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小倉 一哉(おぐら・かずや)/早稲田大学商学学術院教授  略歴はこちらから

労働力不足で、これからの働き方が変わる?

小倉 一哉/早稲田大学商学学術院教授

 所得格差の拡大を背景に、様々な国で保守的な勢力が台頭し、移民排斥や保護貿易の動きを強めている。所得格差の拡大は大きな問題だが、ここまで複雑で密接に繋がった世界経済の動きを止めることは難しい。安易な保護貿易主義は、国内での価格上昇を招き、かえって不況を深刻化させ、失業者を増やすことになりかねない。

 人口減少と少子高齢化が進むため、家計の購買力が低下する日本では、企業はますます世界経済の中で生きる道を探すことになる。国内の生産力も低下する。労働政策研究・研修機構(JILPT)によれば、今後の労働力人口は減少する。2014年の6587万人から、経済成長がほぼゼロパーセントで性・年齢階級別の労働力率が2014年と同水準で推移した場合、2030年に5800万人となり、787万人減少する。また実質2%の経済成長で女性・高齢者等の労働参加が進んだ場合でも、2030年には6362万人となり、225万人の減少となる。

 数百万人の労働力不足を補うには、女性、高齢者、外国人、障がい者などの社会参加が重要になる。紙幅の関係上、女性と高齢者について説明する。

 多くの女性は、企業の正社員として働き始めるが、出産・育児を契機に一度、労働市場から退出する。その後、労働市場に再参入する人も多いが、正社員よりも、パートタイマーとして参入することが多い。高齢者の多くは、すでに労働者として一回は社会貢献を終えた人々である。正社員として働いた会社でも、多くは60歳で定年を迎え、その後は一年ごとの契約でかなり低い収入のまま65歳まで働くのが通常である(65歳までの継続雇用が法的に完全義務化されるのは2025年だが、すでにかなりの企業が65歳まで継続雇用している)。老後の生活を維持するために就労する機会は、65歳以降になるとかなり少なくなる(特に大企業ほど65歳以降の雇用継続は少ない)。

 長期的に労働力不足になることはほぼ確実である。そして現在の女性や高齢者の多くは、労働者として有効活用されていない。この背景には、日本の雇用慣行が大きく影響している。

 一つの問題は、労働市場への参加の仕方だ。日本の若者の多くは、学校を卒業してすぐに企業などに雇用される。たいていは正社員という身分(メンバーシップ)を得る。この身分を得ることは、学生の就職活動において最も重要だ。長期にわたって雇用が保証されることを意味しているからである。もちろん企業にも労働者にも様々な問題が起きるから、100パーセント確実ではない。仕事の種類や職務内容による人材の募集がまずあって、それに必要な職務経験を持った人が応募するというのが、世界的に見て普通の就職活動だが、日本の学生はそうではない。大学生に関して言えば、大学のレベルやアルバイト経験、クラブ活動などのほか、コミュニケーション能力や人柄といった、潜在的な能力が重視され、採用に至る。将来的にどんな仕事でもこなせるような人材である。それゆえそんな基準で選ばれた人は、企業内教育で徐々に力を発揮して、やがてはその企業を支える中核的な人材となる。

 長期的な雇用関係が前提になると、いったんそのキャリアトラックから外れた、例えば女性などが再び同じ道に戻ることは難しい。また一度定年退職した人も、数年間しか雇用されないため、重要な戦力とはなりにくい。

 そして働き方の問題も大きい。正社員としての身分保証と引き替えに、多くの人々が転勤命令に従い、残業や休日出勤をしている。日本の長時間労働は世界的にも有名だが、労働力不足の問題を解消するためにも、喫緊の課題だ。少子化は、結婚や出産が進まないために起こっているが、長時間労働はその大きな原因だ。

 最近は、政府も長時間労働を解消するよう努力している。またそれに呼応して、企業も改革を実施しつつある。始まったばかりであるが、そこに今後の日本の働き方、経済の重要な鍵がある。

 長期的な人材育成という観点から見ると、労働市場における身分の問題を解消することは簡単ではないと思う。しかし、長時間労働の改善に成功している事例はたくさんある。主にホワイトカラー部門の話になってしまうが、仕事のムダを見つけ、それをなくす。多くの会議は、目的が明確ではなく、参加者もムダに多かった。それを改革した企業の労働時間は短くなった。同じような書類を何種類も使用していた会社は、1種類だけに変更し、業務効率が上がった。顧客の都合で残業が多かった企業は、大口顧客を減らし、こちらの都合に合わせてくれる小口の顧客を増やすことで、残業をゼロにした。自分だけの作業に集中するための時間を設けた企業でも、生産性が向上した。これらの一つ一つは小さなことかもしれない。しかし、仕事の仕方を見直すことしか、前進する術はない。そして多くの企業で働き方が変わり、生活上の様々なニーズを充たすことが可能になれば、これまで労働力として有効活用されなかった人々も、より主体的に労働市場に参入できる。

 働き方を変革しなければ、日本の未来はさらに深刻な状況になるであろう。

小倉 一哉(おぐら・かずや)/早稲田大学商学学術院教授

1993年早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得
1993-2011年労働政策研究・研修機構
2011年早稲田大学商学学術院准教授
2016年早稲田大学商学学術院教授
主な著書『正社員の研究』日本経済新聞出版社2013年など

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