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戸田 貴子(とだ・たかこ) 早稲田大学国際学術院教授 略歴はこちらから

世界をつなぐ日本語教育
-グローバルMOOCsからの発信-

戸田 貴子/早稲田大学国際学術院教授
2018.5.21

世界に広がる日本語教育と早稲田大学

 国際交流基金が137の国・地域において実施した2015年度「海外日本語教育機関調査」の結果によると、世界の日本語学習者数は3,651,715人でした。日本語は世界中で学ばれている言語です。

 早稲田大学は日本で最も多くの外国人留学生を受け入れており、留学センターの統計データによると、2017年度の通年在籍者は7,476人に上っています。外国人留学生を対象とした日本語教育の規模も全国一を誇っています。早稲田大学の日本語教育の歴史は長く、1884年に初の海外留学生の受け入れが始まり、1905年に清国留学生部が開設されました。1930-1940年代には日系二世の受入れも行い、早稲田国際学院が開設されました。

 日本語教育は常に社会の変化に影響を受けつつ発展してきました。近年、日本語学習者の到達目標の多様化と高度人材育成の必要性が指摘されています。日本への留学、大学進学、就職以外にも、東南アジアの経済発展と日系企業の進出により、現地でも多くの就業機会が生まれています。また、日本政府は2008年度より経済連携協定による外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れを開始しました。日本語習得は、国家試験合格や業務遂行のために不可欠ですが、大きな壁となっているのが現状です。

音声学者として「発音の壁」に立ち向かう

 外国語学習において「発音」が大きな壁になることを経験した方も多いでしょう。特に、大人になってから外国語学習を始めた場合には、文法や語彙は暗記すればある程度上達しても、発音には母語のクセが残るのではないかという印象が持たれているのも事実です。

 そこで、年齢要因と発音習得度の関係を検証するために、「音声習得ストラテジーと発音学習システムに関する実証的研究」JSPS科研費JP18320094基盤研究(B)(代表者:戸田貴子)において調査を行ったところ、日本語の学習開始年齢と発音習得度には相関関係があり、早期に学習を開始したほうが発音習得には有利であることが分かりました。しかし、臨界期を過ぎて学習を開始した場合でも、学習次第でネイティブレベルの発音習得は可能であることも明らかになりました。また、学習成功者の言語背景は特定の母語だけに限られていなかったことから、学習者は年齢や母語を問わず「発音の達人」になる可能性があることが示唆されました。

 では、「発音の達人」を目指す学習者に対して、どのように学習支援を行ったらいいのでしょうか。従来型の対面授業では、教師がモデル音声を提示し、学習者がリピートして、教師がその発音を直すというイメージが持たれることが多いと思います。知識と経験の豊富な教師による丁寧な対面指導に勝るものはありませんが、それには時間的・物理的な制約があり、世界中の日本語学習者に発音の学習機会を提供することは不可能です。また、世界規模の日本語教育の発展と相互理解のためには、非母語話者教師の存在が不可欠ですが、「日本語母語話者ではないので、日本語の発音に自信がない」という非母語話者教師が多いのが現状です。

 そこで、「e-Learningを活用した日本語発音学習支援と自律学習モデルに関する研究」 JSPS科研費JP26370616基盤研究(C)(代表者:戸田貴子)の研究成果を注ぎ込み、世界中の誰もがいつでもどこでも発音学習ができるよう、Waseda Course Channelで2015年度春学期から講義動画を一般公開しました(図1)。この講義動画は、2012年度秋学期に立ち上げた「最初の5週間の対面授業のあと、残りの10週間はCourseN@viを活用してオンライン学習を行う」、つまり学期途中で「教室が消える」という日本語発音授業で活用しています。近年、米国の教育改革のニュースの中で最も注目されているテーマのひとつといわれる「ブレンディッド・ラーニング」という新しい学びのかたちが、以前から早稲田大学で実践されてきたのです。注1

図1 Waseda Course Channel
(よく見られている動画・資料一覧 2017年度年間集計第一位)

 このような研究教育活動を経て、2016年4月、全学のMOOCsプロジェクトを担うWasedaXチームにNihongoXプロジェクトが発足し、グローバルMOOCsにおける「世界初の日本語講座」としての新たな挑戦が始まりました。

注1 本システムを活用した日本語教育研究センター設置の留学生対象日本語科目は2013年度に第1回Waseda e-Teaching Awardを受賞し、日本語教育研究科設置の実践研究科目は2015年度秋学期早稲田ティーチングアワード総長賞を受賞しました。

■グローバルMOOCsのedXとWasedaX

 近年のICT技術の革新によって、学習のあり方は大きく変化しました。教室という空間の中で、決められた時間内に教師と学習者が対面で授業を行うという従来の授業形態から空間や時間の制約を取り払い、いつでもどこでも学習を行うことが可能になったのです。

 2012年、米国を中心に世界規模のグローバルMOOCsのプラットフォームが開発されるようになり、スタンフォード大学によるCourseraや、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の共同開発によるedXにおける講座開設の取り組みが広がっていきました。そのあとを追うように、2013年10月、日本におけるローカルMOOCのJMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)が設立されました。

 WasedaXチームはNihongoXプロジェクトの成果として、2016年11月に、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の共同開発によるグローバルMOOCsのedXにおいて、Japanese Pronunciation for Communication(JPC)を開講しました。本講座は、世界中の日本語学習者・日本語教育関係者に向けて無料配信されており、現在までに170の国・地域から登録した受講者は33,500名を超えています(2018年4月22日現在)。JPCは2019年3月までの期間、半年ごとに再開講を継続することが決定しており、今後も引き続き公共的に開かれた公開教育資源としての役割を担うことになっています(図2)。

 2017-2020年度「グローバルMOOCsにおける日本語発音オンライン講座の運用に関する実証的研究」 JSPS科研費J17H02355基盤研究(B)(代表者:戸田貴子)の研究助成を受け、これからもJPCの教育コンテンツに関する研究と教育実践は続きます(図3)。グローバルMOOCsにおける「世界初の日本語講座」のビッグデータの分析をとおして、教育効果を検証し、教育の質改善を目指して発信していきたいと考えています。

図2 Japanese Pronunciation for Communication (JPC)

図3 JPCの教育コンテンツ

戸田 貴子(とだ・たかこ)/早稲田大学国際学術院教授

【略歴】
<所属> 早稲田大学国際学術院 日本語教育研究科
<職位> 教授
<専攻分野> 音声学・日本語教育
<主要学歴>
オーストラリア国立大学文学部言語学科卒業(First Class Honors)
オーストラリア国立大学大学院人文科学研究科博士課程言語学専攻修了(Ph.D)
<主要経歴>
オーストラリア国立大学アジア研究学部ジャパン・センター専任講師
筑波大学文芸言語学系留学生センター専任講師
早稲田大学日本語教育研究センター専任講師
早稲田大学日本語教育研究センター助教授
早稲田大学大学院日本語教育研究科助教授
早稲田大学大学院日本語教育研究科教授(2006年4月~現在)
<主要学術業績:図書>
The Critical Period Hypothesis and Phonological Acquisition of Japanese, Quantitative Approaches to Problems in Linguistics, LINCOM Studies in Phonetics, 2012年(共著)
『日本語教育と音声』くろしお出版,2008年(編著)
Perspectives on Teaching Connected Speech to Second Language Speakers, Focus on form in teaching connected speech, University of Hawai’i Press, 2006年(共著)
Second Language Speech Perception and Production: Acquisition of Phonological Contrasts in Japanese, Lanham, MD: University Press of America, 2003年(単著)
<主要教育業績:教材他>
『シャドーイングで日本語発音レッスン』(共著)スリーエーネットワーク,2012年
『コミュニケーションのための日本語発音レッスン』(単著)スリーエーネットワーク,2004年
韓国版『일본어 발음』Nexus Press, ソウル
中国版『让你沟通自如的日语发音课本』世界图书出版公司,北京
edX (NihongoX) 「Japanese Pronunciation for Communication」 (2018年4月22日参照)