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生井 健一(なまい・けんいち)/早稲⽥⼤学国際学術院教授 略歴はこちらから

学校英語教育:確実に結果を残すには

生井 健一/早稲⽥⼤学国際学術院教授

新学習指導要領

 本年3月31日、新学習指導要領が告示され、2020年度より小学校での外国語(英語)活動が3年生に前倒しされることになった。同時に5、6年生の英語は教科化され、成績もつくようになる。「日本人は英語ができない」と言われて久しいが、「だからこそ、少しでも早く」という考えのもと、今回の前倒しになったのだと思われる。

 一教員として、学習指導要領にケチをつける気など毛頭ない。「ラスト・レクチャー」で有名になった故ランディ・パウシュ教授同様、「配られたカードでプレイするだけ」である。常に与えられたルールの中で教育に最善を尽くし、また、同じ気持ちで高校の教科書作りにも取り組んできたが、それは、これからも変わらない。

 しかし、小学校英語には懐疑的な意見も多く、この度それを受けての私見を求められた。よって、以下に、私の「オピニオン」を記そうと思う。

高校野球

 小学3、4年生たちの英語活動は週に1コマ、45分である。「英語に触れる機会」と捉えればこれでもよいのだろうが、学習指導要領にある「日常生活に関する身近で簡単な事柄について、人前で実物などを見せながら、自分の考えや気持ちなどを、簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする」という目標を達成するには、あまりに時間が少なすぎはしないか。30年近く前のことだが、社会人相手の英会話レッスンを担当したことがある。彼らはみな仕事が忙しく、予習、復習はゼロ。週に2 回、それぞれ90 分程度の授業だったが、簡単な語句や表現すら覚えてくれる人はほとんどいなかった。そもそも英語を使う機会もなく、単なる「ファッション英会話」なのだから当然だろう。英語の授業以外では英語をまったく必要としない小学生も、結局同じことになるのでは、と危惧してしまう所以である。

 そこで提案なのだが、各小学校に自由参加の英語部を必ず設置するというのはどうだろう。モデルは高校野球。甲子園を目指す球児のように、朝練、放課後および週末の練習を休みなく行うのだ。日本の野球のレベルが高いのは、野球が必修科目ではないからだと思う。クラブ活動だからこそ、好きな者しか集まらないし、好きなのだから、どんな練習にも耐えられる。そして、確実に技術が向上するのである。想像してみてほしい。英語好きの子どもが高校を卒業するまで、このような練習を続けることを。英語圏の大学に行っても、彼らが英語で苦労することはないはずである。

シンガポールを真似できるか

高度な英語力を駆使して勉強するNUSのシンガポール人学生

 もちろん、英語部員以外は蚊帳の外になるが、そもそも日本人全員が実用英語の使い手になることなど期待されていないだろう。しかし、英語部員が将来確実に活躍してくれれば、日本は国際社会で十分やっていけるはずだ。日本の人口のたった3.6%で、ニュージーランドのそれに相当する。18.7%で、オーストラリアに並ぶ。仮に10人に1人が英語部のOB/OGであれば、それだけで日本も十二分に実用英語話者を有することになるのではないか。

 それでも、これからはどうしても日本人全員が英語の使い手になるべき、というのであれば、シンガポールを見習えばいいと思う。まったくの偶然だが、私は4月より特別研究期間に入り、現在シンガポール国立大学で教鞭をとっている。そしてこの国の言語政策の歴史および実態を知るに至り、日本の英語教育の甘さを痛感させられている。

 多民族国家であるシンガポールでは、国民団結の必要性から、華人、マレー人、インド人のいずれの言語でもない英語での教育が導入されており、政治、司法、行政、ビジネス等みな英語で行われる。とはいえ、各民族の伝統継承も重視され、民族ごとに、中国語、マレー語、タミル語の授業も用意される。時間数は、日本の中高における英語のそれと同程度。しかし、家族と民族語を話す生徒もまだいるので、文化の継承も少なからず続いている。

 これは、英語をマスターするにおいて理想的な環境だろう。国民としてのアイデンティティーの喪失など、問題がないわけでもないが、現在の発展を前にして、シンガポール人の誰も文句など言えまい。よって、日本人全員に実用英語能力を確実につけさせたいのなら、これに倣い、日本の学校教育も基本的にすべて英語で行い、文化継承のためだけに週数時間の日本語授業を設ければよいのではなかろうか。もちろん、政治もビジネスも英語で行う。それでも、家庭では日本語を話せるのだから、日本語および日本文化がすぐに消えることはない。詰まるところ、英語の習得・維持には時間がかかるのだ。やはり、これくらいの使用頻度を確保しないと、結局今までと同じ状況が続くだけだろう。

 大きな痛みと困難を伴う改革である。しかし、シンガポールは50年もかけずに成功してみせた。日本にそこまでの覚悟(あるいは必要性)があるかどうかである。

謝辞:シンガポール国立大学の永見昌紀先生、早稲田からの留学生佐藤愛華さん、およびシンガポール人の教え子17人に貴重な情報を頂戴しました。ここに感謝申し上げます。

National University of Singapore Centre for Language Studies
永見昌紀先生

NUS-Waseda Double Degree Program
佐藤愛華さん

経済および学術でアジアを引っ張るシンガポール

生井 健一(なまい・けんいち)/早稲⽥⼤学国際学術院教授

ジョージタウン大学大学院言語学科博士課程修了(Ph.D.)。専門は、言語学および英語教育。1999年早稲田大学理工学部着任。2004年より国際教養学部。インディアナ大学パーデュー大学インディアナポリス客員教授(2006年)。文部科学省検定英語教科書DiscoveryおよびNew Discovery シリーズ(開隆堂)代表著作者。現在、客員としてシンガポール国立大学のUniversity Scholars Program にて理論言語学の講義を担当。近著に、「TOEFL Test iBT リーディング 実践編」(南雲堂)、「言語・文化・教育の融合を目指して」(開拓社)などがある。

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