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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

次世代パワーデバイスの開発で
電力超低損失社会を実現する

グリーンデバイス研究所

 地球にやさしく、環境負荷をできるだけ削減する手段や行為を、最近では広く「グリーン」という形容詞を付けて「グリーンテクノロジー」「グリーンIT」「グリーン経営」「グリーン消費」などと呼ぶ。エネルギーの生産と消費の効率を高め、二酸化炭素(CO)をはじめとする温暖化ガスの排出削減に寄与する様々な技術や知恵、プロダクトやライフスタイルの確立が、将来の社会を支える重要な社会的・経済的課題となっている。

グリーンデバイス研究所所長を務める川原田教授

 「グリーンデバイス」もまた、こうした技術分野の1つである。ひとくちにグリーンデバイスといっても幅広い。低電力消費型の情報社会を実現する「グリーンIT」を支える半導体材料やトランジスタ、ディスプレイの研究開発や、産業分野から人々の日常生活までにわたる、電力の生産・消費・貯蔵のすべてのプロセスの効率向上を実現する「パワー(電力)デバイス」の研究開発などが、重要な領域である。

 2010年に設置された早稲田大学のグリーンデバイス研究所では、こうした時代背景の下、パワーデバイスを中心としながら、グリーンITも射程に入れた研究活動を展開している。早稲田大学の重点領域研究にも選定された同プロジェクトの戦略と展望について、所長を務める川原田 洋・理工学術院教授に話を聞いた。

ダイヤモンドで創る次世代デバイス

 そもそもグリーンデバイス研究所は、文部科学省による「低炭素社会構築に向けた研究基盤ネットワークの整備」事業(NIMS公式ページ)(平成21年度補正予算)への参画をきっかけに設立された。同事業は、全国からグリーンデバイスの有力な研究シーズを有する15大学・3研究機関を選定し、国家レベルのイノベーションを効率的かつ効果的に推進しようという目的で始められたものである。早稲田大学からは川原田教授らの研究グループが「超低損失電力トランジスタ研究開発」をテーマに掲げて参画した。また平成22年度からは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造推進事業の先端的低炭素化技術プロジェクト(ALCA)に採択され、「大口径ダイヤモンド基板によるグリーンインバータ基礎技術」の研究課題を推進している。

 「エネルギーを〈創る〉〈節約する〉〈貯える〉が、この事業の3つの柱とされる中で、我々は次世代パワーデバイスの研究開発にターゲットを絞り、電力を飛躍的に〈節約する〉ことを目指した研究プロジェクトに取り組んできました。電力は供給や消費の過程でのロスが多く、徹底的な低損失化を可能にする次世代デバイスが必要とされています」(川原田教授)

図1 次世代材料によるパワーデバイス(縦型電界効果トランジスタ)のスリム化と超低オン抵抗の実現
従来のシリコン半導体(左側)では100μm以上の厚いドリフト層が必要だったが、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどの次世代材料(右側)では、5μm以下と飛躍的なスリム化による低抵抗化と低寄生容量化により電力の低損失化が可能だ。

 半導体の世界では、従来のシリコン材料の限界を超える次世代材料の実用化がヒートアップしている。半導体回路に高圧電流が流れた際(導通状態、オン状態)にはデバイスの抵抗(オン抵抗)による電力損失が発生する。また、オン(導通)とオフ(遮断)のスイッチング時の電力損失が発生する。絶縁破壊を避けてデバイスを機能させるためには、デバイス内で一定の空間が必要となる。しかし、耐高電圧性に優れより安定した導電性を発揮する次世代材料を開発し、空間をコンパクトにしてデバイスのスリム化を図ることができれば、スイッチング時のオン抵抗が飛躍的に減少し、オン抵抗による導通損失が減少する。同時に寄生容量も減少し、スイッチング損失も減少する。(図1)。

写真 ダイヤモンドデバイスの実験装置の一部(川原田研究室)。
上:マイクロ波プラズマを利用したダイヤモンド成膜装置/下:ダイヤモンド上に窒化物半導体を形成する分子線エピタキシャル装置)

 次世代材料として注目されてきたシリコンカーバイド(SiC)については、世界中で技術開発に取り組まれ、すでに量産もなされている。ダイヤモンドはさらにその先に来るより有望な材料である。川原田教授らは2012年に世界で最初に400℃の高温で動作するダイヤモンドの電界効果トランジスタ(FET)の開発に成功している。ナノレベルの技術で人工ダイヤモンドを合成し、その表面を10nm程度の薄い水素原子の層で覆った伝導領域を形成することで、高速動作を可能にするトランジスタを実用化した(図2)。本格的な実用化研究に取り組んできたのは、当初は川原田教授らのグループを含めて2・3拠点であったが、現在参入拠点が世界的に増加している。

 「ダイヤモンドの表面を水素原子で覆ってやると、トランジスタを動かすに十分な正の電荷が表面に表れ、表面だけが低抵抗のp型半導体(※)となります。我々はこの現象に着目して、実用化開発を進めてきました」(川原田教授)。 (※注:半導体には、電荷を運ぶキャリアとして正孔(ホール)が使われるp型半導体と、負の電荷を持つ自由電子が使われるn型半導体とがある)

図2 ダイヤモンドトランジスタの動作原理

超低損失の次世代インバータを実現

 電力消費の節約効果を上げるキーデバイスとなるのが、インバータである。インバータというのは、直流電圧を所望の周波数の交流電圧に効率的に変換する電気回路で、身近なところではエアコンや冷蔵庫、地下鉄、新幹線、最近ではハイブリッドカー、電気自動車、産業用ロボットまで、動力系に広く用いられている。交流の周波数がモーターの回転数に直結し、連続的にスムースに自動車や電車を発進、加速させる。また、動力系以外にも太陽電池や蓄電池の直流電力を交流電力に効率的に変換し、電力送電を行う。インバータの登場と進化によって、これまでも省エネ化が追求されてきたが、パワーデバイスがダイヤモンド半導体へと置き換わることで、電力損失はさらに劇的に低減する(図3)。

 「ダイヤモンド半導体を用いた次世代インバータが普及することで、莫大な電力消費の節約が可能になります。原発5〜6基分もの電力の節約になるという試算も出されているほどです」(川原田教授)

図3 1000V高圧動作でのインバータ損失の比較
(ハイブリッドカーや電気自動車など、高電圧動作を前提としたクルマ500万台×年間走行時間500時間として計算)

 このほか、クルマや鉄道、エレベーターなどのブレーキにかかる抵抗の運動エネルギーを、電気エネルギーに変換して再利用する「電力回生ブレーキ」への応用にも、期待が大きい。モーターを駆動系としてだけでなく、発電系としても利用してしまうもので、エネルギーを〈節約する〉だでなく、エネルギーを〈創る〉にもかかってくる技術だ。回生ブレーキが利用できる速度範囲は、パワーデバイスの耐熱性に依存する。シリコンデバイスでは、時速35〜40km以下でのブレーキ作動にしか使えなかったが、より高温に耐えられるシリコンカーバイドなら時速70km程度まで使える。すでに地下鉄メトロ銀座線の一部にも採用されている。

 「シリコンカーバイドの実用化による高温動作は250℃程度とされています。我々は、400℃以上の高温に耐えられるダイヤモンドデバイスを用いて、さらにエンジン回り、原子炉、探査衛星の高温動作回路の開発に取り組んでいます。より高速から使える回生ブレーキも可能でしょう」(川原田教授)

総合的なグリーンデバイス研究へ

 当初、超低損失パワーデバイスにターゲットを絞った展開から始まったが、現在はさらに、ダイヤモンドデバイスのMEMSへの応用研究や、これまで存在しなかったp型透明電極の実現による太陽電池や有機ELの効率上昇(図4)などへと、研究領域を拡充しつつある。

 「半導体集積回路(LSI)が情報社会を司る“脳”であるとするなら、パワーデバイスは社会のエネルギーの循環を司る“心臓”であるといえます。グリーンデバイス研究所は今後、エネルギーを〈節約する〉以外にも〈創る〉と〈貯える〉ことにも力を注ぎ、本学の強みを活かしながら研究領域を広げていく計画です」(川原田教授)

 ダイヤモンドデバイスという強力なキーテクノロジーを核としながら、多様なグリーンデバイス技術を結集し、グリーンな社会の実現に大きく貢献していこうとする同研究所の展開に期待が大きい。

図4 p型透明電極の実現による太陽電池の効率化
太陽電池や有機ELには光を通す透明電極が必要である。これまでn型はあったが、p型の透明電極は世界初となる。図のようにn型とp型を両面接合することで、太陽電池の電力生産効率はぐんと高まる。

関連リンク

早稲田大学 グリーンデバイス研究所
早稲田大学 重点領域研究機構
早稲田大学 理工学術院
文部科学省 「低炭素社会構築に向けた研究基盤ネットワークの整備」事業(NIMS公式ページ)
独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造推進事業 先端的低炭素化技術プロジェクト(ALCA)

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