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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

超スマート社会の創造に向けて
戦略的な共同研究を展開

最先端ICT基盤研究所(理工・重点研究領域)

最先端ICT基盤研究所の所長を務める甲藤二郎・理工学術院教授

【解説:理工学術院総合研究所・重点研究領域】
 早稲田大学では創立150周年(2032年)へ向けたVision150を制定し、13の核心戦略を展開している。その1つに掲げられているのが「独創的研究の推進と国際発信力の強化」という核心戦略である。この核心戦略を特に科学技術分野において推進するために、理工学術院総合研究所(理工総研)が中心となって社会の課題に応える7つの重点研究領域が新たに設置された。それぞれの領域ごとに2018年4月に研究所が開設され、世界トップレベルの研究を目指していく。専攻の枠を超えて重点分野の国際的な研究力の強化を図るために、クラスター研究所と称するこれら研究所群の相互連携も図っていく。今後のさらなる研究ビジョンを構想する場として「早稲田地球再生塾(WERS)」を立ち上げる計画もある。

各重点研究領域に発足する7つのクラスター研究所

7領域の研究代表者やメンバーらが集結した重点研究領域発足記念シンポジウム(2017年12月22日)

 今回は7つの重点研究領域から「超スマート社会を創造する最先端ICT基盤領域」を推進する最先端ICT基盤研究所にフォーカスし、まもなくスタートする研究所の活動ビジョンについて、所長を務める甲藤(かっとう)二郎・理工学術院教授に話を聞いた。

最先端領域での社会実装が目標

 四半世紀の間に、情報通信技術は驚くような発展を遂げてきた。コンピュータの計算能力、通信の速度、画像や映像の解像度、クラウドによるデータ蓄積能力などが爆発的に向上し、机上の研究に過ぎなかったような技術が、急速に社会実用が可能になってきている。この爆発的発展の先の近未来にやって来るのが、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット化)の実装によって、人智を超える高いレベルでの最適化や効率化、生産性の向上などが果たされていくような、超スマート社会(あるいは「Society 5.0」とも言われる)である。最先端ICT基盤研究所のミッションは、この超スマート社会の実現に貢献する成果を創出していくことである(図1)。

「1990年代からの情報通信技術は、我われ研究者でも驚くくらいのスピードで進化してきました。インターネットの通信速度もいまや1Gbpsが当たり前になって、20年前に64k bpsで早いねと言っていたのが15000倍もの速さになるなんて想像できませんでした。学会発表のテーマにしかならなかったような机上の研究が、次々と社会実装されています。今描かれている超スマート社会の近未来像も、決して何十年も先の話ではなく、もしかすると10年先でもなく、数年のスパンで次々に実現されていくことになるのでしょう」(甲藤教授)

 情報通信技術は大学においても、理論的な基礎研究からプロトタイプの実装開発まで取り組まれることの多い分野だが、それがいまやプロトタイプにとどまらず、大学の研究室からすぐにでも製品やサービスとして社会に出せるほど、実用化との距離が縮まっている。その一方で、アマゾン、グーグル、アップル、マイクロソフトといった企業が、優秀な研究者を大学からヘッドハンティングし、巨額の研究資金を投じる研究開発プロジェクトを推進していたりもする。

「大学と民間の研究開発の境界が薄れている時期かもしれません。大学の研究の主要なミッションは決して出口志向、マーケット志向だけではないですが、これまでに蓄積されたシーズをこの時期に社会実装することに力を入れるという研究方針は明確に掲げています。そのために企業との産学連携プロジェクトを戦略的に組成し、政府の大型研究資金を獲得しに行くことが、研究所のミッションだと認識しています。もちろんこうした外部資金による研究の発展を、より学術的な研究、次世代の研究、若手人材の育成に還流させることが、より大きな目的といえるでしょう」(甲藤教授)

図1 超スマート社会を創造する最先端ICT基盤

4つの研究プラットフォーム

 最先端ICT基盤研究所には、早稲田理工キャンパス(西早稲田)に拠点を置く情報系教員が総力を挙げて参画する。各教員はそれぞれの分野領域に応じて、計算プラットフォーム、通信プラットフォーム、セキュリティプラットフォーム、データプラットフォームの4つの研究プラットフォームのいずれかに所属する(図2)。研究プロジェクトのテーマに応じて、プラットフォーム間の横断的な連携、あるいは他の重点領域のクラスター研究所との横断的な連携も、これまでの連携実績などをベースにすでに計画されている。

図2 4つの研究プラットフォームと構成メンバー(◎はリーダー)

 計算プラットフォームは、アーキテクチャ、OS(オペレーティングシステム)、プログラミング言語、システムLSIを柱とし、より大規模で複雑さを増す次世代のコンピューティングを信頼性ある頑健なものとする新しい計算基盤の確立を目指す。スケーラブルな並列/分散オペレーティングシステム、メニーコア・マルチコアなどの次世代集積回路設計、超高水準言語と機械語をつなぐ精密な解析・変換技術などの研究開発に実績を誇る。

 通信プラットフォームは、無線通信・モバイル通信、通信品質、マルチメディア通信・処理、IoT・機械学習・ビッグデータが主なキーワードとなる。5G次世代通信や光無線通信はもちろん、自動運転、ドローン、3D映像配信、生体センシング、遠隔手術など、超スマート社会の様々な領域において、通信系は重要な役割を果たす。次世代モバイル通信のインフラ構築、ビッグデータとしての流通コンテンツの分析・制御、アドホックネットワークの自律分散制御など、様々な研究成果を蓄積している。

 セキュリティプラットフォームは、サイバーセキュリティ領域、ソフト&システム&サービス品質領域という2つの研究領域を設定して、超スマート社会の安全・安心技術の確立を目指す。巧妙化するサイバー攻撃を機械学習などを駆使して検知・解析する技術や、ソフトウェア製品を定量・定性的に評価する手法など、セキュリティ&プライバシー、そしてソフトウェア工学の最先端領域での様々な研究成果をベースとしている。

 データプラットフォームは、今後さらに指数関数的に増大していくグローバルデータの世界を見据えて、人工知能による画像処理、知覚情報研究基盤、認知ロボティクス、物理信号処理基盤などの研究プロジェクトを推進していく。要素技術として、ビッグデータの暗号処理を中心に、画像・動画・音声データ処理、ログ・IoT・CPS(サイバーフィジカルシステム)のデータ処理などの成果をベースに研究を推進していく。CPSとは、機械とITが融合して物理的・身体的な空間が機能拡張されていく世界で、分かりやすい例としてドローン、自動運転、ロボティクス、ウェアラブル端末などがある。

多様な社会領域を実装の射程に

 超スマート社会は、およそあらゆる社会領域に及んでいくことになる。各プラットフォームでは、文部科学省、経済産業省、総務省などの研究開発プロジェクトでは高い実績があるが、今後はさらに社会実装領域の拡大を意識しながら、国土交通省、農林水産省、環境省、厚生労働省など、異分野の研究開発プロジェクトも積極的に検討していく。

「交通分野ではすでに首都圏の私鉄沿線の様々なデータセンシングに基づいて、運行管理や車内・駅ホームへのコンテンツ配信など、多領域にわたるソーシャルビッグデータの実証研究プロジェクトが進行しています。また、笠原(博徳)教授が代表を務めるグリーン・コンピューティング・センターでは、世界に注目される研究成果を重ねるとともに、自動車産業をはじめ企業との大型共同研究やコンソーシアムを多数組織しています」(甲藤教授)

 こうした活動の背景には、文部科学省が国際的競争力ある大学を育成するために展開してきた教育研究プログラムの拠点に採択されてきた実績もある。2002年の21世紀COEプログラム「プロダクティブICTアカデミア」に始まり、グローバルCOEプログラム「アンビエントSoC教育研究の国際拠点」、博士課程教育リーディングプログラム「実体情報学博士プログラム」、スーパーグローバル大学創成支援「Waseda Ocean構想:ICT・ロボット工学拠点」と、今日まで順調に採択を重ねてきた。

「研究の一方で、人材教育にも力を入れていきます。大学院生は修士から博士課程に進む学生を増やすとともに、経験を積まれた社会人博士も増やしていきたい。研究力の素養をもったIT人材が企業にも必要になっています。その一方で、社会人向けの再教育として、鷲崎(弘宣)教授が主導するスマートエスイーというプログラムも、文部科学省enPiT-Pro(成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成)事業の採択を受けてスタートしています。目標とする人材像は“スマートシステム&サービス提供を通じた価値創造をリードする人材”です」(甲藤教授)

 西早稲田キャンパス内に専有スペースも確保し(写真)、新しい研究員も採用する。共同研究相手の企業の研究員も受け入れる予定だ。これまでの実績を集大成して超スマート社会にチャレンジする最先端ICT基盤研究所の今後の取り組みに期待が大きい――。

理工キャンパス(西早稲田)内に準備された研究所オフィス

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