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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

低炭素社会を支えるグリーンITで
日本の競争優位を確立する

グリーン・コンピューティング・システム研究機構

 2010年代に入って、我が国の科学技術立国戦略の2本柱に掲げられているテーマが、「ライフ」と「グリーン」である。ライフは高齢社会における生命・健康にかかわる科学技術、グリーンは地球温暖化を抑制し、20世紀の化石燃料への依存から脱却する低炭素社会の確立にかかわる科学技術を意味する。

グリーン・コンピューティング・システム研究開発センター(喜久井町キャンパス/新宿区早稲田)

 とりわけ後者のグリーンは、政府の科学技術関係予算の半分を占める最重点分野とされる。エコやクリーンをさらに進めた環境政策の新たなキーワードで、世界中で今、20世紀の化石燃料依存型の経済社会から脱却し、新しい経済社会システムの確立へ向けたより根源的な革新――「グリーン・イノベーション」を目指す取り組みが、幅広い分野で展開されている。

 その重要な1分野が「グリーンIT」といわれる、情報・エレクトロニクス分野での技術開発で高度なエネルギー効率化と生産性向上を実現する取り組みである。情報化のさらなる進展により、社会全体で取り扱われる情報量は、2025年には約200倍(2006年比)にもなるといわれる。爆発的な情報社会の発展によりIT機器やシステムの消費電力量が470億kWh(2006年)から、2025年には約5倍の2400億kWhにまで増大することが予測されている。コンピュータを人間社会のために効果的かつ効率的に活用する技術が求められている一方で、消費エネルギーの効率化が大きな課題となっている(*)。
(*参考:グリーンIT推進協議会)

左から、笠原教授(プロジェクトリーダー)、松島教授(研究機構長)、酒匂孝之事務長

 2009年、早稲田大学はIT分野で日本のグリーン・イノベーションを牽引していくための産学連携による研究開発拠点の整備を目指し、同年度の経済産業省の競争的研究資金「産業技術研究開発施設整備費補助金(先端イノベーション拠点整備事業)」を獲得、大学も予算を拠出して、2011年4月に早稲田キャンパスにほど近い喜久井町キャンパスに「グリーン・コンピューティング・システム研究開発センター」を竣工し、最先端の研究環境と設備のもとで活動を本格的に始動させた。
また、その中心的な役割を担う研究組織として、「グリーン・コンピューティング・システム研究機構」を2010年11月に設置した。

 その目指すところについて、グリーン・コンピューティング・システム研究機構長を務める松島裕一・研究戦略センター教授と、グリーン・コンピューティング・システム研究開発センターのプロジェクトリーダーを務める笠原博徳・理工学術院教授に話を聞いた。

世界最高性能のマルチコア技術を核に

 「本学にはもともと、情報・通信分野の研究開発を戦略的に展開するための組織として、2004年6月にIT研究機構が発足しており、本庄や北九州を含むすべてのキャンパスの教員が横断的に連携して、共同研究を推進してきました。そのなかから、アドバンストマルチコアプロセッサ研究所知覚情報システム研究所の2つのプロジェクト研究所が独立し、グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所が新たに加わって、グリーン・コンピューティング・システム研究機構を結成することになったのです」(松島教授)

 同研究機構の発足の契機となったのは、コアとなる研究領域であるアドバンストマルチコアプロセッサでの圧倒的な優位性である。プロジェクトリーダーの笠原教授は、1チップ上に複数のプロセッサコアを集積するマルチコア、さらに64コア/128コア/256コアと高集積化するメニーコアといわれる次世代の超高集積マルチプロセッサの実現へ向けて、世界最高性能を誇る並列化コンパイラ技術や、超消費電力を可能にする制御技術を実現してきた。

図1 世界最高性能のOSCARコンパイラの性能

 2000年代に入って、日本では国家プロジェクトとして並列化コンパイラ、情報家電用のマルチコアプロセッサを開発していこうという機運が高まるなか、笠原教授は2000年から日立、富士通などコンピュータ業界のリーディングカンパニーとの産学連携共同研究を組織して政府のプロジェクトに参画し、日本の競争優位を築くことを目指した研究開発を推進してきた。

 「今回の取り組みは、この10年間で我々が築いてきた世界最高性能の技術を基盤として、次世代メニーコアプロセッサ技術を発展させるとともに、それを用いた製品化へと結びつけていくための応用開発を同時に手がけていこうというものです。汎用的なプロセッサ技術だけを開発していても、産業の競争優位にはつながりにくい。先行技術の優位を市場と利益の優位へつなげていくために、効果的な技術移転を果たしていく必要があります。情報家電や自動車のメーカー企業との共同研究へと産学連携の裾野を広げて、戦略的な製品開発に特化したプロセッサを迅速に開発し、日本の得意とする分野で国際的に高い市場と利益を確保していくことを狙っています」(笠原教授)

図2 世界唯一コンパイラによる消費電力削減に成功

 コアとなる研究領域では、これまでの成果である世界最高性能の自動並列化コンパイラ技術、世界唯一の実行時プロセッサの消費電力制御を可能にした並列プログラム生成技術などを基盤として、さらに(1)次世代の超低消費電力メニーコアプロセッサ技術、(2)それを用いたサーバの実現、(3)メニーコアプロセッサ用並列化コンパイラ技術、(4)メニーコア用API(アプリケーション・プログラム・インタフェース)の研究開発に取り組んでいく計画だ。

 基盤技術に加えて、情報家電、医用画像処理、自動車、ロボット、クラウドサーバ、超高性能コンピュータへの応用研究開発に、産官学連携プロジェクトを組織して波及効果を広げていく。すでに日立、富士通、ルネサスエレクトロニクス、NEC、オリンパス、デンソー、トヨタ、三菱電機などとの共同研究が始まっている。

 さらに高齢者介護ロボットの音声認識用プロセッサや、安全安心な情報通信のためのソフトウェア工学といった早稲田大学が得意とする分野での応用研究を深めていくために、研究機構の発足に尽力した白井克彦前総長らも、プロジェクトのメンバーとして参加している。

図3 グリーン・コンピューティング・システム研究開発センターの目指す産学連携研究開発と実用化の波及効果

太陽光発電で動くプロセッサの実用化へ

左:センター屋上に設置された太陽光パネル
中:日米の最高性能マシンが設置されたサーバールーム
右:太陽光発電の消費状態はモニターにリアルタイムで表示される

 2011年4月に竣工したグリーン・コンピューティング・システム研究開発センターは、屋上を含めて地上8階建。2階のサーバールームには、世界最高性能の並列コンピュータが2台設置されている。富士通のM9000 Sparc VII 256コアSMP、日立とIBMの共同開発によるPOWER 7 128コアSMPという、日米それぞれの最先端プロセッサを搭載した世界最大級のSMP(シンメトリックマルチコアプロセッサ)マシンである。

2011年5月13日に開催された、センター竣工記念シンポジウム「未来を拓くグリーン・コンピューティング」では、早稲田大学の参加教員や連携企業の方々が、研究開発ビジョンについて講演を行った。

 また8階屋上にはソーラーパネルを設置し、2階のサーバールームに電力を供給、太陽光で駆動する低消費電力のコンピュータ技術の実用化へ向け、チップやクラウドコンピューティングの実証実験を行っている。「以前から手がけている研究ですが、今回の大震災を考えると、太陽光で安定的に駆動する携帯電話や携帯端末を、一刻も早く実用化しなければと強く思いました」(笠原教授)

 共同研究企業からも、多数の研究者が客員教授、招聘研究員という立場で参画する。3~7階を占める研究スペースのうち、3~4階はセキュリティに配慮した産学共同研究フロアで、共同研究企業の入居スペースが確保されている。「製品化に近いところの研究開発を行うとなると、企業秘密を守れる研究環境が必要になります。センターには通常の大学キャンパスでは得られない、企業の研究者が安心して共同研究に打ち込める環境を整えています」(笠原教授)

 国際的な競争優位を確保していくうえでは、国際的な特許戦略も重要になる。センターには共同研究契約のマネジメントや知的財産マネジメントを行うスタッフも配置し、研究者が研究に集中できる環境が整備される。「産学連携に特化した共同研究拠点として、本格的な環境を提供することを目指しました。大学としてどこまでできるか、ベストを尽くしたい。本学にとっても新しいチャレンジと考えています」(松島教授)

図4 グリーン・コンピューティング・システム研究開発センターの3本柱

 国際会議やセミナーが実施できるよう、2階には100席、1階には160席収容のプレゼンテーションルームが設置されている。2012年9月には、世界のトップ研究者を集めて、グリーン・コンピューティングの国際会議を実施する計画である。

 「こうした最先端の共同研究への参加を通じた人材育成も、重要な柱の1つです。ここで学んだ博士課程の大学院生が、企業の研究者として就職し、独創的な技術開発に貢献していくことまでを含めて、我々のプロジェクトの目標です」(松島教授)

 グリーン・イノベーションは、単なる温暖化抑制や省資源・省エネルギーを超えて、21世紀の持続可能な社会経済システムの基盤となっていくべきものである。「日本の高い技術力を、独創的な製品開発へ結びつけていくという戦略目標の一方で、グリーン・コンピューティング・システムは、地球上の生命を守り、持続させていくのに貢献すべき技術です。医療分野や、災害予測シミュレーションなどにも積極的に応用を進めていきたいと考えています」(笠原教授)

 世界最高性能の基盤技術を、日本の産業競争力に結びつけ、さらに持続可能な地球社会の形成へ貢献していくことを目指す、早稲田大学のグリーン・コンピューティング・システム。次の10年で、その目標は着実に実現へ移されていくことになるだろう――。

センター外観/自由に角度が変えられるパネルで窓からの日差しをコントロールし室内温度を調整するなど、建物もグリーンな設計がなされている

関連リンク

グリーン・コンピューティング・システム研究機構
http://www.kikou.waseda.ac.jp/gcs/

グリーン・コンピューティング・システム研究開発センター
http://www.kikou.waseda.ac.jp/gcs/gcscenter.html

アドバンストマルチコアプロセッサ研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/gcs/WSD322_open.php?KikoId=07&KenkyujoId=001&kbn=0

知覚情報システム研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/gcs/WSD322_open.php?KikoId=07&KenkyujoId=002&kbn=0

グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/gcs/WSD322_open.php?KikoId=07&KenkyujoId=003&kbn=0

早稲田大学 理工学術院
http://www.waseda.jp/foc/index.html

早稲田大学 笠原研究室
http://www.kasahara.elec.waseda.ac.jp/index.ja.html

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