早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

YOMIURI ONLINE | 読売新聞

  • トップ
  • オピニオン
  • ニュース
  • 研究力
  • 文化
  • 教育
  • キャンパスナウ
  • 早稲田評論
  • English

ホーム > オピニオン > サイエンス

オピニオン

▼サイエンス

守屋 和佳(もりや・かずよし)/早稲田大学教育・総合科学学術院准教授  略歴はこちらから

化石に刻まれた太古の地球と生命のドラマ
—アンモナイトの進化と古生態—

守屋 和佳/早稲田大学教育・総合科学学術院准教授

地球と生命の歴史

 地球は約46億年前に誕生し、それ以降、地球とそこに育まれた生命は様々な歴史を経て、現在の姿にたどりつきました。現在の地球上に存在する生命のような、私たちの肉眼で見ることのできる大きさの生物は、およそ6億年前に誕生しました。つまり、地球誕生以降の約87%の期間にあたる最初の40億年間は、私たちの目に見えるような生物はほとんど存在しませんでした。だからといって、その間の地球は生命の存在しない不毛の惑星だったわけではありません。地球誕生から約40億年間はバクテリアなどの微生物が大活躍していた時代だったのです。

 私たち人類について考えてみると、ヒトの祖先がチンパンジーなどと分岐したのが現在からおよそ700万年前と考えられています。つまり、人類は地球全体の歴史からすると、たった0.15%の期間しか存在していないのです。

過去の地球に繁栄した生物の記録

 では、過去に地球上に存在した動物は、どの程度存続したのでしょうか?おそらくみなさんに最も馴染みのある過去の動物は恐竜でしょう。恐竜のグループはおよそ2億5千万年前の三畳紀に誕生し、6千6百万年前の白亜紀末に絶滅するまでの約1億8千万年の間、まさしく地上を支配した動物でした。ですが、恐竜でさえ、地球全体の歴史の約4%の期間しか存在していなかったのです。恐竜絶滅の要因は地球外天体(小惑星)が地球に衝突したことであると考えられています。同じ頃、海洋に大繁栄し、恐竜とともに絶滅した動物がアンモナイトです。アンモナイトは、約4億1千万年前に出現し、白亜紀末に絶滅するまでの約3億4千万年間、地球の歴史のおよそ7.5%の期間に存在した動物です。私たちの目に見える生物が存在した期間が、地球の歴史のおよそ13%の期間ですから、アンモナイトはその半分以上もの期間地球上に存在した動物ということになります。

 また、約6億年の動物の進化の歴史には、5回の大量絶滅と呼ばれる事象がありました。絶滅とは、ある種の生物が子孫を残すことなく地球上から消滅することですが、大量絶滅とは、その名の通り、通常の状態よりも大量の生物が同時に絶滅した事象をさします。なんとアンモナイトはそのうちの4回の絶滅イベントを経験しており、最初の3回はかろうじて生き延びましたが、最後の大量絶滅イベントである、白亜紀末に遂に完全に滅びました。このように、アンモナイトは、過去の地球上に存在した動物のなかでも、地球の環境変動に対応し続けながら存続し、最後には絶滅するという、地球と生命の進化のダイナミックな歴史の証人ということができます。

アンモナイトという生き物

 では、アンモナイトとは一体どのような生物だったのでしょうか?現在の地球上に生存し、アンモナイトに最も近縁な生物は、イカやタコなどの頭足類(軟体動物)です。アンモナイトは、殻室と呼ばれる、気体が充填された部屋をたくさんもった殻を有し、そのおかげで、海洋の中で浮きも沈みもしない、中立の浮力をもっていたと考えられています(図1)。一見すると、現在のイカとは大きく異なるように見えますが、コウイカなどの一部のイカも浮力を得るための殻を持っており、アンモナイトと多くの共通点があります。ただし、イカは殻を体の中に持っているのに対し、アンモナイトは体の外に殻があったという違いがあります。一方で、アンモナイトの外見はペットショップでも見ることのできるオウムガイと良く似ていますが、オウムガイはアンモナイトの祖先にあたる生物で、イカとの関係に比べると異なる点が多いこともわかっています。ちなみに、アンモナイトが絶滅しているにも関わらず祖先にあたるオウムガイは今でも生き延びており、この状況も大きな謎ですが、これは別の機会に記しましょう。

図1:アンモナイト、オウムガイ、コウイカ、トグロコウイカの殻写真(著者撮影)
アンモナイト(A)と現生頭足類オウムガイ(B)、コウイカ(C)、トグロコウイカ(D)の殻。A1=白亜紀のアンモナイト(Gaudryceras)の化石。殻は体の外側にある。A2=A1の縦断面。多数の殻室をもち、その先には住房と呼ばれる体が入る空間がある。住房は現在泥で充填されている。B1=現生オウムガイの殻。殻は体の外側にある。B2=B1の縦断面。多数の殻室をもち、その先には住房と呼ばれる体が入る空間がある。C1=現生コウイカの殻。殻は体の内部にある。C2=コウイカの殻の縦断面。オウムガイのように巻いてはいないが、多くの殻室をもつことは共通している。一つ一つの線で区切られた区間が殻室に相当し、コウイカは非常に多くの殻室を持つ。D1=現生トグロコウイカの殻。殻は体の内部にある。D2=トグロコウイカの殻の縦断面。樹脂に包埋して切片にしているため、殻室は樹脂で埋められている。トグロコウイカも多くの殻室のある巻いた殻を持つ。

 アンモナイトは、海洋の中で中立の浮力をもっていたと記しましたが、このことと、現生のオウムガイとの外見上の類似から、アンモナイトは海洋の中を自由に遊泳する生物だと推測されていました。また、プレシオサウルスのような首長竜の胃からもアンモナイトのカラストンビ(顎板)が多数発見されたことから、首長竜はアンモナイトをハンティングしていたと、考えられていました。

明かされることのなかったアンモナイトの秘密

 ところが、アンモナイトが積極的に海洋中を遊泳する生物であることを示す科学的証拠は、200年以上のアンモナイトの研究史においても得られていなかったのです。これまでの研究では、アンモナイトの化石のさまざまな形態を計測し、現生のオウムガイやコウイカと比較したり、流体力学的な実験が行われたりしてきましたが、どれも決定打に欠けていました。そこで、私は、新たな考え方を導入してこの問題の解決を試みました。アンモナイトの殻は、現在の二枚貝や巻き貝と同じ炭酸カルシウムから形成されており、その名の通り炭酸イオン(CO32-)とカルシウム(Ca2+)を含んでいます。その中の酸素(O)には、質量数の異なる安定同位体である、16O、17O、および18Oが存在します。アンモナイトの殻に含まれるこれらの安定同位体比には非常におもしろい性質があり、16Oと18Oの比率はアンモナイトが殻を形成したときの海水温で決定されることがわかっています。つまり、化石として保存されているアンモナイトの殻の16Oと18Oの比率を測定すると、アンモナイトが生きていた際の、アンモナイトの周囲の海水温を算出することができるのです。さらに、アンモナイトが生きていた当時の海洋の表層から海底までの水温の勾配がわかっていれば、アンモナイトの殻が示す水温と比べることで、アンモナイトの棲息水深を決定することができるのです。

ついに明かされた秘密

 この原理を利用して、最後の絶滅直前のアンモナイトの棲息水深を決定したところ、思ってもいない結果を得ることができました。分析を行う前の私は、それ以前の多くの研究者が考えていたように、アンモナイトは海中を遊泳していた生物なので、海洋の表層から中層程度の水温が算出されるだろうと予測していました。ところが、様々な形をした9種のアンモナイトを分析したところ、それらのすべてが海底付近の水温を示したのです。つまり、これらのアンモナイトは海洋中を遊泳していたのではなく、海底付近に棲息していた生物であったことが明らかになったのです。これには大変驚きましたが、アンモナイトがイカやタコに近縁な生物であることを思い返すと、かえって納得がいくものでした。現生の殻を持ったイカ(コウイカやコブシメなど)やタコの一部には積極的に遊泳をせず、海底付近を漂うように生活している種がいることが知られています。そこで、私は、分析に用いたこれらの9種のアンモナイトは、海底付近を漂うように生活していた、と結論しました。つまり、首長竜はアンモナイトをハンティングしていたのではなく、口をスプーンのように使い、海底付近のアンモナイトをすくい上げるように捕食していたと考えられるのです。

新たな謎と太古の地球生命史への挑戦

図2:これまでに棲息水深が明らかになったアンモナイトの系統
ジュラ紀から白亜紀のアンモナイトの系統図と、これまでに明らかになっているアンモナイトの棲息水深。白塗りの記号は海洋の表層~中層を遊泳していたグループ。灰塗りの記号は海底付近に棲息していたグループ。縦軸は年代(×百万年前)で、各々の系統においてデータが得られた年代に記号を配置している。星記号は筆者自身のデータによる結果で、丸記号はその後の研究による結果を示す。

 その後、世界中の研究者がこの研究に追随し、より多くの種のアンモナイトの分析を行いましたが、驚くことに、その多くが海底付近に棲息していたことが明らかになりました(図2)。ところが、ここでまた大きな謎が浮かび上がりました。白亜紀末に恐竜と同時に絶滅したアンモナイトのほとんどは、海底付近に棲息していたことが明らかになりましたが、一部のアンモナイトは、従来の考えのように、海洋中を遊泳していたことが明らかになりました。つまり、「海底付近を漂う」と「海洋中を遊泳」という全く異なる生活様式を持っているアンモナイトのすべてが同時に絶滅したことになります。これは、アンモナイトの絶滅には棲息水深から推測される生活スタイルは無関係で、他の要因があったことを示唆しています。また新たな太古の謎を解く旅が始まりました。

守屋 和佳(もりや・かずよし)/早稲田大学教育・総合科学学術院准教授

【略歴】

1997年早稲田大学教育学部理学科地学専修卒業。2002年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、英国サウサンプトン海洋センター客員研究員、カナダブリティッシュコロンビア大学客員研究員、早稲田大学教育学部助手などを経て、2015年から現職。専門は進化古生物学、古海洋学。近著に『Ammonoid Paleobiology: From Anatomy to Ecology』(Springer)(分担執筆)など。

  • 早稲田大学東日本大震災復興支援室 早稲田大学東日本大震災復興支援室
  • 大学体験web もっと動画でワセダを体験したい方はこちら
  • QuonNet まなぶ・つながる・はじまる、くおん。