人材を想定している。

 そのためには、専門の学識に加えて、論理的な思考力、コミュニケーション力、またリードするばかりでなく時には適切にフォローできる能力も必要である。すべての学生にこのような能力を身に付けてもらうために、早稲田大学は、国家間を隔てる国境に妨げられることのない学習環境を整備したい。そのための基礎が、外国語の習得であり、留学体験ということになる。また外国人留学生が増えれば、異文化との接触・交流の機会が豊富になる。これは日本人学生にとって好ましいばかりでなく、全世界にむけて大学を開くということでもある。これが教育のグローバル化である。

海外への学生の送り出しと、留学生の受け入れ

 2016年度に早稲田から海外に留学した学生は4,086名であった。このうち、留学により単位を取得した学生は2,770名であって、短期あるいは単位取得を伴わない者が多く含まれている。もちろん短期留学であっても海外での体験は貴重なものであるが、次の機会には、できれば腰を落ち着けて海外で学んで欲しいと思う。事実、短期留学の後で本格的な留学あるいは海外での就職を考える学生も少なくない。適切にプログラムされれば、短期留学にも単なる体験以上の意義があることがわかる。

 一方、海外からの留学生も年々増えている。2016年度は総計で7,156名となり、早稲田大学は外国人留学生受け入れが日本国内で最も多い。問題は、行き来する国、地域の偏りである。日本からは英語圏への留学が、日本へはアジアからの留学が大多数を占める。国際語としての英語の重要性は言うまでもないし、早稲田大学でも授業の英語化が進んでいるが、世界の文化は極めて多様であって、英語だけではそれを実感するのは難しい。

 英語化はグローバル化の第一歩にすぎない。音声認識と自動翻訳が実用化して多言語対話が日常的になり、国籍という人工的な括りに捕らわれず、また、人種・国境を意識しないで共通の価値と個々の事情を学び教え合える真にグローバル化したキャンパスの実現も、もはや夢物語ではない。早稲田大学が非英語圏にあることは弱みであるかのように言われるが、むしろ非英語圏にあることが強みになる日が、近い将来かならず来るはずだ。

研究体制のグローバル化

 「知りたい」そして「知っていることを活かしたい」ということは、多くの人の共有する欲求である。知と技を探求する学術研究はもともと人類共通のものであり、国境とは無縁である。ここに研究のグローバル化の根本がある。

 最近、我が国の研究の国際的な地位低下を憂えて、国際的な認知度の向上を狙いとして国際共同研究の実施が推奨されているが、学術研究の本来的なグローバル性を考えるならば、元来それが自然なことである。早稲田大学には留学生ばかりでなく海外から多くの研究者が来訪しており、中長期滞在の研究者は2016年度には839名であった。また、海外へ中長期派遣された研究者は190名にのぼる。出版された全論文の中で国際共著論文の割合は40%を超えた。

 このように、研究とそれに裏付けられた教育において、早稲田大学のグローバル化は大いに進展している。しかしWaseda Vision 150 の掲げる「卒業までに全学生が留学」「海外からの留学生10,000人」などの目標実現は、まだ道半ばである。早稲田大学のグローバル人材育成と研究のグローバル化は表裏をなして推進されているが、その目的は、我が国の産業振興や経済発展に資することだけではない。毎年巣立っていく1万人の卒業生が、また、早稲田での国際共同研究の成果が、日本はもとより世界のいたるところで、人々と地域のよりよい未来に貢献することを通して、そのような人材と研究成果をうみだした国として、世界における我が国の地位向上に寄与することを希求する。

グローバル化:日本全国区から全世界区へ

 我が国の大学のグローバル化は始まったばかりであるが、民間企業は20年以上も前にグローバル化の大波を経験し変革を強いられた。現在の大学に対する産業界からの注文の多くは、その体験に基づくものと思われる。それらの指摘は、企業とは異なる側面を持つ大学には当てはまらないこともあるが、大いに参考になる点も多い。

 さらに、歴史を遡るならば、明治新政府による大学設置に思いが及ぶ。近世日本の高等教育の中心は藩校であって、名称のとおり、そこに学ぶ学生は藩内からの者に限られていた。しかし維新後極めて短期間で日本全土を対象とする帝国大学や師範学校など創設された。翻って現在の大学グローバル化の改革は、藩校から全国区の大学への改革に相似している。ただ、当時は政治的な垣根としてあった藩境が明治政府によって取り払われたのに対して、現在の世界には相変わらず国境があるということがグローバル化(全世界区化)を難しくしている。

 しかしながら、企業のグローバル化の進展を見れば、これも越えられない課題ではない。経済のグローバル化に対して、知のグローバル化は、より多くの幸福と繁栄を世界にもたらすはずである。また、藩校とは別に、いくつかの私塾はすでに江戸期から全国区になっていたことをみれば、大学のグローバル化は私学にこそ相応しい道だと思うのである。

橋本 周司(はしもと・しゅうじ)/早稲田大学副総長・理工学術院教授

1970年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。同大学院理工学研究科を経て、1977年博士号取得(工学博士)。
東邦大学専任講師、助教授、早稲田大学理工学部助教授を経て、1993年より早稲田大学理工学部教授、2004年9月より理工学術院教授。
2006年9月より2010年9月まで理工学術院長等歴任。
2010年11月より現職、2014年より大学総合研究センター所長兼務。

専門は、計測・情報工学、確率過程の応用、画像処理、ロボティクス、感性情報処理など。
主な著書は、『複雑系叢書第4巻』(共立出版、 2007年)、『岩波講座マルチメディア情報学第1巻』(岩波書店、1999年)、『人間型ロボットのはなし』(日本工業新聞社、1999年)など(いずれも共著)。