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研究力

▼知の共創―研究者プロファイル―

岩田 浩康/高等研究所 准教授 略歴はこちらから

ヒューマノイドを超えた
ヒューマンミメティックを追究する

岩田 浩康/高等研究所 准教授

世界初の卵割りロボットを開発

 小学校4年生のときに、テレビの科学番組で、重力圏からの脱出に必要なロケット打ち上げの宇宙速度理論を聞いて、子ども心ながら「正しい理論であれば現実のモノがその通りに動くことの美しさ」に心動かされました。それ以来、宇宙ロケットの科学技術にずっとあこがれを持ち続けて、大学も迷うことなく理工学部に進みました。

世界で初めて卵を割ることに成功した“柔らかな手指”を持つロボットWENDY

 大学3年になって研究室の配属希望を出す時も、最初は宇宙科学技術と関連の深い、流体工学の研究室を第一希望にしていました。ところが、ロボット工学の菅野重樹先生(現・早稲田大学理工学術院教授)の研究室を偶然訪問し、機械なのに“柔らかい腕”を持つロボットアームを見て、その発想のユニークさと卓越した技術力にすっかり魅せられてしまった……。どうしても菅野研究室に配属希望を変えたいと、締切後だったのに大学に根気よく掛け合ったところ、A4用紙1枚の反省文を書かされはしたものの(笑)、変更を受け入れてもらえることに!これが一つの転機となりました。

 この頃、菅野研究室では、超高齢社会に向けて「人と共存するロボット」を目指した研究開発に取り組んでおり、国の大型プロジェクトの中で卒論研究を進めることになりました。試行錯誤を重ね、構造的に柔らかい機構を関節に組み込んだ等身大の双腕マニピュレータを開発しました。その直後、大学院修士課程1年の時には、人間共存ロボットWENDYプロジェクトの立ち上げから参画する幸運に恵まれ、世界で初めて卵を割ることのできるロボットハンドの技術開発に成功したのです。

目指すは「ヒューマンミメティック」

 博士課程修了後には、人間共存ロボットTWENDY-ONEのプロジェクトリーダーを任されました。介助支援や家事援助を行える本格的な「役に立つロボット」の実現を目指した5年間のプロジェクトです。企業の技術者や学生と密に連携し、画期的なアイデア・知恵を創出してはそれを具現化してゆきつつ、開発プロジェクト全体を推進していくのが、私の役割でした。目指したのは、これまでのヒューマノイド(人型)ロボットを超えた、ヒューマンミメティック(人を模倣した)なロボットの体現です。

WENDY(写真左)をベースに、人間共存ロボットTWENDY-ONE(写真右)を開発

 それまでのWENDYは、人のような形の腕や指を備えていましたが、機能的には人の手腕の巧みさには遠く及びませんでした。そこで、人間共存に必要なロボットの機能 、人への安全性、動きの巧みさ、コミュニケーション性、意匠性などをすべて備えたロボットの設計理論をゼロから作り上げる覚悟を決め、プロジェクトをスタートさせました。正しい理論を作れば、人間共存ロボットは実現できるはず!という強い信念を抱きつつ…。

 ロボットの開発では、限られたスペースに多種多様なデバイスや部材を高密度に配置しつつ、どの関節を同時に動作させても、断線や機械的干渉を起こさず、矛盾なく全体を成立させるだけでも大変です。ところが、TWENDY-ONEでは、それに加えて、特殊な皮膚素材・関節機構・センサ構造を手や腕に組み込むことに挑み、人間共存ロボットの設計で最も困難と言われていた、動作の巧緻性と対人安全性の両立を、高水準に実現させてしまったのです。

道具を巧みに扱いつつ家事支援を行うTWENDY-ONE

 2007年11月に公表したところ、世界中に発信され、大きな反響を呼びました。実は、TWENDY-ONEは、経産省が2017年頃に掲げたロボット開発の達成目標を、2007年の時点ですでにクリアしてしまっていたのです。加えて、先進国の多くが超高齢社会を目前に控え、介助ロボットの必要性を感じながらも、具体化できずにいた最中での発表だったため、TWENDY-ONEは、実際的な解決手段として、世界中のマスコミやロボット専門家から大きな注目を集めることになりました。

 5年間、週に平均3回も徹夜し、1日20時間もミーティングを行うなどの日々が続き、妥協しないものづくりを追求し続けたこの経験は、自分のキャリアの大きな転機となりました。

システムインテグレーション工学の確立へ向けて

 TWENDY-ONEのプロジェクトに携わる中で、プロジェクトの成否を左右する「システムインテグレータ」とでもいうべき専門能力の確立が必要ではないかと思うようになりました。未確立ではありますが、「システムインテグレーション工学」という学問体系を私なりに構想してみると、次の3つの考え方が重要であるといえます。

 第1に、「ユーザとの関係性のデザイン」。人とロボットとの良い関係性とは何かを追究し、かたちにすることです。例えば、「介助」とは何か?ベッドに横たわる人を、抱き寄せ、持ち上げ、運んであげることでしょうか?私たちは、むしろ人が自力で起き上がり、自力で立ち上がれるよう、そっと手を差し出して支えることだろうと考えました。

 TWENDY-ONEで構想した介助は「自立支援」であり、そのための「ミニマムサポート」です。人が自分で動けるようになっていけば、サポートの度合をどんどん軽くしていけばいいのです。現実に、介護が必要なお年寄りのうち、半分以上の方は介護度2以下の比較的軽度の方ですから、すべての方にフルサポートをする必要はないと考えます。こうした社会的な視点をもったデザインが重要です。

 第2に、「ハードとソフトの統合デザイン」。これは、身体と知能をバランスよく設計することです。例えば、指先で薄いアクリル板をつまみあげるとき、爪がなければ成功しません。身体というベースとなるハードウェアと、それを使いこなす人工知能というソフトウェアの双方のバランスのとれたシステムデザイン、つまり、形態―機能―機構をトータルにデザインしていく統合的な視点が非常に大切となります。

大規模プロジェクトにおけるシステムインテグレータの役割は多様だが、なかでも問題解決のためのスキマを発見できるかどうかが結果の成否に深く関係する。

 TWENDY-ONEのハードウェア設計の本質は、「機械の柔らかさ」にあります。柔らかさを腕・体幹の皮膚や関節に取り入れると、不意にロボットと人がぶつかっても、衝撃が吸収され、接触した人の安全を確保できます。指先や手の平、指の関節に取り入れれば、つかみにくい複雑な形状のモノでも、皮膚や関節が自然となじんで接触面積が広がるため安定性が増してモノを落としにくくなり、高い巧緻性を実現できるようになります。こうした柔らかさを実現する設計に着眼したことが、簡単な制御だけでも、卵を割ったり、細いストローを指先で操ることに世界に先駆けて成功した秘訣と言えます。

 第3に、「トレードオフ関係を形成する機能間のバランシング」。目的に向かって多数の要素技術を統合していく際に、要素間に生じる矛盾の解決を図っていくことです。TWENDY-ONEのように多機能の両立を追求する場合、避けては通れません。高機能化vs低コスト化、高柔軟化vs小型化、機能vs意匠など、数多くのトレードオフ問題に直面し、そのたびに、システムインテグレータ(私)を中心に知恵をひねり出し、解決してきました。このバランスを見誤ると、システムインテグレーションは失敗してしまいます。

自立支援のためのミニマムサポートを目指す介助ロボットTWENDY-ONE

 システムインテグレーション工学は、すべての工学の集大成といっていい分野です。企業との協働も含め、各分野のスペシャリストと交渉するときには、相手の方が専門技術に造詣が深い場合もありますが、それに臆することなく、目標の達成に必要な要求を出さなければなりません。そのためには、工学的な論拠はもとより、人間科学や現象学、社会学、経営学などの学際的な知見を融合した哲理を自ら見出し、相手を納得させられるストーリーとビジョンをしっかり立てておくことが大切です。このとき、考えられ得る条件に応じていくつものストーリーを構想しておき、現実の制約条件を満たしつつも、理想的な目標にできるだけ近づく満足度の高い解決方法へのソフトランディングを模索してゆけるバランス感覚が重要になると考えています。

ロボット技術で脳の可塑性を証明したい

 ここ数年、興味を持って取り組んでいるのが、脳梗塞などで片麻痺となった方々を支援するために開発した、認知運動療法とロボット技術(RT:Robot Technology)を併用した新しいリハビリ支援システムです。これまでのリハビリでは、筋力を増強するための運動療法が中心で、脳機能の回復のための認知面の療法はあまり取り組まれてきていません。これに対して、身体は正常のままであり、そもそも脳から身体へ信号を送る機能が途切れてしまっているのだから、脳を刺激して機能再生を図るべきと主張するのが、認知運動療法です。

 片麻痺の患者さんは、麻痺側の半身から脳に刺激が届きにくい状態にあります。認知運動療法の施術に携わるセラピストの方々は、手作業で患者さんの麻痺側の身体を刺激しながら、身体感覚に注意を向けるよう誘導しようとしますが、その伝達は難しく、うまく行かないことも多いのが現状です。ここでバイオフィードバックに基づくシステムを導入すれば、患者さんは自分一人でも訓練を行えるようになるはずです。そこで私は、麻痺している側の足底の圧力をセンサで検出し、麻痺がない箇所にバイオフィードバックする知覚支援のためのRTを、世界で初めて開発しました(国際特許も申請済)。

 片麻痺では、麻痺している側の足が、通常のように地面に着地せず、外側にばかり体重がかかってしまう内反現象がよく観察されます。この時、麻痺していない身体の部分、例えば背中などに振動モータなどを装着し、まっすぐ足が着地できたら「OK」の信号を、着地していなければ「NO」の信号を、触覚刺激を使って本人に分かるように伝えます。

 バイオフィードバック技術を使えば、途切れている神経の代わりをバーチャルに果たしてやるバイパス・ルートを提供できます。実際に患者さんを対象とした実証実験で、内反が改善される回復効果が確認されています。さらに、脳神経科学に基づく検証も行ったところ、フィードバックの刺激を頼りにリハビリを進めてもらうと、麻痺側の感覚野が活性化されることが初めて観察されました。このことから、RTを用いて身体感覚に意識を向けやすくした訓練を行うことで、脳の可塑性を促進できる可能性が現実味を帯びてきたのです。

 こうした研究開発は、ロボット技術(RT)に無関係と思われがちですが、いかにもロボットの形をしているものを創ることだけがロボット技術ではないのです。これまで30年余り、ロボット研究者は、様々な技術を開発し統合しながら、人間社会を支援するための技術の体系を構築してきました。その技術やノウハウ、思想を社会に還元していくためにも、ロボット技術をベースに、先ほど私が述べたシステムインテグレーション工学を今後さらに深化させてゆくことが必要であり、私もそれに貢献してゆきたいと思います。

知覚支援RTの一例。ここでは、麻痺側の足底圧をセンサで検出し、その値に基づき、健側の肢体上を圧刺激するバイオフィードバックの仕組みを採用。

岩田 浩康(いわた・ひろやす)/高等研究所 准教授

2002年、早稲田大学大学院理工学研究科(知能機械学・機械システム)博士後期課程修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部機械工学科助手、同大学院理工学研究科講師、同先端科学・健康医療融合研究機構(ASMeW)講師、同助教授を経て、2007年10月より現職。高等研究所(テニュア・トラックプログラム)に所属。2003-2007年、 TWENDY-ONEの開発リーダーおよびシステムインテグレータを務める(http://twendyone.com/index.html)。文部科学大臣表彰若手科学者賞(平成21年度)等受賞(http://www3.atword.jp/wasedatech/archives/531)。

WASEDA早稲田大学研究推進部 http://www.waseda.jp/rps/