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小林 恵吾(こばやし・けいご)/早稲田大学理工学術院准教授  略歴はこちらから

オリンピック後の東京:世界が注目するサイエンス・フィクション

小林 恵吾/早稲田大学理工学術院准教授
2017.12.18

 東京でのオリンピック開催が決定してから、すでに4年の月日が過ぎた。街では大規模な建設現場が目立つようになったが、それ以外あまり実感が湧かないのが正直な感想である。東京でのオリンピック計画はこれまで3度あり、それぞれ大きく異なる時代背景を反映する形で、都市に影響を及ぼしてきたと言える。1940年の幻に終わった計画は、アジア初のオリンピックとして、関東大震災からの復興と国力を世界にアピールするための契機であったし、つづく1964年計画は、戦後復興から世界でも類を見ない高度成長期へと突入した偉業のアピールの場であった。では、来る2020年計画についてはどうだろうか。東日本大震災からの復興の成果とともに、東京はどんな時代的背景を世界に示すこととなるだろうか。

お台場

 オリンピックの決定より遡ること約1年半、2012年の春にアメリカのジャーナル誌「The Wilson Quarterly」が掲載した記事が強く印象に残っている。それには、今後の日本について「SFの世界への突入」という表現を用いて報告している。それは80年代のバブル期に、SF作家が東京に見たハイテク未来都市とは、まったく別の意味のサイエンス・フィクションである。国立社会保障・人口問題研究所によれば、50年後の日本の人口は9000万人を切り、高齢者率は40%ほどになると言われている。これまで、地球上のすべての国においてこのような過度な縮小・高齢化に直面した国はなく、まさにフィクションのような世界が現実と化しつつある現場である、ということだ。

 それを知ってか知らずか、ここ数年欧米の大学からの共同研究やワークショップなどの開催を持ちかけられる数が増えているように感じている。持ちかけられる内容のほとんどは、東京や都市圏をテーマにしたもので、あらゆる社会の課題に対し建築や都市の可能性について協議するというものである。国内ではしばらくの間、国立競技場問題や築地市場の移転問題などがメディアでは大きく取り沙汰されていたが、こうした海外の眼差しは、少なくとも日本のメディアよりは、より冷静にオリンピック後の東京に強い関心を向けていることが伝わってくる。

巣鴨地蔵通商店街

 今年に限って言えば、まず春先にUCLA大学の教員や学生と「東京ゴースト・ガイド」という共同研究ワークショップを行った。共に3度のオリンピック計画を経験している都市同士ということもあり、オリンピック計画が都市にもたらしている影響を、舞台裏の視点から調査し、一つのガイドブックにまとめるという企画である。それは、近代化の影で、かろうじて残る関節的な影響の断片や、計画の裏で消えてしまった場所の過去を辿ることで、かつての東京の曖昧な場所や利権の及ばない弱い土地が育んでいたであろう、もう一つの都市像をあぶり出すような試みであったと言える。

 そのすぐ後には、東京を舞台にハーバード大学デザイン大学院主催の国際会議が行われた。「東京の未来、未来の生活」というテーマのもと、都市や建築について、自動車産業や情報テクノロジー分野の方々と共に横断的に議論する場として企画された。モビリティの変革やビッグデータによって引き起こるパラダイムシフトは、確実に都市やライフスタイルに大きな影響をもたらすことが言われているが、その恩恵の受け方は様々である。会議の中で見えて来たのは、こうしたテクノロジーが促進した分散化や粒子化が、現実社会の中では希薄化や空虚化を加速させるという問題でもあった。特に都心を取り巻く密集住宅地においては、一度分散した個々を繋ぎとめる新しい共同体のあり方が求められており、それは今後の東京が、都心と周縁との二つの東京に分裂しつつあることを予感させた。

高島平団地

 夏には、今度はコロンビア大学の学生が来日し、「AGING TOKYO」というテーマで、東京の都市を高齢化が進む社会の視点から読み解き、ニューヨークにおける同様の課題におけるヒントを模索している。都心に急増するタワー型高齢者ホームの現状把握や、郊外団地における若い世帯に対して行っているインセンチブについての調査を行う一方で、巣鴨商店街を都心商業地区の未来として捉えてみたり、木密住宅地の近所付き合いに可能性を見出すなど、外からの視点ならではの方法で東京を観察している。

 来年度からは、ベルサイユ建築大学と共に今後の東京の住まいについての継続的な共同ワークショップの話が持ち上がっており、この波はしばらく続きそうだ。当然ながら、彼らはべつに東京の未来を案じているから関心を向けているわけではない。彼らはこのフィクションの先に、自分たちの都市や社会の未来を重ねているからであろう。ちょうど100年前のマンハッタンが資本主義経済下の都市の行方の実験場であったように、今東京は世界にとっての新たな実験場となっているのかもしれない。現在、すでに多くの若手建築家や活動家が、こうしたチャンスに敏感に反応し、このサイエンス・フィクションの世界に挑んでいる。私が大切に思うことは、こうしたローカルな活動の一つ一つが、今まさに世界の未来の開拓でもあるということである。それを各自が意識することこそ、日本が今後縮小しつつも世界の最先端として居続けるための方法ではないかとも考えている。

小林 恵吾(こばやし・けいご)/早稲田大学理工学術院准教授

1978年生まれ。2002年早稲田大学理工学部建築学科卒業、2005年ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了後、2012年までオランダの設計事務所に勤務。2012年より早稲田大学創造理工学部建築学科助教。2016年より同大学准教授。主な作品に「2014年ヴェネチア建築ビエンナーレ日本館展示計画」、「エネマネハウス2015ワセダライブハウス」など。