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植村 尚史(うえむら・ひさし)早稲田大学人間科学学術院教授  略歴はこちらから

高齢化=負担増か? 「すりこみ」を疑おう!

植村 尚史/早稲田大学人間科学学術院教授

 9月は敬老の日があって、何かと高齢者に関するニュースが多い。100歳以上の高齢者が5万人を超えたとか、団塊の世代が65歳以上の高齢者の仲間入りをし始めて、高齢者の割合が24%を超えたとか・・。本来、この手の話は、日本人の寿命が伸びて、長生き高齢者が普通になってきたということで、喜ばしいことなのだが、どうも素直に喜べないというのが世間の受け止め方のようだ。その理由は、高齢化とともに社会保障の負担が増大することに対する懸念であろう。敬老の日に合わせている訳ではないだろうが、認知症高齢者数が280万人で、65歳以上高齢者の約10%という発表があり、平成22年度の国民医療費が37兆4202億円で、前年度に比べて3.9%増加したというようなニュースも届く。

 高齢化が進めば、年金を受給する高齢者が増え、病気になったり、介護を必要とする高齢者も増え、その結果、社会保障給付が増え、その分を若い人が負担しているのだから、若者の負担が増える。そんなふうにいわれると、気持は重くなるが、税金や保険料が重くなるのは仕方がないとあきらめざるをえない。恨むなら高齢化を恨めというわけである。しかし、話はそう単純なのだろうか。

 例えば、高齢者は病気になりやすく、治りにくい。だから医療費が高い。したがって、高齢化が進むと医療費は高くなる。こういう説明は、まことにもっともらしく聞こえる。たしかに、高齢化の進展とともに、医療費は増えている。しかし、図のように、国際比較で見ると、高齢化が進んでいる国が医療費の規模が大きいというわけではない。人口構成が最も若く、全国民を対象とした医療保障制度のないアメリカが、ダントツで医療費の規模が大きい国であり、最も高齢化が進んでいる日本は、先進国では医療費の規模の最も小さい国である。これはどういうことなのだろうか。

 一国の医療費の規模を決める要素は、高齢化だけではない。医療の水準や内容、医療提供体制、医療保障制度のあり方など他の要素の方が大きいのである。アメリカの医療費が高いのは、最先端の高度な医療が提供されているからだといわれている。よく病院が高齢者のサロンになっているという話がされるが、彼らが使っている医療費はそれほど大きいわけではない。最先端の高度な医療に使われる医療費が少なければ、全体として医療費は大きくならない。病院が高齢者占められるというのは、彼らが医療資源を占有することで高度な医療の提供体制が薄くなることにつながっているのだとすれば、医療費の増加にとってはマイナスの要因となっているとさえいえるのである。

 社会保障の費用が増えるのは、経済との関係も大きい。年金、高齢者医療、介護等の高齢者福祉サービス、高齢者雇用などの高齢者関係経費は、平成21年度の社会保障給付費の68.7%を占めている。しかし、平成20年度の69.5%に比べればシェアは低下している。大きく増加し、シェアを上げたのは、失業給付や生活保護などである。経済の悪化がこれらの経費を増大させ、社会保障給付全体の増大につながっている。高齢化だから仕方がないといって負担を増やしていくと、その方法によっては、経済を悪化させ、それが社会保障の負担をさらに増大させるということにもなりかねない。

 社会保障の給付が増えていく要因は複雑で、自己負担のあり方や制度相互間の調整など、制度の作り方も深く関わっている。高齢化によって給付が増えていくことは避けられないとしても、単純に高齢化の進展とパラレルに給付が増加していくとは限らない。高齢化の進展以上に増やす必要がある給付もあれば、制度設計によって増加を避けることが可能な場合もある。負担についても、誰がどのような所得から負担するのかによって、経済に対する影響も違うし、負担感、負担への合意のあり方も異なってくる。負担の偏りが少なければ、負担感は緩和されるし、経済に対する悪影響も少なくなる。給付と負担の関係も重要で、高負担でも将来の給付が確実であれば負担への合意は得やすいが、一方的な負担だと抵抗も大きい。

 「高齢化→負担増」と単純に決めてかかるのではなく、社会保障の効果や影響についてのきめ細かな分析とそれに基づく制度の再構築が必要であり、それによって高齢化社会に対するイメージは違ったものとなるはずである。社会保障研究の推進が求められる所以もそこにある。

図 先進諸国の医療費(対GDP比)と高齢化率(2007年) 単位:%

データ出所:OECD Health Data

植村 尚史(うえむら・ひさし)/早稲田大学人間科学学術院教授

【略歴】
1952年3月23日 岐阜県生まれ
1975年京都大学法学部卒業
同年 厚生省(当時)入省
内閣法制局参事官、厚生省保健社会統計課長、社会保険庁企画・年金管理課長、国立社会保障・人口問題研究所副所長等を経て、2003年4月から早稲田大学人間科学部 教授
2001年4月から2003年3月まで 京都大学大学院法学研究科 客員教授

【最近の主な著書】
「社会保障を問い直す」中央法規出版 2003年
「これでわかる医療保険制度Q&A」(監修)ミネルヴァ書房 2007年
「若者が求める年金改革」中央法規出版 2008年
「図説 これからはじめる社会保障」(編著)日本加除出版2008年

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