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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

現代中国の本質を深く追究
多彩な研究成果を世界へ発信する

総合研究機構 現代中国研究所

現代中国研究所所長を務める天児慧・国際学術院教授

 改革開放以降の中国の経済成長の勢いは凄まじい。その伸びは緩やかに鈍化しているものの、中国の経済力は、アジアからグローバル世界へと勢いを及ぼしている。一方、政治面では、経済の自由化と共に共産党一党体制の統治が緩むどころか、近年では「強い中国」を旗印とした習近平国家主席のもと、いっそうの体制強化と引き締めが図られている。

 こうした中国をどう理解し、どのように関係を形成していくべきなのか――。日本にとって中国との関係は、悠久の歴史上、政治、経済、外交、文化などあらゆる面で重要なものであったし、今後もなおあり続けるだろう。戦前には支那学と呼ばれた日本の中国研究は、現地踏査や原書文献のフィールドワークをベースとした実証研究に豊かな蓄積を有してきた。戦後、時代は大きく変遷し、学術においても政治経済においても、人々の関心事は欧米へと大きく重心を移してきた。また、学術研究の政策においては、成果志向・目的志向の研究により多くの研究資金がかけられるようになり、地道な人文・社会科学研究への支援が厳しくなっているという現実もある。しかしながら、中国研究の重要性は、複雑化する国際情勢、緊迫する東アジア情勢の中で、増大するばかりである。

 早稲田大学は、中国研究において日本を代表するトップ拠点の1つである。中国との関係が芳しくない時代においても中国人留学生を多数受け入れ、その多くが中国で学界や政界の要職に就くなど、早稲田大学と中国との交流促進、関係形成を促進する重要な存在となってきた。両国の長い歴史的関係と日本の中国研究の知的資産の上に立ち、日本から中国を見据え分析することの学術的価値は、中国人留学生を中国研究者として育てることにも大きく貢献してきたといえる。

 こうした背景のもと、現代中国研究所は、大学共同利用機関法人 人間文化研究機構(NIHU)の研究資金による大型国家研究プロジェクト「現代中国地域研究」の中心拠点として、早稲田大学に発足した(当初はアジア研究機構内)。同研究所は、プロジェクトの他の参画拠点である京都大学人文科学研究所、慶應義塾大学東アジア研究所、東京大学社会科学研究所、総合地球環境学研究所、東洋文庫の5拠点(プラス第2期は神戸大、法政大、愛知大の9拠点)を束ねる中心拠点としての役割を担いながら、第1期プログラム(2007〜2011年度)、第2期プログラム(2012〜2016年度)の10年間を運営してきた。同プロジェクトが2017年3月で終了後は、早稲田大学の現代中国研究を牽引する拠点として、引き続き新たなスタートを切ることになった。その研究ビジョンと活動内容について、NIHUプロジェクト第2期プログラムの代表であり、現代中国研究所の所長を務める天児(あまこ)慧・国際学術院教授に話を聞いた。

研究・人材・海外発信の3つの柱

 「現代中国研究所の活動方針は、研究、人材育成、海外発信の3つの柱からなり、いずれもこの10年間で確実な成果を出してきました。特に3つめの海外発信において、第2期に英文ジャーナルJournal of Contemporary Chinese Studies(年2回・早稲田大学出版会刊行)と中文年報『日本当代中国研究』(年1回・中国の社会科学院刊行)を出版し、日本の中国研究の成果を発信しました。英文ジャーナルはその実績が評価されて、2017年4月から国際的な大手学術出版社のラウトリッジ(Routledge)社からJournal of Contemporary East Asian Studiesと名称を変えて出版され、2012年の創刊号から全巻が、同社のオープンアクセスサイトを通じて世界に発信されています(写真1)」(天児所長)

写真1 ラウトリッジ社のウエブサイトに開設されたJournal of Contemporary East Asian Studies のオープンアクセスサイト

 ラウトリッジ社と出版契約を結ぶのは、日本の大学では早稲田大学が初という快挙である(→ニュースリリース記事)。これを評価したNIHUが、プログラム終了後も研究発信の資金を提供することとなり、同誌の予算は外部資金で賄えることとなった。大学が発行元とはいえ、学会発行のジャーナルに準じた査読システムにより、広く世界中から投稿者を募る体制となっている。ラウトリッジのサイトは世界中の様々な分野の研究者が閲覧しており、同誌の閲覧数も飛躍的に伸長している。

 「公開してわずか数ヵ月で、読者層が一気に広がりました。中国研究、アジア地域研究において、日本のレベルは高く、何としても英語で国際発信していくことが悲願でした。2012年から努力して発行を重ね、その願いが大きく実りました。いまや中国研究は、世界中の一流大学に散らばった中国人の研究者たちを中心に、まさにグローバルに展開されています。今後、こうした国際的な研究者たちの研究交流の場としての機能を高めていくことを目指しています」(天児所長)

 2つめの人材育成においても、多くの若手研究者が国際的なプロフェッショナル人材として育っている。NIHUの第2期プログラムでは若手研究者の優れた学術論文を選出し、「現代中国地域研究叢書」としてシリーズ化、5年間で18冊もの成果を出版している(写真2)。こうした研究者たちは、すでに様々な大学や研究機関で専門の仕事に就くようになっており、プロジェクトの成果を次代に引き継ぐ人材的基盤が着実に形成されてきている。

写真2 多彩な若手研究者による「現代中国地域研究叢書」(全18巻・勁草書房)の一部。

「超大国」中国に真正面から迫る

 海外発信、人材育成の2つの柱が成功したのは、やはり1つめの柱である研究が充実した成果を挙げていればこそである。NIHU第1期プログラムでは早稲田大学拠点として「中国の発展の持続可能性」をテーマに政治、経済、社会、歴史という多方面からアプローチし、第2期では、真正面から「超大国」中国の研究に迫ることを目標に掲げて、①国際関係の中の「超大国」、②経済グローバル化の中の「超大国」、③社会の成熟と「超大国」、④「帝国」史の中の「超大国」という4つの視角から総合的に中国研究にアプローチしてきた。その成果は、「超大国・中国のゆくえ」という全5巻(うち1巻未刊)の書籍シリーズにまとめられ、東京大学出版会から出版されている(写真3)。

写真3 NIHU第2期プログラムの集大成である「超大国・中国のゆくえ」シリーズ(東大出版会):第1巻:文明観と歴史認識(未刊)、第2巻:外交と国際秩序、第3巻:共産党とガバナンス、第4巻:経済大国化の軋みとインパクト、第5巻:勃興する「民」の、全5巻からなる充実した布陣。それぞれ2人の専門家が執筆を担当している。

 「2015年、習近平国家主席は、中国のこれまでの驚異的な経済発展が終わりを迎え、これから低成長期を迎えると発言しました。それは一時的なものではなく、一定期間避けることのできない状態だとして、〈新常態:ニューノーマル〉と表現しました。背景では、格差、腐敗、環境、人口の老齢化など深刻な社会問題があふれ、言論の自由を力で封じ込めている政治も緊張感が高まっています。これらのひずみを克服し、調和の取れた国家を建設することが第1の国家戦略です。

 第2の国家戦略は、〈一帯一路:ワンベルトワンロード〉と呼ばれる、西方へ向かう海と陸のシルクロードの構築を通して中国の影響力を拡大するという大きな戦略で、アジアインフラ投資銀行(AIBI)という国際金融機関も設立しています。そして第3の戦略は、軍事強国の建設です。

 第2期ではこれら3つの壮大な戦略を掲げる超大国としての中国に迫る研究を展開してきましたが、2017年度からは、1番目の〈新常態=ニューノーマル〉に焦点を絞り、〈ポスト高度経済成長期の中国「新常態」の総合的分析〉という共通テーマのもとで、さらに掘り下げた研究を展開しています」(天児所長)

より高いレベルの地域研究へ

 〈新常態:ニューノーマル〉期に入りいっそう混沌とする中国情勢を背景に、2017年には習近平体制の第2期指導部がスタートした(→関連記事)。新体制が目指す「強い中国」はどこへ向かうのか。どのように中国の抱える諸矛盾にどう対峙し、どう安定した国家を建設していくのだろうか。

 「激変する中国ですが、表層的な変化や現象に惑わされず、中国の変わらない本質的な特性や構造を見据えた研究が必要とされています。現代中国とは何かを俯瞰的にかつ深く理解するための学際融合的な目線を確立することが重要です。それはわれわれが目指す“地域研究(regional studies)”の方法論を発展させることでもあります」(天児所長)

 政治、経済、外交、社会、国際関係論など、多岐にわたる研究者の専門性と、独自の地域研究のアプローチとを融合させ、質の高い研究を展開していくことが目指されている。設立から11年目を迎え、ますます貪欲に研究を進め、世界への発信力を高めている現代中国研究所の今後の展開に、なおいっそうの成果が期待される。

尖閣諸島中国漁船衝突事件後の2013年、香港・フェニックスTVでの日中討論会生番組に出演した天児教授(司会者の左)

2017年1月に韓国にて開催した国際シンポジウム” New Horizon in China Studies: Exchange of Academic Experience/中国研究の新しい地平:学問研究の交流”にて登壇者と(写真中央)

関連リンク

早稲田大学 現代中国研究所
早稲田大学 総合研究機構
大学共同利用機関法人 人文研究機構
ラウトリッジ(Routledge)社

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