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研究力

▼知の共創-研究者プロファイル-

柳谷 隆彦(やなぎたに・たかひこ)/早稲田大学理工学術院 准教授  略歴はこちらから

超音波のユニークな特性を引き出し
近未来社会に大きく役立てる

柳谷 隆彦/早稲田大学理工学術院 准教授

大学院時代に世界初の発見

 大学生の頃は研究者になろうとは考えていませんでした。安定して給料のいい仕事に就きたいと近視眼的な考えで就職活動をしましたが、やりたいことが見つからず、じゃあ就職を先延ばしするかという中途半端な動機で修士課程に入りました。学部時代は指導教員のトップダウンの指示で研究していて、正直あまり実験を楽しめなかったのですが、大学院で入った研究室は正反対に自由放任で、学生がそれぞれの自主性で研究を進めるという方針でした。これがどうも自分には合っていたようです。

 学部2年生の授業で圧電体を叩いて高電圧を発生させる実験が楽しかったことを思い出して、進学してすぐにやり始めたのが、圧電薄膜の研究でした。着手してすぐの夏休みに、初めて結晶が横方向の圧電薄膜を発見することになりました。そもそも実験装置が壊れていて、知らずに実験していたのがよかった偶然の産物でもありました。それでも、寝食を忘れて実験を行い常に再現できる状態にまでもっていったこと、横方向薄膜が世にない高周波横波音波を発生することに気付いたことは、褒めてあげられる点かもしれません。

 指導教員は最初は「ホンマに横波出るんか?」と疑心暗鬼でしたが、「特許を申請したらどうや。ホンマに使いもんになるんやったら企業が評価するはずや。提案書も自分で書いてみ」と言われ、書類を作って関西TLO(*大学の技術を社会に広げることを支援する技術移転機関)に持ち込んでみました。特許出願費用を出してもらうことができ、企業への売り込みも行いました。そこから、大手メーカーとの共同研究がスタートし、最終的には500万円ほどで特許契約を結びました。

 就職もできず大学を卒業したばかりの自分が、夏休みのたった一週間程度の実験から、数百万円もの大金を手にしてしまったわけです。共同研究は博士課程を修了後もずっと続き、工場で量産機を導入するところまで行きました。大学教員でもなかなか体験できないような、特許出願から量産開発までを学生のうちに一通り体験して、研究がすっかり面白くなり、研究者の道に入っていきました。

数十年後に花咲く研究を目指す

 最初に研究を特許にして社会に出すことを経験したこともあり、数多くの論文を書くことより、本当に意味のある成果を出すことを重視して研究に取り組んでいます。基礎研究を世の中に普及させるには十年~数十年単位の時間がかかります。企業の研究開発とは異なり、数十年後に花咲く研究を行うのが大学の機能であり使命と考えて、研究を行っています。先ほどの横波音波を発生させる圧電薄膜の研究も、ずっと続けています。

 例えば、固有振動している橋げたにクルマが通ると、その重みによって固有振動数は変化します。この原理をナノレベルに置き換え、液体中の圧電薄膜を橋げたに見立てて、そこに付着した抗原(クルマ)の濃度を、圧電体の超音波振動で測定しようというものです(図1、2)。より高い周波数の超音波を発生させるためには圧電体の薄膜化が必要で、また抗原抗体のようなウエットな生体物質を測定するには、液体に浸しても振動エネルギーが液中に漏れていかないよう、横波共振する圧電体が必要でした。しかし通常の圧電体は縦波振動しか発生させられず、横波を発生させるには薄膜の結晶を縦方向ではなく、横方向に生成させる方法を見つけなければなりません。これはまだ誰も成功していませんでした。

図1 圧電体による超音波センサのしくみ

図2 圧電薄膜を用いた抗原抗体反応センサ

 企業と進めていた実用化研究では、医療分野に割って入るには様々な壁があって、リーマンショックの頃に勇気ある撤退を行いましたが、近い将来、人々の健康のために予防医学に役立てていくという大きな目標を掲げて、基礎研究に取り組んでいます。その後も圧電薄膜の結晶を斜めに成長させるスパッタリング成膜法を発明し、結晶が30度の角度のときに圧電薄膜にかけた電気エネルギーが最も効率よく機械的振動に変換されることを発見しました。世界最高性能の横波圧電効果を得ることができています(図3~5、科研費NEWS)。このセンサを用いれば、プールにスプーン1杯程度の低濃度のタンパク質を検出できる可能性があります。

図3 タンパク質を検出するバイオセンサのしくみ

図4 ScAlN薄膜の横波電気機械結合係数と結晶c軸傾斜角度の関係

図5 ScAlN薄膜の横波電気機械結合係数とSc濃度の関係

 医療・予防医学だけでなく、電子部品等の検査に用いる超音波顕微鏡の研究にも取り組んでいます。近年、自動車のエレクトロニクス化に伴って、安全に直結する車載部品の検査技術の向上が期待されています。こうした領域で将来、高分解能な検査装置に活用できる超高感度超音波プローブなどの研究は重要課題です。医療分野での生体組織の高分解イメージングへの期待も高まっています(図6)。私たちの研究室では、YbGaN薄膜による巨大圧電効果や、ScAIN薄膜における極性反転現象の発見に成功しており、従来の超音波顕微鏡に比べて5倍以上の高感度性能を発揮できる可能性を開いています。

図6 超音波顕微鏡による皮膚組織イメージング

大きな企業共同研究契約

 さらに最近になって、ここではまだ言えないのですが、研究室でブレイクスルーがありました。スマートフォン向けの高性能な周波数フィルターへの活用が期待されるもので、単身アメリカに渡り世界的大手メーカーに売り込みに行ったところ、特許を1100万円で買い取ってくれるとともに、共同研究費として4200万円、合計で5300万円もの巨額の資金を提供してもらうことができました。これは単独の教員に対しては日本ではなかなかあり得ない数字です。どれくらい凄いかというと、特許収入1100万は本学の通常の年間特許収入全体の半分以上ですし、共同研究費についても日本全体の企業-大学共同研究費の約0.1%にもおよぶ金額です。

 なぜこんなに金額が大きいかというと、実用化されると1台のスマートフォンに各国ごとの周波数帯域に対応したフィルターが数十個も搭載されることになり、それが全世界で十億台のオーダーで生産・販売されるわけですから、市場性がとてつもなく高くなります。

環境電波でセンサが自動充電

 これからはさらにスマートフォンだけでなく、衣服やコンタクトレンズなど、あらゆるモノや人間の身体の中まで、そこらじゅうに微細なセンサが装着され、それがネットワークで繋がるいわゆるIoT(Internet Of Things)といわれる世界がやってきます。1兆個もの大量センサからビッグデータが収集され分析される「トリリオン(1兆個)センサによるビッグデータ社会」の到来です。そこで必要となるのが、これらのセンサを充電し続けるための新しい技術です。私たちの研究室では、周囲の電波によって充電する環境発電デバイスの研究を進めています。先に紹介した世界一の圧電効率を持つ薄膜を用いて、センサ自体がみずから環境電波を集めて充電するようにします(図7)。

 この研究は、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)のさきがけに採択され、「分極反転構造の圧電トランス薄膜音響共振子による電波発電」という3年半の研究テーマで5700万円ほどの研究資金をいただいています。環境電波発電デバイスについてはすでに特許も出願済みです。

図7 独自の環境電波発電でバイス

図8 電池レス・配線レスのセンサネットワークの構築

 本学に来てまだまもないですが、研究業績が評価されて、2016年度の早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)を受賞することができました。超音波は、電気工学と機械工学の境界領域に位置するユニークな融合研究分野で、この分野でしかできない提案がたくさん考えられます。研究仲間や研究室の学生たちと一緒に、超音波工学でなければできない可能性をこれからも追求していきます。

柳谷 隆彦(やなぎたに・たかひこ)/早稲田大学理工学術院 准教授

2001年同志社大学工学部電子工学科卒業、2003年同大学院工学研究科電気電子工学専攻博士前期課程修了、2006年同博士後期課程修了、博士(工学)。産総研関西産学連携センター特別研究員、東北大学大学院工学研究科電気・通信工学専攻知的電磁系計測分野(日本学術振興会特別研究員PD)、  産総研ナノテクノロジー部門ナノ機能合成グループ(日本学術振興会特別研究員PD)を経て、2008年名古屋工業大学機械工学科計測分野共通教育コアメンバー(旧教養部物理学教室)助教(任期あり)、2012年同助教(任期なし)。2015年より早稲田大学理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科准教授。2016年科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)、2017年理工学術院研究重点教員(戦略枠外)。2016年度早稲田大学リサーチアワード(国際発信力)受賞ほか、受賞歴多数。

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