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広瀬 統一(ひろせ・のりかず)早稲田大学スポーツ科学学術院准教授 略歴はこちらから

スポーツ活動中のケガは防げる!
~正しい知識と方法を~

広瀬 統一/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

 皆さんはスポーツを楽しんでいますか?この時期には正月の食べ過ぎが気になって運動を始めようとしているひとも多くいらっしゃると思います。競技力向上やダイエットのためには運動を継続することが重要です。運動継続を阻害するもののひとつ、それは怪我です。ここではスポーツ活動中の怪我を防ぐための世界的な取り組みや、最先端の知識と方法をお伝えします。

早く治すから怪我をしないへ |世界で注目されるスポーツ傷害予防|

 スポーツで起こる怪我をスポーツ傷害と呼び、捻挫のように急激な応力(=ストレス)によって起こる急性外傷と、いわゆる膝痛のように、細かなストレスが繰り返し同じ場所に加わることで生じる慢性障害に分けられます。どちらもスポーツや運動継続ができなくなる要因になるため、予防することが大切です。

 近年、世界的にもスポーツ傷害予防が注目されています。国際オリンピック委員会(IOC)主催で傷害予防のための国際会議も定期的に開催されているのです。

 このように傷害予防の重要性は広く認知され、科学的根拠に基づいた予防方法についても提案されていますが 注1)、まだまだ実際のスポーツ現場で適切な対応がなされていないことも事実です。それではどのようにスポーツ傷害は予防すればよいのでしょうか?

「温める」から「準備」へ |傷害予防方法としてのプリハブ|

 スポーツ傷害予防のためのコンディショニング方法として近年、運動前の身体の準備が重視され広く行われています。ここで大事なのは運動前のウォーミングアップとしてただ体を「温める」のではなく「準備」が必要だということです。実際にジョギングなどの一般的なウォーミングアップではなく、機能的に体を使えるようにするエクササイズを運動前に継続することで、若年者や女性アスリートの重篤な急性外傷や慢性障害が50%近く予防できることが報告されています 1)。そのようなエクササイズをプリハブ(プリハビリテーション 注2)と呼びます。

 体幹から下肢のスポーツ傷害予防のためのプリハブとして、私は以下の6つの機能改善を図るエクササイズを実施しています 2)。ただしこれらの運動は正確に行わなくてはいけません。では、なぜこのような6つの要素が抽出され、しかも正しく行わなければならないのでしょうか?

①全身協調性 ②可動性 ③筋機能
④バランス ⑤動きの適正化 ⑥反動能力(プライオメトリクス)

*これら6つのエクササイズを行う際に体幹筋群を使えるように意識する!

傷害が起こるメカニズムから考える予防方法 |HowとWhy|

 どのようなプリハブを行うか考える時に、まず傷害がどのように(How)、なぜ(Why)起こるのかを考えます。例えば足首の捻挫を想像してください(図1)。足首の捻挫の多くは着地や切り返し動作時に足首を内側にひねることで生じます。逆に言うと動作時に足首がまっすぐになっていれば捻挫はしないのです!これがHowの改善です。

 それでは、なぜ足首を内側にひねってしまうのでしょうか?Whyを分析すると、いろいろな原因があることがわかります。例えば足首を外側に動かす筋(腓骨筋)が正しく働かない、バランス能力が低下しているなどです。ときには足首からは遠いお尻(中殿筋など)やお腹周り(体幹筋群)の筋が適切に使えないために足首をひねることもあります。そのため、これらを改善すれば足首を内側にひねることなく、捻挫も予防できるのです!これがWhyの改善です。

 つまり怪我を引き起こす原因(Why)を改善するエクササイズを、怪我をしない動き(How)を意識して行うことがプリハブの本質なのです。そのため予防したい怪我の種類や運動をするひとの特徴によっても若干異なります。先述したプリハブは主に足首や膝の捻挫予防を意図しており、多くの人に共通するWhyを改善するものなのです。ただ体を温めればよいわけではないことはご理解いただけたと思います。

専門家とともに自分に合ったエクササイズを |皆さんと専門家が議論する時代|

 このように、スポーツ傷害予防は正しい知識と方法を知っていれば難しいことではありません。しかしアスリート(バレーボール選手)の90%以上が足首の捻挫を経験していることなどを鑑みると 3)、必ずしも適切な準備ができていないのが現状だと思います。このような状況を改善するためには、まず正しい知識や方法をスポーツを楽しむ皆さんや指導者が学んで身につけることが必要です。

 そして専門家が皆さんと、個人に合ったエクササイズを一緒に考えることが重要なのです。先に述べた足首の捻挫のHowは老若男女、誰でも同じです。しかしWhyは人によって異なります(表1)。それを見過ごして巷にある「~理論」や「~法」の本質を知らずに形だけ行っても、必ずしも結果がついてくるとは限りません。それよりも自分が怪我をするWhyを、本や専門家との話から知り、それを改善する方法を一緒に見いだすことが重要なのです。アスレティックトレーナーなどの専門家は近くのフィットネスクラブや医院、治療院などにいます。是非、自分に合った正しい知識と方法を知り、スポーツを通じて心身そして社会的な健康を育んでいきましょう。

表1:コンディショニング・傷害予防における調整対象要因と要素の例

主要因 要因 要素の例
内的要因 ・フィジカル  
形態 体格 体重、体脂肪、委縮、脚長差
アライメント 姿勢、静的アライメント
機能 関節機能 可動域、弛緩性
筋機能 筋力、筋持久力、筋タイトネス
神経系機能 バランス*
呼吸循環器系機能 全身持久力
・スキル フォーム
・メンタル 緊張、モチベーション
・メディカル 既往歴、現病歴
外的要因 ・環境 サーフェス、天候
・用具 シューズ、防具、装具
・トレーニング トレーニング量・強度・質・タイミング
リハビリテーション
ウォーミングアップ・クーリングダウン

参考文献
1)Soligard T, et al. (2008). Comprehensive warm-up programme to prevent injuries in young female footballers: cluster randomised controlled trial. BMJ, 1-9. (http://www.bmj.com/content/337/bmj.a2469.pdf%2Bhtml からPDFをダウンロード可)
2)広瀬統一. (2013). 傷害予防のためのプリハビリテーション. コーチングクリニック 2013(7). 64-67.
3)森北育宏.(2000).トップレベルバレーボール選手の外傷・障害調査―アンケート調査により―.整スポ会誌,20 (1), 18~21.

注1:国際サッカー連盟が提唱する”FIFA 11+”がその例。日本語バージョンのエクササイズ紹介は日本サッカー協会、メディカルコーナーからダウンロード可能。URLは(http://www.jfa.jp/football_family/medical/11plus.html
注2:プリハビリテーションのプリ(Pre)は事前にを意味し、ハビリテーション(Habilitation)はラテン語のhabilis(~できる、適する)が由来で使えるようにするという意味。すなわちプリハブは運動前に体を使えるようにするということを示す。

広瀬 統一(ひろせ・のりかず)/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授、サッカー女子日本代表フィジカルコーチ、ジェフユナイテッド市原・千葉ユースアカデミーコンディショニングコーチ

早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科修士課程に進学し、同大学にて博士課程を修了<博士(学術)>。専門はアスレティックトレーニングと発育発達。
これまでジュニアからユース世代のサッカー選手のフィジカルコーチとして、ヴェルディ川崎(現 東京ヴェルディ)、名古屋グランパス、京都サンガ、ジェフユナイテッド市原・千葉で活動。2008年からはサッカー女子日本代表フィジカルコーチとして女子サッカー選手のサポートを行っている。
近著に「女子の体幹レッスン: 美しい身体になる筋肉のつけ方」(学研パブリッシング)。また近日中に「疲れにくい体をつくる非筋肉トレーニング -運動効率3割UP!の「全身協調力」を鍛えてみよう-」(角川書店)を発刊予定。