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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

新たな数学的視点を開拓し
理と工の発展的融合を牽引する

数理科学研究所(理工・重点研究領域)

数理科学研究所の所長を務める小薗英雄・理工学術院教授

【解説:理工学術院総合研究所・重点研究領域】
 早稲田大学では創立150周年(2032年)へ向けたVision150を制定し、13の核心戦略を展開している。その1つに掲げられているのが「独創的研究の推進と国際発信力の強化」という核心戦略である。この核心戦略を特に科学技術分野において推進するために、理工学術院総合研究所(理工総研)が中心となって社会の課題に応える7つの重点研究領域が新たに設置された。それぞれの領域ごとに2018年4月に研究所が開設され、世界トップレベルの研究を目指していく。専攻の枠を超えて重点分野の国際的な研究力の強化を図るために、クラスター研究所と称するこれら研究所群の相互連携も図っていく。今後のさらなる研究ビジョンを構想する場として「早稲田地球再生塾(WERS)」を立ち上げる計画もある。

各重点研究領域に発足する7つのクラスター研究所

7領域の研究代表者やメンバーらが集結した重点研究領域発足記念シンポジウム(2017年12月22日)

 今回は7つの重点研究領域から「数理科学研究領域」にフォーカスし、まもなくスタートする数理科学研究所の活動ビジョンについて、所長を務める小薗英雄・理工学術院教授に話を聞いた。

人を集積し情報を発信する拠点へ

 早稲田理工学の伝統は、「理」と「工」の一体化による先端研究とそれに基づく教育にある。その「理」の部分を支えるのが、数学である。早稲田の数学系教員の専門領域は、代数、幾何、解析、数学基礎論から現象数理、計算数学、統計科学といった応用数理まで幅広い。応用数理は自然現象や物理的な現象、社会現象を、数学を用いて分析する研究領域で、いわば数学と工学、数学と社会の橋渡しを担っている。これら数学・応用数学の教員が、数理科学というより大きな領域のなかで垣根のない研究や教育の交流を行ってきているのが特徴である。

「本学の理工学は伝統的に諸分野が協働して、融合的・実証的な教育・研究を目指してきました。その要として、実証と理論を繋ぐ結節点の役割を担ってきたのが、数学と応用数学を包含する早稲田の豊かな数理科学だといえます。数学は工学のように世の中の役に立つことに直結はしませんが、工学の発展において、数学による精緻な理論化は不可欠なのです」(小薗教授)

 数理科学の研究は、素粒子物理学や工学のように大規模な実験設備は必要としない。極端にいえば数学は頭と鉛筆があれば良いし、応用数学で扱う様々な現象のコンピュータシミュレーションにしても、最近ではデスクトップやノートパソコンでも相当なことができてしまう。この分野で最も重要なのは、まず何よりも人であり、人を育てること=教育と、人と人をネットワークすること=国際発信と交流が、研究力を高める牽引力になるという。

「良い研究者が居るところにはおのずと人が集まり、人が育ち、人が人を呼んで研究拠点としての集積を次第に形成していきます。本学が数理科学で研究拠点を形成できるのも、理工学という独自のビジョンのもとで、志ある先人が集まり、良い研究をしてきた結果でしょう。また、研究の発信や交流も重要です。国際学会や研究会で世界の研究者とディスカッションすることが、数学研究の進歩には不可欠ですし、一流の研究を行うには、世界中にアンテナを張って研究のトレンドに常に鋭敏であることが求められます」(小薗教授)

最先端テーマでの国際会議への参加を通じた海外の一流研究者とのディスカッションが、数理科学の発展には欠かせない。

3領域で世界レベルの研究を目指す

 数理科学研究所の第1期(5年間)は、ビッグデータといわれる大量のデータが様々な分野で取り扱われるようになった時代を見据えつつ、複雑かつ未解明な自然現象や社会現象に対して数学的手法を応用してアプローチしていく計画である。各専門領域での学問的成果はもちろん、工学や実社会に還元できる研究成果を出すことが目指されている。

「研究所の大目標として、第1に新たな数学の研究領域、新たな数学の概念を創出すること、第2に社会的課題に対する数学的視点や方法論を開拓することを掲げています。いきなり工学との融合研究をするのではなく、第1期はまず数理科学の中での研究を進めて、融合研究の基礎となる研究成果を出していきたいと考えています」(小薗教授)

 研究体制としては、非線形解析学、計算数理科学、統計数理科学の3つの研究分野をコアに据え、それぞれ研究班を組織してスタートする(図1)。非線形解析学班は、非線形偏微分方程式を中心とした基礎数学研究、非線形解析学の手法に基づく流体数学・流体工学・非線形力学系などの応用数理研究を行う。計算数理科学研究班は、精度保証付き数値解析、非線形数理モデルや応用可積分系などの領域で、コンピュータを用いた複雑現象の解明のための革新的な計算科学技術の解明を目指す。統計数理科学研究班は、金融工学、データサイエンスなどを対象としながら、現場の実応用で得られた知見からモデリングや数理理論へのフィードバックを図り、統計数理理論や現象解析の発展を目指す。

「それぞれの分野に世界最先端レベルの研究に取り組む人がいます。例えば、私の専門は自然現象を分析し記述するうえで不可欠な非線形偏微分方程式です。近年発展が著しい研究領域ですが、本学は国内でトップクラスの研究力を誇っています。私が専門とするナビエ・ストークス方程式の国際会議なども本学で毎年開催し、世界中から研究者が集まります。他の2領域も同様で、まずは強いところを中心に据えていこうということです」(小薗教授)

図1 数理科学研究所 3つの研究領域

 計算数理科学においては、コンピュータ計算の精度保証という研究分野でも、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)を10年以上にわたり推進した大石進一教授らの強い実績がある。その他にも、画像圧縮などの縮約アルゴリズム、フーリエ変換による周波数領域のフィルタリングなども研究テーマである。いまや映画もインターネットでのオンデマンド視聴がスタンダードになりつつある。タブレットやスマートフォンでもストレスなしに映画鑑賞できるのも、あるいは天気予報で台風の進路予測などが精緻になってきたのも、データから重要なところだけを切り出して、少ない計算量でより精確にシミュレーションする、情報縮約アルゴリズムの発展があればこそである。

 統計数理科学は、最適統計推測を基礎とする統計処理によって現象を解析する研究分野である。確率・統計理論を駆使して設計されるデリバティブという金融派生商品があるが、こうした商品の設計や市場分析を行う金融工学のベースとなる理論や、最近のトレンドであるビッグデータ解析のベースとなる統計理論や計算法の研究も、この分野の柱である。膨大なデータから意味ある情報、知識を読み取っていく方法を身につけた、データ解析のスペシャリスト=データサイエンティストの育成なども射程にある。

理論研究と実証研究の連携

 小薗教授が特に専門とするナビエ・ストークス方程式は、水や風など流体の非線形現象の基礎となる方程式で、いまだ数学的には解決されていない難問の1つとして知られる。ナビエ・ストークス方程式は、比較的シンプルな現象であれば初期条件からそのモデルを描き出すことができるが、一体どれだけ複雑な現象を描き切れるのか、その解は未来永劫に存在するのか、あるいは有限時間に限られるのだとしたらそれはどこまでかなど、未解決な点がたくさんある。数学のミレニアム懸賞問題として、100万ドルの懸賞金がかけられている問題の1つでもある。

2018年3月6日に開催された数理科学研究所キックオフシンポジウムの様子

「例えばこうした数学の難問を解くうえで、計算数理科学班の数値解析研究との連携が、様々なヒントを与えてくれます。数値解析は現象そのものを数値計算によって分析し、我々は現象をモデル化し数式を用いて論理的に表現します。数値解析は実際の現象を相手にしているので、有限の状態でしかありえないのですが、我々の相手は数式による抽象的なモデルですから、無限の状態までも表現することができます」(小薗教授)

 計算数理科学の研究にとっては非線形解析学の理論的な研究が、非線形解析学にとっては逆に計算数理科学の実証的な研究が、互いの発展の重要なヒントになるという。こうした数理科学の内部での融合研究を進め、さらに工学の諸領域との融合研究へと発展させていくことが、次の目標となる。2018年3月6日には、海外からも著名な研究者を招いて、数理科学研究所のキックオフシンポジウムが開催された。世界の最先端でしのぎを削る研究からの成果がおおいに期待される。

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