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前橋 明(まえはし・あきら)/医学博士 早稲田大学人間科学学術院教授  略歴はこちらから

今日からできる、日本の子どものための幸せな未来づくり
-『生活リズム向上作戦「食べて、動いて、よく寝よう!」運動』のススメ-

前橋 明/医学博士 早稲田大学人間科学学術院教授

近年の子どもたちが抱えさせられている3つの問題
1)睡眠リズムの乱れの問題

 第一に、今の子どもたちは、夜型の生活に巻き込まれている点が気になります。子どもたちが親に連れられて、ファミリーレストランや居酒屋、カラオケボックス等へ、深夜に出入りしている光景をよく見かけるようになってきました。チャイルドルームが完備され、メニューにもお子さまメニューを印刷している居酒屋も出てきました。「大丈夫です。子どもは元気ですから。」「夜は、父と子のふれあいの時間ですから。」「まだ眠くないと、子どもが言うから。」等と言って、夜ふかしをさせている家庭が増えてきました。子どもの生活は、「遅寝、遅起き、ぐったり!」になっています。

 今日、午後10時を過ぎて就寝している幼児の割合が約4割を超えるわが国の現状は、国家的な危機です。子どもたちが大人の夜型生活に入り込んで、不健康になっている状況や、親が子どもの健康生活のあり方を知らない、子どもの生活のリズムに合わせてやれないという「知識のなさ」や「意識の低さ」が、今、問題視されています。

 では、夜間に10時間眠ることができない子はどうなのか、中でも、9時間30分を下回る短時間睡眠の子どもは、注意集中ができず、イライラする、じっとしていられなくて歩き回るという行動特徴が出てきます。こんな状況では、落ち着いて生活ができないし、園での活動もきちんと経験できない、小学校にあがっても勉強に専念できなくなります。

2)摂食リズムの乱れの問題

 睡眠不足、遅寝・遅起きになると、朝食を充実したものにできなかったり、欠食したりするようになります。これが、気になることの2つ目の問題です。

 朝食を抜くと、イライラする、幼児であれば積み木を放り投げたり、おもちゃを雑に扱ったり、友だちを後ろから不意にたたいたりする行動が目立ってきます。今日、朝食を毎日食べている幼児は、8割程度しかいません。また、排便を家で済ませから、朝をスタートさせることもできなくなって、体調もスカーッとしないままの登園になっている子どもが多くなりました。これでは、午前中の活動力が低下しても不思議ではありません。動きが減ると、1日の運動量が少なくなり、体力も高まりません。

3)運動不足の問題

 気になることの3つ目は、子どもたちの生活の中で、運動量が激減してきていることです。例えば、保育園の5歳児ですが、昭和60~62年は午前9時から午後4時までの間に、1万2千歩ほど動いていましたが、平成3~5年になると、7千~8千歩に減ってきました。そして、平成10年以降には5千歩台に突入し、今日では、昭和時代の半分ほどの運動量に激減しています。それに、登降園も車利用が多くなってきましたので、子どもの生活全体の歩数が減って、体力を育むのに必要な運動量が不足しています。

自律神経や脳内ホルモンが関与する体温リズム

 夜型生活の中で、子どもたちの睡眠リズムが乱れると、摂食のリズムが崩れて、朝食の欠食・排便のなさへとつながっていきます。その結果、朝からねむけやだるさを訴えて午前中の活動力が低下し、体力低下とともに、自律神経の働きが弱まって昼夜の体温リズムが乱れてきます(図1)

図1 日本の子どもたちの抱える問題発現とその流れ

 そこで、体温が36度台に収まらない、いわゆる体温調節のできない「高体温」や「低体温」の子ども、体温リズムがずれ、朝に体温が低くて動けず、夜に体温が高まって動きだすといった夜型の子どもたちが見られるようになってくるのです。

 日常生活では、体温は、脳内ホルモンの影響を受けて、一般に午前3時頃の夜中に最も低くなり、昼の午後4時頃に最高となる一定のサイクルが築かれます(図2)。このような日内変動は、ヒトが長い年月をかけて獲得した生体リズムの一つです。例えば、午後4時前後の時間帯は、最も動きやすくなる時間帯で、子どもたちの「あそびや学びのゴールデンタイム」と、私は呼んでいます。自分の興味や関心のあるものを見つけて、例えば、自然や動物とでもいいです、スポーツごっこでもいいです。それらに熱中して、時を忘れて遊び込む時間帯なのです。このときの熱中と挑戦、創造と実践の経験のくり返しで、子どもたちは、グーンと成長するのです。

図2 体温の日内リズム

 ところで、生活が夜型化している子どもの体温リズムは、普通の体温リズムから数時間後ろへずれ込んでいます。朝は、眠っているときの低い体温で、起こされて活動を開始しなければならないため、からだが目覚めず、動きは鈍いのです。逆に、夜になっても、体温が高いため、なかなか寝つけないという悪循環になっています。

 このズレた体温リズムをもとにもどすことが、生活リズム向上戦略のポイントとなります。その有効な方法を2つ紹介しますと、①朝、太陽の陽光を、子どもに浴びさせることと、②日中に運動をさせることです。

「早寝、早起き、朝ごはん」運動の登場と課題

 子どもたちの抱える問題の改善には、ズバリ言って、大人たちがもっと真剣に「乳幼児期からの子ども本来の生活(栄養・運動・休養のバランス)」を大切にしていくことです。その結果、日本が生み出した国民運動は、「早寝、早起き、朝ごはん」運動なのです。しかし、健康づくり運動へのきっかけには有効でしたが、自律神経に積極的に働きかけて、子どものたちのイキイキ度を増すまでには、いま一歩の感があります。図1は、日本の子どもたちの問題が、どのように進んできたかを示した私の考えです。

 子どもたちが抱えさせられている問題を食い止めるためには、まずは「睡眠」を大切にし、脳を守り、育むことが必要です。だから、「早寝・早起き」なのです。そして、睡眠が崩れると「食」の崩れを生じますから、「朝ごはん」を打ち出す必要があります。

 しかしながら、この国民運動は、そこまでしか、ケアーできていないのです。意欲をもって、自発的に自主的に動ける子ども・考える子どもを期待するならば、3番目の「運動」刺激が子どもたちの生活の中になくてはなりません。運動や運動あそびは、自律神経機能の発達に不可欠なのです。生活習慣を整えていく上でも、1日の生活の中で、日中に運動エネルギーを発散し、情緒の解放を図る運動実践の機会や場を与えることの重要性を見逃してはならないのです。

 そのためには、「早寝・早起き・朝ごはん」という国民運動に、「運動」を加えなければなりません。つまり、「食べて」「動いて」「よく寝よう」なのです。言い換えれば、「動き」の大切さを導入したキャンペーンを打ち出して、積極的に実行に移していくことが大切です。こうして、将来を担う子どもたちが、健康的な生活を築き、いきいきと活躍してもらいたいと願っています。

前橋 明(まえはし・あきら)/医学博士 早稲田大学人間科学学術院教授

【略歴】
2015年4月~2016年3月 特別研究期間 台湾:国立体育大学 客員教授

研究内容
子どもの疲労と体温との関連・乳幼児の生活リズム・保護者の育児疲労と育児支援について、主に研究しています。そして、研究で得た知見を児童福祉や保育、教育に応用し、アジアの子どもたちの健全育成について検討するとともに、子どもたちの抱える健康福祉上の諸問題に対処するため、幼少児の健康・生活実態調査をアジア地域で展開しています。

学位・職位
米国University of Missouri-Columbia大学院修士(教育)、岡山大学医学部博士(医学)、
倉敷市立短期大学(1987年講師,1992年助教授,2000年教授)、米国ミズーリー大学客員研究員,米国バーモンド大学客員教授を経て、現在、早稲田大学教授、台湾:国立体育大学客員教授

受賞
1992年 米国ミズーリー州カンサスシティー名誉市民賞受賞
1998年 日本保育学会研究奨励賞受賞
2002年 日本幼少児健康教育学会功労賞受賞
2008年 日本幼少児健康教育学会優秀論文賞受賞
2008年 日本保育園保健学会保育保健賞受賞 など。

台湾研究室連絡先:Dr. Akira Maehashi(前橋 明)、
660教授研究室 +886-3-328-3201内線8660、
National Taiwan Sport University(國立體育大學)、
250, Wen Hua 1st Rd., Kueishan, Taoyuan County(桃園縣龜山鄕文化一路250號)、
Taiwan, R.O.C.(台湾)

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