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研究力

▼知の共創-研究者プロファイル-

岡島 義(おかじま・いさ)/早稲田大学人間科学学術院 助教  略歴はこちらから

認知行動療法で睡眠障害を治し、睡眠から不安障害や鬱を見直す

岡島 義/早稲田大学人間科学学術院 助教

臨床心理に魅せられて

 心理に興味をもったのは高校時代、保健体育の先生が臨床心理士資格を取るために大学院に通っていて、授業にペルソナ(仮面)という手法を使った演劇を取り入れたことがきっかけでした。その時、「きみは演じることに力を入れすぎて、感情が伴っていないのでは」と指摘され、確かに自分でも薄々そうかなと感じていたふしもあって「へえ、人間の心理がこんなふうに読めるのか」と感心させられて、大学で心理を学ぼうと思いました。

 ところが大学で学んだ心理学は、臨床心理学よりも、社会心理や認知心理、知覚や感覚など、もっと基礎的な理論が中心で、自分がイメージしていた心理学とはだいぶ違っていました。はじめは少し幻滅したのですが、学んでいくうちにどんどん面白くなってきた。そうした基礎理論を知っておくことは、その後、臨床心理学に進む上でもとても大切で役に立つものでした。

 一方でますます臨床心理学を学びたい気持ちがつのり、心理療法の本を読みあさって「認知行動療法」という新しい分野があることを知りました。患者さんの話を傾聴する従来の心理カウンセリングに留まらず、患者さんの実際の言動に寄り添って、認知と行動の両面に働きかけて治療につなげる方法です。例えば、エクスポージャー=曝露という、実際にそれをやると不安になる行動を患者さんと一緒にやってみたりします。電話をするのが怖いという人であれば、知り合いに実際に電話をかけてもらって、今どんな気持ちか、どういう時にどう怖いのかなどをその場で確認していく。「じゃあこういうことをあえて言ってみてください」とか、色々と試しながら、本人がつらいと思っていることを「そこまでつらくはない」と思えるところへ持っていく。認知と行動を変えていくことで、つらいことに向き合いながらもより豊かな人生を送れるようにするのが認知行動療法のねらいです。

 当時早稲田大学にいた坂野雄二先生(現・北海道医療大学教授)が日本では先駆的な活動をされていて、ぜひ指導教員に仰ぎたいと訪問したところ、ちょうど北海道に移られるところだったので、坂野先生を追いかけて私も北海道医療大学へ進学しました。研究では、認知行動療法に効果が高いといわれる社交不安障害をテーマに据えました。人前に出ると緊張する、人とうまく話せないなどの対人不安や、広場恐怖、閉所恐怖といった一連の不安障害について、その典型的な症状である「安全確保行動」に着目して調査研究に取り組みました。例えば緊張が高まると、人前での発表の最中はずっと目をふせて原稿ばかり見たりといったことがありますね。こうした安全確保行動は、誰しも少なからず体験していますが、社交不安障害の人とそうでない人との比較調査を行ったところ、取っている安全確保行動の量に違いはないのに、不安症状そのものへの影響度に違いが見られました。社交不安障害の人では、安全確保行動そのものが、否定的な信念の維持要因としての役割を果たしてしまっていること、安全確保行動そのものを曝露療法の対象とすることで高い治療効果が得られることなどが分かりました。

臨床は日々の試行錯誤の蓄積

 臨床心理学を専攻したとはいえ、大学院時代も研究が中心で臨床は現場で少し実習体験をする程度でした。臨床心理学を専門とする以上、治療の現場に出ないと意味がないと思っていましたので、大学院博士課程を修了するとすぐに、東京の代々木にある公益財団法人神経研究所とそこに併設される代々木睡眠クリニックという、臨床と研究が一体となった職場で働きはじめました。そこで初めて「睡眠」「不眠」というテーマを専門とすることになったのです。

 睡眠の著名な研究者である井上雄一先生から、最初に「1ヵ月あげるから、不眠症の認知行動療法について勉強して、自分で治療プログラムを作ってみなさい」と指導され、ひたすら海外の資料を読みあさり,作成したプログラムを患者さん相手に活用してみましたが、なかなかうまくいかない。研究で正しいと言われることが必ずしも通用しない臨床の難しさを、ガツンと実感させられました。どうしたら知識や理論を治療に繋げていけるのか、そこは現場に出てひたすら患者さんを診る中での試行錯誤です。患者さんからもフィードバックをもらい、1つ1つのエビデンスから学びを得るという繰り返しを今日まで続けてきて、臨床の技術はなんとか洗練されてきたかなと思います。

 不眠症のプログラムは一般的にはまず、病歴・症状を聞く=アセスメント、そして心理教育=一般的な睡眠の改善法、注意点などについて話をして、生活で足りない部分はどこかを聞いて、そこを次回までにやってみてもらうようにします。その次には、筋弛緩法という、眠る前や床に就いてからの身体の緊張をときほぐす訓練をやってもらう。その他にも、ふとんに入っている時間と実際に眠れている時間が乖離し過ぎると眠りの質が悪くなることが分かっているので、逆に5時間なら5時間だけ眠ると決めて、ふとんに入っている時間も5時間にするなど制限をかけることで、眠れた感じがぐっと上がるといった効果を試してもらいます。

 同じようにやっていて治療がうまく進んでいるはずなのに、効果が出る人と出ない人がいることを目の当たりにできるのが、臨床の醍醐味です。「臨床疑問」というものが常にあって、臨床をやりながらデータを取って研究に繋げて、研究成果が出れば「これくらいの患者さんが良くなっていますよ」と実証的なデータを患者さんに還してさらに役立てていく。研究成果はもっぱら国際的な学会誌や国際会議で発表してきましたが、海外で評価され論文賞も受賞することができました。臨床と研究の理想的なサイクルがまわせる職場で7年働いた後、本学に着任しましたが、現在でも睡眠クリニックでの臨床研究は続けています。

1人ひとりに最適な治療法を

 日本では不眠症をはじめとする睡眠問題を専門に研究している臨床心理学者というのは、じつはほとんどいません。不眠というのは何らか他の病気に付随する副次的現象と見なされており、主たる研究対象ではなかった。でもよく考えてみると、睡眠というのはじつに様々な心理的・身体的な病気や不調に、横断的に関係しているものです(図1)。もしかすると睡眠が主で、他の様々な症状が従なのではないか、睡眠を積極的に改善していくことで、薬を使わずに心も身体もぐっと健康になるのではないか、そこを究明するのが自分の臨床心理学者としての使命だと考えるようになりました。そのためには、広く世の中に向けて睡眠に関する知識を広める啓発活動も大事な役割だと思っています。一般向けの啓発書として『認知行動療法で改善する不眠症』(共著)や、『4週間でぐっすり眠れる本:つけるだけで不眠が治る睡眠ダイアリー』という、毎日の睡眠習慣を記録しながら睡眠を改善していくワークブック形式の本も出しています(写真)。

図1 睡眠は日々の精神や身体のコンディションのあらゆることに関係している

岡島義・井上雄一 共著『認知行動療法で改善する不眠症』(すばる舎、2012)

岡島義著『4週間でぐっすり眠れる本:つけるだけで不眠が治る睡眠ダイアリー』(さくら舎、2015)

世界認知行動療法会議(メルボルン)でのポスター発表(お腹に抱いているのは眠ってしまった我が子)

 大学では、人間科学研究科の大学院生向けの課外活動として「スリープ・ジャーナルクラブ」を主宰し、10人ほどの学生たちと月1回興味ある論文を要約して発表するという輪講ゼミ形式の活動を行っています。様々な研究テーマに取り組んでいる学生に横断的に集まってもらい、各自の興味関心と睡眠という切り口を結びつけながら議論してもらうことがねらいです。

 睡眠の世界は勉強すればするほど面白くて奥が深いです。認知行動療法が不眠症や社交不安障害の治療に効果があることは分かっているので、その理由=媒介要因をとことん追究していきたい。臨床と研究で蓄積した知見から、究極的には認知行動療法のアルゴリズムができるのではないかと考えたりしています。そう簡単なことではないでしょうが、1人ひとりの患者さんに合った治療法を的確に提案していく方法を確立することが大目標です。

岡島 義(おかじま・いさ)/早稲田大学人間科学学術院 助教

2003年日本大学文理学部心理学科卒業、2008年北海道医療大学大学院心理科学研究科博士課程修了、博士(臨床心理学)。日本学術振興会特別研究員、公益財団法人神経研究所附属睡眠学センター研究員、東京医科大学睡眠学講座客員講師,医療法人社団絹和会睡眠総合ケアクリニック代々木主任心理士を経て、2015年より現職。受賞歴に2007年日本認知・行動療法学会内山記念賞、2011年The Worldsleep2011 Poster Prize、2012年日本睡眠学会第17回睡眠研究奨励賞、2013年不眠研究会大熊賞、2016年牛乳乳製品健康科学会議若手研究者奨励賞、2017年早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)他

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