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江澤 雅彦(えざわ・まさひこ)/早稲田大学商学学術院教授  略歴はこちらから

生命保険を比較し選んでいるか

江澤 雅彦/早稲田大学商学学術院教授

 人生において最も高い買い物といえば、多くの人が「住宅」と答えるであろう。戸建てにしても分譲マンションにしても、われわれ現役被用者は、かなり長い期間そのローン返済のために努力奮闘している。その次は何か。「子どもの教育」と答える方が多いかもしれない。

 女性が一生涯に産む子供の数=合計特殊出生率が1.5人以下である現在、親達は、少ない数の子どもに、なるべく良質・高価な教育を施して、将来、様々な意味で快適な人生を送ってもらいたいと願っている。

 また住宅に次ぐ高価な買い物として、「生命保険」を挙げる人が相当程度存在する。直近の調査(以下、調査の数字としては、(公財)生命保険文化センター「平成27年度 生命保険に関する全国実態調査」を用いる)では、世帯当たりの生命保険料年間払込額は、平成27年で38.5万円となっている。対年収比7.4%である。ただしこれは、減少傾向の過程にあり、平成15年では同じ数字が53.3万円、9.3%となっていた。生命保険に加入していない世帯は、非加入の理由として、「経済的余裕がない」ことを第1に挙げている。今後の景気動向、世帯の可処分所得の状況によっては、生命保険の保険料の支払額増加が予想される。

生命保険加入の目的

 それでは、一般の家計はどのような目的をもって生命保険に加入しているのだろうか。結果は、「医療費や入院費のため」が最も高く(58.5%)、次が「万一のときの家族の生活保障のため」(53.1%)である。加入目的は、第1に医療保障ニーズ充足、第2に遺族保障ニーズ充足となっている。この順序は、ここ10年変わっていない。また世帯を世帯主年齢別にみると、45歳を境界として、それ以上では医療保障ニーズ充足、以下では遺族保障ニーズ充足が、主要目的となっている。若齢世帯主ほど遺族保障を重視するという点は合理的な選択といえよう。

 すでに生命保険している世帯において、医療保険・医療特約の加入率は9割を超えており、これは別掲表にあるとおり、世帯年収別に見ても大きな差はない。むしろ年収200~300万円の世帯でも加入率が9割近くに達しているが、これが、保険会社側から十分情報を得て、納得した上での加入なのか疑問の生ずるところである。すなわち、われわれの生活を根底で支える社会保障において、「高額療養費支給制度」というものがあり、医療費の負担は所得に応じて圧縮されるからである。生命保険会社に保険料を支払って追加的な医療保障を求めるか否か、それは各自の所得の多寡によって決定されるべきであろう。

医療保険・医療特約の世帯加入率(世帯年収別)

世帯年収
(万円)
200未満 200~
300未満
300~
400
400~
500
500~
600
600~
700
700~
1000
1000
以上
加入率(%) 87.0 87.7 91.3 90.9 91.7 95.2 93.8 95.0
購入理由・購入チャネル

 次に、特定の生命保険を購入した直接の理由をみてみよう。

「希望にあった生命保険だったので」が最も多く(35.6%)、次いで「営業職員や代理店の人が親身になって説明してくれたので」(20.6%)で、その次が、「営業職員や代理店の人が知り合いだったので」(17.5%)であった。一般に、購買決定要因の主要因と考えられる「価格」については、「掛金が安かったので」というのが「第4位」になっている(17.1%)。自分のニーズと商品内容の合致、次いで商品を勧めてくれる人が重要で、「安ければ安いほどよい」という尺度が生命保険購入には適合しないことは注目に値する。

 購入の際のチャネルはどうであったか。

「生命保険会社の営業職員」が59.4%で最も高く、次いで「保険代理店の窓口や営業職員」13. 7%、「通信販売」5.6%、「銀行を通して」5.3%の順となっている。ここで「通信販売」には、一時期人気を博した「インターネットによる生保販売」が含まれる。子どもをもった若齢夫婦をターゲットに、「シンプルで安価な商品」を提供するというこのビジネスモデルには、発展の余地は大きく残されている。ただ、①元来PC対応であったので、スマートフォンで加入手続きを進めると時間がかかってしまうこと、➁東日本大震災を経験した消費者により、保険金支払い手続きを進めつつ安否確認等もしてくれる「対面販売」の長所が強く認識されたというマイナス面も指摘されている。

商品比較

 最後に、生命保険を加入する際に、複数の商品を比較したうえで購入したかという質問に対しては、70%近くが「特に比較はしなかった」と回答しており、「他の生保会社の生命保険」と比較した顧客は25%程度であった。生命保険を「買い回り品」(shopping goods)と捉え、自らのニーズを明確にしつつ、比較した上で購入すべき商品を選択するという態度が望まれる。

 とかく「生命保険は多種多様で、複雑でわかり難い」といわれる。しかしながら、1人の消費者としてわれわれが生命保険に求めるのは、以下の機能に限られる。すなわち、人生における各種偶然的な出来事―早期死亡、疾病、傷害、予想外の長寿等-の発生による、①稼得の喪失、②異常費用の発生、の2つに備えることである。そうしたことを念頭において、合理的な生命保険購入を実践してもらいたい。

江澤 雅彦(えざわ・まさひこ)/早稲田大学商学学術院教授

【略歴】
1960年 東京都生まれ
1983年 早稲田大学商学部卒業
1991年 早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学
1992年 八戸大学(現八戸学院大学)商学部専任講師、同助教授を経て
1999年 早稲田大学商学部助教授
2001年 博士(商学)早稲田大学
2004年 早稲田大学商学学術院教授、現在に至る
2010年~2014年 日本保険学会理事長

【著作】
『生命保険会社による情報開示』成文堂、2002年、
『保険論』(共著)成文堂、2008年、
『保険学』(共著) 有斐閣、2016年他、最近の論文として、
「「協同組合保険」のアイデンティティ」『保険学雑誌』第630号(2015年9月)pp.103-120、
「銀行販売チャネルの展開」『生命保険論集 生命保険文化センター設立40周年記念特別号(II)』2016年9月、pp.51-70。

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