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鈴木 正成(すずき・まさしげ)早稲田大学スポーツ科学学術院特任教授 略歴はこちらから

『トクホ』は廃止を!
「体に良い」は根拠あいまい

鈴木 正成/早稲田大学スポーツ科学学術院特任教授

 私は、消費者に効能を保証しない特定保健用食品(トクホ)は、制度も含めて廃止すべきだとの異論を述べてきた。特保マーク食品群は、“からだに良い”という科学的根拠を持ち、厚生省が効能を認定した保証つき食品だと信頼されてきた。しかし、『体に脂肪のつきにくい油脂』エコナが、発がん性物質グリシドール脂肪酸エステルを高濃度含有していると指摘され、花王はトクホ認定を返上した。

 実は、われわれはエコナの効能自体に疑いがあると指摘していた(2002年)。発育期ラットで体脂肪蓄積効果と体脂肪減量効果を比較したが、エコナの効果はサラダ油と変わらなかった。また、大学院生がエコナで揚げたコロッケ、ご飯と味噌汁の試験食を食べたが、サラダ油コロッケ食と比べて食後に脂肪が良く燃えるとか、血中中性脂肪の上昇が低いなど、宣伝されている効能は確認できなかった。これらの実験結果を肥満学会で発表する(2002年、京都)前日、花王の研究責任者が大学に来て、自分らの研究論文をもとにエコナは体脂肪蓄積率の低い油であると主張したが、『成長期の子供や動物、肥満していない成人には、効果が出ない』ことを認めた。

 私は、肥満者を被験者にしたデータしかないのに、「肥満が気になるヒトは」とか、「ご家族の健康のために」など、誰にでも効果がでるように思わせる、科学的には虚偽といえる誇大宣伝をしていることや、エコナのダイエット効果は毎日8-10g、12-24週間摂取する条件でのみ得られたものであることをきちんと消費者に伝えるべきであること、また、企業研究所で出た効能不支持データを研究グループ内や社内情報にとどめたり、大学などに委託した研究結果が効能不支持データであった場合、協議のうえ学会や論文で発表させない現実があることを当事者から 直接聴いていることを指摘した。もしこれが事実であれば、消費者に有効情報のみを押し付け、購買判断に役立つ無効情報を意識的に隠蔽する、犯罪に近い行為だからである。

 さて、トクホの問題点は、われわれが日本栄養・食糧学会(2009年、長崎)で問題提起したトクホ『食後血糖上昇を抑える茶飲料』でより明快になる。肥満・糖尿病予防に食後血糖値上昇を抑えることが有効だとして、食事で摂取するでんぷんや砂糖の消化・吸収を阻害する難消化性デキストリンやポリフェノールを添加した茶飲料が、メタボ対策に飲用されている。しかし、トクホ申請添付学術論文に示されたこれら茶飲料の効能の科学的根拠は、血糖の上がりやすいお結びや、対照飲料が白湯であるなど、特殊な条件で出されている。われわれは、豚飯(どんぶり)、鮭定食、ハンバーグ定食の3試験食と、難消化性デキストリン添加茶とグアバ葉抽出ポリフェノール添加茶の2つをえらび、水抽出煎茶を対照茶として、食後血糖値上昇反応を比較した。その結果、どの試験食に対しても、トクホ茶は対照茶と区別されるような食後血糖値上昇抑制効果を示さなかった。これは、トクホ申請に提出された科学的根拠が、一般的な多様な生活条件には通用しないことを示している。トクホ茶飲料に対して、玄米にぎにぎ(300g)を握り締めてダンベル体操(15分)を豚飯摂取後に実行すると、食後血糖上昇は確実に抑制された。

 以上の事実をもとに、トクホに潜む問題点を整理すると、以下のようになる。

1)消費者はトクホを科学的に研究された、国が効能を補償する体に良い食品であると信 頼され購買されてきたが、消費者一人一人に効能を保証できるものではないことは明白である。制度のスタート時から、薬は『効かなければならない』(must)がトクホは『効くかも知れない』(may)程度なのだと、本制度推進者たちが公言していたことに注目。

2)多くの消費者は、トクホ認定前にその効能と安全性を、国関連機関で確認している と思っているが、エコナの発癌物質の確認試験は、外部からの指摘を受けたあとに実施されているとおり、国は学術論文審査だけで許・認可しているにすぎない。

3)消費者の誰にも効能を発揮するトクホにするには、消費者の多様な条件(男女、年令、食生活、身体活動、生活リズム、健康状況など)にそれぞれ対応した生活科学的根拠を持って効能を保証すべきである。

4)しかし、2)の条件を充たすには莫大な実験と開発費が必要となるので、現実的に不可能である。したがって、効能を食品のラベルに印刷して販売することを許可されるトクホ制度は成り立たないので、廃止されるべきである。

 トクホは厚生労働省から消費者庁に移管されたが、消費者の利益をまもり被害を防ぐ立場にある消費者庁が、消費者を愚弄してきたトクホ制度を廃止も含めた根本的改革なしに、まさか継続させることはないものと期待したい。そして、消費者は科学的と言葉に惑わされることなく、食品購買判断力を高めなければならない。そして、健康づくりの基本は、規則正しい生活リズム、偏りのない腹八部目、適度な筋肉活動、心穏やかな生き方-の4条件にあることを再確認することが本質的に大事である。

鈴木 正成(すずき・まさしげ)/早稲田大学スポーツ科学学術院特任教授

【略歴】
東北大学農学部食糧化学科卒業、東北大学大学院農学研究科食糧化学専攻博士課程修了、農学博士。筑波大学体育科学系助教授、筑波大学体育科学系教授、筑波大学大学院博士課程体育科学研究科長、筑波大学大学院博士課程長を経て、筑波大学名誉教授、早稲田大学スポーツ科学学術院特任教授。現在、日本健康栄養食品協会・論文検討委員会委員、農林水産省食育推進事業「朝食」委員会委員(米安定供給機構)などを務める。主な著書は、『新・体脂肪ダイエット』(1992年、高橋書店)、『玄米にぎにぎ体操』(2001年、NHK出版)、『実践的スポーツ栄養学 改訂新版』(2006年、文光堂)など。

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