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松岡 宏高(まつおか・ひろたか)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授  略歴はこちらから

ユニークな学問、スポーツマーケティングを学ぶ

松岡 宏高/早稲田大学スポーツ科学学術院教授
2017.12.4

 いつも通っているカフェにて、コーヒーが不味くなった、店員の態度が悪くなったなど、不快な経験をするとどうしますか?グッと、我慢してもうしばらく通ってみますか?

 それでは、店員とケンカをするなど、もっと嫌な経験をした場合は、さすがに通うのをやめて別の店を探しますか?多くの人はそうやって店から離れていくでしょう。それでもまだ通い続ける、そんなあなたは、そのカフェに相当な思い入れがあり、とても忠誠心が強いお客様です。

 商品の購入、あるいは店舗でのサービスの享受における顧客の評価が低くなれば、顧客はその商品の、あるいは店舗での購買行動を低減、あるいは停止させます。これはいたって当たり前の消費者の行動です。

 ところが、不快な経験をして、評価を下げても、決してその消費対象から離れることなく、継続して消費を続ける消費者がいます。それはスポーツファンという存在です。選手のコンディションが悪かったり、チーム戦術が機能しなかったりして、質の高い試合が提供されなかった場合、負けた場合、観客はそれを低く評価し、不満を持ちます。しかし、次の試合にはまたファンがスタンドに座っています。長年優勝できなくても、2部に降格しても、ファンは応援を続けます。スポーツとはそういう商品なのです。

 このようなチームへの思い入れや忠誠的な心理と行動は、スポーツマーケティング研究において「チームロイヤルティ」と呼ばれています。これは一般ビジネスマーケティングのブランドロイヤルティの概念を援用したもので、類義語としては、チーム帰属意識(team identification)、チーム愛着(team attachment, fan commitment)などがあります。

 このチームロイヤルティはどのようにして形成されているのでしょうか。幼少期にそのチームが優勝するところをテレビで見てから憧れるようになった、好きな選手がいるのでそのチームに肩入れしている。さまざまな要因がロイヤルティの醸成に影響を与えていますが、最も強固な要因は地域との関係であると考えられています。生まれ育った町のチーム、生活拠点にあるチーム、そのチームが地域を象徴するような存在であれば、自分自身と地域との関係をより強めてくれます。この地域の象徴的存在と成るべく、最近のプロスポーツクラブや球団は社会貢献活動などを含む地域密着戦略に取り組んでいます。

 長く企業の支援を背景に成長してきた日本のスポーツは、1993年のJリーグ発足をきっかけに地域との関係の強化に注目が集まるようになりました。プロ野球でも、北海道、仙台、広島、そして最近は横浜でも、地元ファンを重視する取り組みによって観客数を増やしてきました。今や、地域密着戦略によってファンを増やすことは、スポーツビジネス成功の鍵となっています。

 このチームロイヤルティは、ファンによるさらに面白い行動を引き起こします。一般的に私たちは、成功者に近寄り、失敗者から遠ざかる習性があります。例えば、早稲田大学の駅伝、ラグビーの早明戦、野球の早慶戦の結果について早大生に話を聞くと、勝った場合は「俺たち勝ったよ!」と言い、負けた場合は「あいつらは負けたよ…」と言います。これは、アメリカの研究者(Cialdiniら, 1976)が調査した結果ですが、さらに学生たちは勝った翌日は大学ロゴ入りのアパレルを着用する傾向もあったそうです。これらは、成功者からの好影響を享受するBIRGing(Basking in Reflected Glory)と失敗者からの悪影響を断つCORFing(Cutting off Reflected Failure)と呼ばれる行動ですが、これがチームロイヤルティの高い傾向にあるファンには見られません。ロイヤルファンは、チームが負けても関係を断ったり、離れたりすることはなく、何があろうとも応援を続けてくれます。スポーツには勝ち負けがあり、基本的には50%は負ける、つまり試合をするたびに50%はCORFingが起こる可能性があります。そのたびに観客が離れていくと、プロスポーツビジネスは成り立ちません。これで、チームロイヤルティが高いファンがいかに重要かということは、わかっていただけるでしょう。

 さて、このようなスポーツ特有の事象を学ぶスポーツマーケティングは、スポーツマネジメントという学問に含まれます。早稲田大学は早くからこのスポーツに関わるビジネスとマネジメント領域の学部、修士、博士の学位プログラムを提供してきました。そのニーズはますます高まり、2017年8月にはスポーツ科学研究センターとビジネス・ファイナンス研究センターの共催による社会人対象のノンディグリー教育プログラム「スポーツMBAエッセンス」が開講されました。さらに、国外、特にアジア諸国のニーズに応えるべく、スポーツ科学研究科において英語で指導する修士課程「Sport Management」が「Health & Exercise Science」とともに2018年9月にスタートします。このユニークな学問を国内外の多くの方に知ってもらい、楽しんでもらいたいと考えます。

松岡 宏高(まつおか・ひろたか)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

京都教育大学卒、オハイオ州立大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。専門はスポーツマネジメント、スポーツマーケティング。
日本スポーツマネジメント学会運営委員、日本バレーボールリーグ機構(Vリーグ)理事、ホッケージャパンリーグ理事なども務める。
主な著書に、「スポーツマーケティング」(大修館書店,2008年,共著)、「図とイラストで学ぶ新しいスポーツマネジメント」(大修館書店,2016年,共著)など。

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