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石井 香織(いしい・かおり)/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授  略歴はこちらから

「座り過ぎ」は子どもにとっても危険
日常生活から意識することで、体力や学力の向上に期待

石井 香織/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授
2017.12.25

 成人において、身体活動の不足だけでなく、「座り過ぎ」はさまざまな健康リスクと関連していることが明らかとなっています。たとえば、テレビ視聴、パソコン使用、デスクワークや通勤時などの「座り過ぎ」は肥満・過体重、糖尿病、さらには死亡のリスクを高めることが示されています。みなさんはこのような座位行動にどのくらいの時間費やしているでしょうか。普段無意識に座っていることが多く、日常を振り返ってみると意外にその時間が多いことに気づくのではないでしょうか。近年、「座り過ぎ」は成人における問題だけでなく、子どもにおいても悪影響があることが報告されています。さらに、子どもの頃の「座り過ぎ」は成人してからも持ち越されることが報告されています[1]。そのため、成人後の健康増進を考える上でも、子どもの頃の「座り過ぎ」の習慣をなくすことは重要な課題です。

「座り過ぎ」が子どもに及ぼす影響

 近年、子どもの座位時間の長さはさまざまな健康リスクと関係していることが示されてきました[2][3]。1日2時間より多くテレビを視聴している子どもは肥満・過体重、スクリーン時間(テレビ/DVD視聴、コンピューターやテレビゲーム使用等)の増加は、心血管疾患やメタボリックシンドロームのリスクを増加させることとの関係が認められています。また、座位時間の減少が体力を向上させることも示されています。

「座り過ぎ」は身体面のみならず、心理面にも影響を与えます。テレビ視聴時間やゲームなどに伴う「座り過ぎ」が、生活の質の低さや問題行動、うつなどと関連していることが示されています。たとえば、日本の児童・生徒を対象とした調査では、座位時間の長さとメンタルヘルスの不良に関連があることや、2年間の学校外の身体活動の変化や休日の座位行動の変化が2年後のメンタルヘルスに影響を与えていることが示されています[4][5]。また、テレビ、ゲーム、PCといったメディア機器の利用について、2つ以上のメディア機器を1日1時間以上使用しているとうつを感じやすいことが報告されています[6]

 さらに、「座り過ぎ」と学業成績についても関連があることが近年明らかになってきました。テレビ/DVD視聴、コンピューターやテレビゲーム使用等が1日2時間より多いことは学業成績の悪さと関係があることが認められており、さらにこれらが1日3時間より多くなるとIQスコアの低さとも関連することが示されています[2]

 これまで、子どもの心身の健康の維持・向上のためには、運動・身体活動を行い活動的に過ごすことが重要であるとされてきましたが、新たに運動・身体活動を始め習慣化することは難しい課題です。もちろん活動的に過ごすことは必要ですが、まずは座位行動を減らす、つまり現在行っている行動をやめるという試みやすい課題に取り組んでみることで、無理なく心身の健康また体力、学力への恩恵を受けることが期待できます。

子どもの「座り過ぎ」の実態
 

 諸外国では、子どもの座位時間を減らすため、余暇のスクリーン時間を1日あたり2時間以下とすることが推奨されています[7]。しかし、この基準値を満たしている子どもの割合は、諸外国において約30~50%と決して多くはありません。日本では、男子で35.5%、女子で40.7%[8]と諸外国と比較しても同等であり、半数以上の子どもは基準を満たしていない状況です。また、どのような座位行動をどのくらい行っているのかについて調査された結果[8]からは、小学生において平日では、読書や音楽鑑賞のために平均週あたり90分、テレビ・ビデオ視聴は535分、テレビゲームは167分、コンピューター利用は24分、宿題・課題は265分、自動車での移動は33分であることが示されています。

 みなさんの周囲の子どもの生活を見てみると、座って過ごしている時間が意外と多くあるのではないでしょうか。たとえば、学校の授業時間中のほとんどは座学であり、体を動かす時間が多いはずの体育の授業でさえも、体育という授業の特性上、他の子どもが活動している間や先生のお話を聞いている時間は座っている時間が多くあるのが現状です。諸外国では、体育の時間中の約7割は座っている時間との指摘もあります。このような現状を踏まえると、子どもの「座り過ぎ」を予防するための取り組みを行っていくことは重要な課題といえるでしょう。

子どもの座位時間を減少させるために

 近年の研究によって、子どもの座位時間に影響を与える要因の1つに、個人を取り巻く環境が重要であることが明らかになってきました。この環境要因への働きかけとして、たとえば、学校での取り組みとして、学校方針の変更や身体活動を推進するプログラムの提供等と併せ、環境要因への働きかけとしてボールやロープ等の用具提供が行われています。また、一度にグラウンドにいる子どもの人数を調整しグラウンドの人口密度を低くすることや休み時間を増やす取り組み、学校の施設として校庭を芝生化する取り組みが行われています[9]。わが国では、用具に着目した取り組みが行われています[10]。この取り組みでは、クラス単位で自由に使える用具を提供した学校としなかった学校で、業間(2時間目と3時間目の間の少し長い休み時間)および昼休み時間の座位時間に差があるか調査が行われています。その結果、業間および昼休みともに用具を提供した学校の方が、座位時間が短いことが報告されています(図)。

 わが国において、環境要因に対する働きかけは行われ始めたばかりであるため、今後研究の蓄積が望まれます。しかし、たとえば、学校場面であれば授業中座っている必要のない課題を取り組む際には立って行うことや休み時間は外に出ることへの声かけ、子ども自身が「座り過ぎ」に気づくよう健康教育を行うことなどはすぐに実施できるのではないでしょうか。また、保護者の方は子どもも座り過ぎることは悪影響があることを理解し、日常生活から「座り過ぎ」について意識することなども有効であると考えられます。このように、子どもが生活する場の状況に合わせた環境要因への働きかけ、そして周囲の大人からの働きかけによって子どもの座位時間を減少させ、その結果子どもの心身の健康増進、さらには体力、学力の向上につながることが期待されます。

  • ^Biddle SJ, Pearson N, Ross GM, Braithwaite R. Tracking of sedentary behaviours of young people: a systematic review. Prev Med. 2010, 51(5), 345-351.
  • ^Tremblay MS, LeBlanc AG, Kho ME, Saunders TJ, Larouche R, Colley RC, Goldfield G, Connor Gorber S. Systematic review of sedentary behaviour and health indicators in school-aged children and youth. Int J Behav Nutr Phys Act. 2011, 8, 98.
  • ^Carson V, Hunter S, Kuzik N, Gray CE, Poitras VJ, Chaput JP, Saunders TJ, Katzmarzyk PT, Okely AD, Connor Gorber S, Kho ME, Sampson M, Lee H, Tremblay MS. Systematic review of sedentary behaviour and health indicators in school-aged children and youth: an update. Appl Physiol Nutr Metab. 2016, 41(6 Suppl 3), S240-265.
  • ^Ishii K, Shibata A, Adachi M, Mano Y, Oka K. Objectively Measured Sedentary Behavior, Obesity, and Psychological Well-Being: A Cross-Sectional Study of Japanese Schoolchildren. J Phys Act Health. 2017, 14(4), 270-274.
  • ^Ishii K, Shibata A, Adachi M, Oka K. Association of physical activity and sedentary behavior with psychological well-being among Japanese children: a two-year longitudinal study. Percept Mot Skills. 2016, 123(2), 445-459.
  • ^Nakamura H, Ohara K, Kouda K, Fujita Y, Mase T, Miyawaki C, Okita Y, Ishikawa T. Combined influence of media use on subjective health in elementary school children in Japan: a population-based study. BMC Public Health. 2012, 12, 432.
  • ^American Academy of Pediatrics. Committee on Public Education. American Academy of Pediatrics: Children, adolescents, and television. Pediatrics. 2011, 107, 423-426.
  • ^Ishii K, Shibata A, Adachi M, Mano Y, Oka K. School grade and sex differences in domain-specific sedentary behaviors among Japanese elementary school children: A cross-sectional study. BMC Public Health. 2017, 17, 1, 318.
  • ^石井香織. 子どもにおける座位行動減少のための環境介入のシステマティックレビュー. 体力科学. 2016, 65(4), 357-366.
  • ^石井香織、高橋亮平、青柳健隆、間野義之、岡浩一朗. 休み時間の用具提供による小学校児童の身体活動推進の効果.日本健康教育学雑誌. 2015, 23(4), 299-306.

石井 香織(いしい・かおり)/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

経歴・著作など
早稲田大学スポーツ科学学術院准教授。博士(医学)。専門は発育発達学、健康教育学。東京医科大学大学院公衆衛生学講座修了。早稲田大学スポーツ科学学術院助手、同助教を経て現職。主に日本人の健康増進を目的とした身体活動を推進するための研究に従事。

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