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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

多国籍な人的資源マネジメントの確立に
産学官連携で取り組む

総合研究機構 トランスナショナルHRM研究所

トランスナショナルHRM研究所所長を務める白木三秀・政治経済学術院教授

 企業の多国籍化、経済のグローバル化ということが言われるようになって久しい。ヒト、モノ、カネの行き来の自由化と流動化が進み、先進国はもちろん、中国はじめアジア、中東・アフリカ諸国など世界中の国々のグローバル経済への参入が一挙に進み、いまや日本の大企業のほとんどが地球規模でビジネスを展開するようになっている。

 企業の多国籍化が進展するなかで、従業員の多国籍化も進展している。それもただ単に海外各国の“現地の”従業員が多国籍化しているのではなく、世界中の社員の中から優秀な人材をグローバル経営のトップマネジメントに登用するという、まさにグローバルな人事制度がスタンダードになりつつあるのだ。本社も支社も現地法人も関係なく、真に経営手腕のある者が国籍に関係なく活躍する――そのような人事戦略にシフトできなければ企業も生き残れないような時代に入っている。

 そして日本の企業においてもそうした取り組みが、徐々に進展しつつある。多国籍企業における人的資源マネジメント=TN-HRM(Transnational Human Resource Management)に関する研究に産学官連携で取り組み、議論や提言、研修プログラムの提供などを行ってきた「早稲田大学総合研究機構トランスナショナルHRM研究所」の活動について、所長を務める白木三秀・政治経済学術院教授に話を聞いた。

産学官の研究ネットワークを構築

図1 トランスナショナルHRM研究会の仕組み

 研究所の設立は2008年10月、文部科学省の専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム(文部科学省ホームページ) に採択され「海外経営専門職人財養成プログラム」(2008~2010年度)に着手するにあたり、多数の企業を巻き込んだ研究コンソーシアムを組織したのを契機に発足した。同プログラム終了後、2010年4月より産学官のネットワークを生かして活動が継続されてきた。

「日本から海外に派遣される経営幹部層の多くは、派遣前に語学教育をはじめ十分な現地事情や異文化環境下でのトップマネジメント向けの実践的教育を受けないまま現地赴任しているケースが多いのが実態です。マネジメント実践力が弱いと、自律的な経営を現地化することがうまく進みません。ここの問題を解決しようと、文部科学省のプログラムでは、海外現地法人に派遣されるマネジメント人材のための実践的な経営者養成プログラムを体系化するとともに、実際に企業への浸透を進めることに取り組みました」(白木教授)

 研究所ではその成果やコンソーシアムのネットワークを引き継ぎ、研究活動をさらに推進している。驚くのは、研究員や研究会の会員数の多さである。早稲田大学の教員8名を筆頭に、他大学の教員、シンクタンクやコンサルタントファームの研究員、企業の実務家など100名ほどのメンバーが招聘研究員として名を連ねる。また、「産学官連携トランスナショナルHRM研究会」と称された研究会(図1)には58社が名を連ねる。同研究会は、日本企業が抱える人的資源マネジメントに関する課題やニーズをタイムリーに把握して受託研究活動につなげ、研究成果を会員間で共有し、学界・産業界にもフィードバックすることを目的に活動している。研究所では年2回の会誌の発行、隔月の定例セミナー開催など、ちょっとした学会の研究部会のような活動が展開されている。

トランスナショナルHRM研究会のセミナー風景

遅れる「人材の」グローバル化

 戦後1960年前後から日本企業の海外進出は徐々に始まった。この時期、例えばトヨタ自動車はタイで、日産自動車はメキシコで、海外での生産活動を開始しているし、味の素、ヤクルト、パナソニック、東レ、帝人など大企業の東南アジアでの生産活動もその頃に始まっている。その後、大企業のみならず中小企業も含むより本格的な海外展開が始まったのが1985年のプラザ合意の後で、日本から海外への生産移転なども一挙に進み、日本企業の多国籍経営、グローバル経営へのシフトが凄まじい勢いで展開していく。ちなみに、1984年に日本の海外直接投資の総額は年間100億ドルを初めて超え、1989年には690億ドルにまで伸長するという勢いであった。この時期の地域はアセアンやNIESが中心であった。2000年以降には中国への投資が激増し、2005年頃にはアジアへの投資額全体の半分は中国というまでになる。2010年頃以降は、ベトナム、インド、ミャンマー、ブラジル、メキシコなどへと投資地域が広がっていく。

「ところが中国では経済成長とともに、最低賃金も含めて賃金がどんどん上昇し、もう中国に労働集約的な生産拠点を置いているメリットはなくなりました。中国拠点では中国国内市場をねらって商品開発や販売を現地展開していくしかない。そうなると、中国人にミドルマネジマントのみならずトップマネジメントも積極的に任せていかないと競争力が維持できません。日本企業はグローバルに拠点展開しているものの、人材の多国籍化のマネジメントが追い付いていません」(白木教授)

 グローバルビジネスの最前線では、本当に有能な人を登用しないと生き残っていけない、人材こそが経営資本だという高い意識のもとで、真剣勝負が展開されている。ところが現実には、日本企業で最も国際化、グローバル化に出遅れている部門が、その旗振り役を担うべき人事部門だという。人事担当が海外に出ず本社から指令を出すだけでは、多国籍な人材マネジメントも進みようがない。人事部門そのものの改革を支援することも、研究所の重要なミッションである。

「海外ではタレントマネジメントが1990年代から実践されており、全世界のグループ企業から、国籍に関係なく優秀な人材をグローバルマネジメントに引き入れるという人材戦略が広がっています。例えばGEでは、親会社も子会社も関係なく幹部候補生を選抜して、①従来の仕事と違うフィールドの仕事に就かせる、②従来の仕事と違う部門の仕事に就かせる、③自国以外の海外勤務に就かせる、という3つのローテーションをこなすというミッションを与えて鍛え上げます。日本企業も、単に外国人社員の雇用に留まらず、日本本社のマネジャーやトップマネジメントにもどんどん外国から社員を登用すべき時代なのです」(白木教授)

グローバル人材の素養を分析

図2 『グローバル・マネジャーの育成と評価』(2014) 白木三秀 編著、早稲田大学出版局

 研究所では、そもそもグローバル人材に必要な素養は何か、実際にどんな人材が海外で活躍しているのかを明らかにするために、日本企業への大規模な調査も多数実施している。先述した文科省のプロジェクトでは、日本からアジア諸国への派遣者880人に加えて、現地スタッフ2192人も対象に調査を実施、現地スタッフが日本からの派遣社員をどう評価しているかも含めて調査を行い、グローバル人材に必要な能力や課題を洗い出した。調査報告は、『グローバル・マネジャーの育成と評価』という書籍にまとめられている(図2)。(→早稲田オンライン オピニオン記事でも紹介)

「最近では、海外に派遣されている20~30代の若手人材のパフォーマンスを、直属の上司に評価してもらった調査データを300人分以上集めて分析しました。どういう人材が海外で活躍できるかを要因分析することで、海外派遣の人選を行う際に、“この辺、もっと伸ばしてから行かせた方がいいね”といった具合に、データに基づいた評価ツールを作成し、グローバル人材の育成や選抜が効率的にできるように共同研究しています」(白木教授)

図3 トップマネジメント人材登用システムの比較

 過去10年間で海外に出ていく社員は10万人も増加したが、日本企業の多国籍人材マネジメントへの意識や制度の確立はまだこれからだ。今後はさらに、海外のグローバル企業では当たり前になりつつある多国籍な人材登用システムや、多国籍人材によるトップマネジメントをいかに導入していくかも本格的に焦点にしていかなければならない。

「日本企業に必要なグローバル人材とは何かをひとことで説明するのは難しいのですが、調査の結果を踏まえて、われわれは〈日本と比べて複雑性とダイバーシティ度のはるかに高い海外のビジネス環境下で、自分の立ち位置を客観的に把握しながら確実に成果が出せる人材〉と緩やかに定義しています。そうした素養を持ち、企業理念を体現できる人材であれば、もはや国籍や民族にこだわる必要はないのです」(白木教授)

 日本企業が日本人経営からどのように脱却すべきなのか。日本企業の可能性を最大限に広げるような多国籍人材経営とはどのようなものなのか――トランスマネジメントHRM研究所の活動成果に期待が大きい。

図4 日本人派遣者調査で明らかになった仕事の成果に作用する諸要因

関連リンク

早稲田大学 トランスナショナルHRM研究所 (総合研究機構)
早稲田大学 総合研究機構

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