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赤沼 哲史(あかぬま・さとし)/早稲田大学人間科学学術院准教授  略歴はこちらから

人類からバクテリアまでの全生物共通のルーツを探る
~地球生命の起源と極限環境生物~

赤沼 哲史/早稲田大学人間科学学術院准教授

はじめに

40~42億年前に誕生した最初の生物(生命の起源)から現在に至るまでの生物進化を表した模式的な系統樹

 地球上で暮らす生物は、概して共通の遺伝の仕組みを持っています。遺伝の仕組みの精巧さ、複雑さから、同じ仕組みが独立に何度も出来上がったとは考えにくく、むしろ、地球上の全生物はたった一つの共通祖先生物の子孫であり、その共通祖先が既に現在の遺伝の仕組みを備えていたと考える方が合理的です。もしそうだとすると、バクテリアからヒトまで、地球上のすべての生物は共通のルーツを持ち、たった1回の「生命の起源」に由来すると考えることができます。生物が進化した道筋を樹木が枝分かれする様子になぞらえて描写した進化系統樹も、現存のすべての生物は1つの起源に由来することを示しています。では、「最初の生命」はいつ頃、どこで、どのようにして誕生したのでしょうか?

生命の誕生場:海底熱水地帯?陸上の温泉?それとも宇宙?

 生命の起源については、多くのことが未解決のままです。その一つが最初に生命が誕生した場所です。今から35~41億年前には既に地球に生物が存在していたことを示唆する証拠がいくつか報告されています。したがって、それよりも前には生命が既に誕生していたことになります。授業中に生命が誕生した場所について尋ねると、7~8割の学生が「海底の熱水地帯」と答えます。海底から噴出する熱水中には、生命や生命の部品を作るために必要となる無機物が多く含まれており、海底熱水噴出孔は生命の誕生場として有力な候補地の一つです。しかし、海水と生体内のカリウム/ナトリウム比の不一致、海水中では生命の部品となる分子の濃度が薄まってしまうこと、水の豊富な環境では加水分解が脱水縮合(合成)よりも起こりやすいことなどから、乾湿の繰り返しがあり、容易に濃縮が起こる陸上の温泉や小さな池、海岸の潮だまりを生命の起源の場所として有力視する主張も増えてきました。また、生命は他の天体で誕生し、隕石とともに地球に運ばれたという説もあります。実際、細菌が生きたまま宇宙空間を移動できるという発見があり、私たちの祖先はET(Extra-Terrestrial;地球外生命体)だったという考えを、あながちファンタジーとは言い切れなくなりました。

 このように、生命の誕生場だけでもいくつかの有力な説があります。そして、現在も惑星科学、地球化学、そして生物学を専門とする多くの研究者が、それぞれの工夫に基づいた実験を計画し、この難問に取り組んでいます。

最初の生命が誕生した場所として有力な3つの環境。左から海底熱水鉱床、陸上の温泉地帯、海岸の潮だまり。

生命の起源の解明に向けて

 過去の生物や環境についての情報の多くは、主に地質学的な調査によって発掘された岩石や化石の分析から得られてきました。化学や生物学を専門とする研究者らは、太古の地球を模倣した環境を実験室内で再現し、その環境下で生命の誕生に必要となる部品が実際に合成できるか検証する、「ボトムアップ型」あるいは「合成生物学」と呼ばれる方法で、生命の起源の解明に取り組んでいます。一方、進化論の祖であり、「種の起源」の著者として有名なチャールズ・ダーウィンは、「生物種間で共通する特徴は、それらの種の共通祖先に由来する」と述べています。この考えを、現在の生物が持つ遺伝子の塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列に当てはめると、過去の生物が持っていた遺伝子配列やタンパク質配列を推定できます。著者らは、現在の多くの生物が持つタンパク質のアミノ酸配列を比較することによって、実際に過去のタンパク質を復元してきました。耐熱性やpH依存性などのタンパク質の性質は、そのタンパク質を持つ生物の生息環境と密接な関連があることが知られています。したがって、復元したタンパク質の性質を調べれば、過去の生物がどんな生き物で、どんな環境に生息していたのかを推定できます。このような方法によって、著者らは今から35~40億年前頃に生息した「全生物最後の共通祖先」と呼ばれる生物が80℃を超える高温環境に生息していたことを突き止めました。しかし、「全生物最後の共通祖先」の登場は「生命の起源」よりは新しい出来事です。そこで、最新の研究では、「全生物最後の共通祖先」からさらに過去へと遡り、最初期の生物がどのような環境下でどのように進化したのかを明らかにしようとしています。

極限環境生物と生命の起源

 現在の地球上にも80℃を超える環境に生息する微生物が多くいます。このような微生物は超好熱菌と呼ばれ、100℃を超える環境に生息している場合もあります。酸性やアルカリ性の環境にも微生物が生息しています。また、海水の5~10倍もの高塩濃度の環境で生息する微生物もいます。このような、私たち自身や身近な生物が生きていけない環境に暮らす生物を極限環境生物と呼びます。超好熱菌は丈夫な細胞膜やタンパク質を持ち、酸性・アルカリ性環境に暮らす生物は体内を中性に保つ仕組みを持ちます。高塩濃度環境で生息する微生物は、細胞内に浸透圧調節物質を蓄積するなど、極限環境生物には極限環境に耐えるための様々な仕組みが見られます。しかし、そのすべてが明らかになっているわけではありません。最初の生命は極限環境で誕生したという予想から、極限環境生物の解析を通じて最初期の生物の特徴を見出そうという試みも多くおこなわれています。

赤沼 哲史(あかぬま・さとし)/早稲田大学人間科学学術院准教授

【略歴】

神奈川県横浜市生まれ、1998年東京工業大学生命理工学研究科博士課程修了、博士(理学)取得、理化学研究所基礎科学特別研究員、ケルン大学博士研究員、食品総合研究所特別研究員、東京薬科大学生命科学部助手・助教を経て、2015年より早稲田大学人間科学学術院准教授。専門はタンパク質工学、実験進化学。

【本稿に関連する主な著書・論文】

赤沼哲史(2016年)「ゲノム配列の比較から明らかになった初期生命の好熱性」地球化学、50巻、199‒210頁
Akanuma S. et al., (2015) Robustness of predictions of extremely thermally stable proteins in ancient organisms, Evolution 69, 2954-2962
赤沼哲史ほか (2013年)「全生物の共通祖先」山岸明彦編アストロバイオロジー、化学同人、118-131頁
Akanuma S. et al., (2013) Experimental evidence for the thermophilicity of ancestral life, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110, 11067-11072

赤沼哲史研究室

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