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新・車社会論

[第3部 暮らしをのせて]

(2)所有と利用 新たな形

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会員専用ICカードを利用するオリックス自動車のカーシェアリング(9日、東京・丸の内で)=川口正峰撮影

 自分だけの「マイカー」から、共有する「マイカー」に――。ライフスタイルの多様化を反映するかのように、車の「所有」のあり方も形を変えつつある。

 東京・丸の内の地下駐車場。集積回路(IC)内蔵の会員専用カードを窓越しに運転席のセンサーにかざすと、ドアのロックが解除された。車内に保管されたキーを取り出してエンジンをかければ、あとは目的地に向かうだけ。営業所で契約書類に書き込んだり、免許証を提示したりする必要はなく、使いたい時にマイカーとして利用できる。

 車の所有者と利用者を分ける試みの一つ、それが「カーシェアリング」だ。

 大手リース会社系列の「オリックス自動車」(東京・港区)では、カーシェアリングのサービスを提供している。インターネットで予約すれば、東京、神奈川、名古屋、京都の専用駐車場にある計約170台の乗用車の中から、空いている車を使用できる。同社によると、軽ワゴン車を利用した場合、保険料や駐車場代などがかからないため、年間費用は、ガソリン代を含めても15万円程度ですむという。

 パソコンや携帯電話から予約できる手軽さが受け、今や会員も全国で約1200人。同社の高山光正ゼネラルマネジャーは、「車を個人で所有するのは無駄と思っている人が利用する。定着しつつあるのは日本の車社会が成熟している証し」と語る。

 カーシェアリングは約20年前に欧州で生まれた。近年、ロンドン、パリなど駐車場難に悩む都市で飛躍的に利用者が増えている。森地茂・東京工大名誉教授(64)(交通政策)は「ロンドンでは渋滞対策として、新しい駐車場を造らせないようにしている」として、都市部でのマイカー締め出しの動きが、カーシェアリング普及の追い風になっていると語る。

 駐車場環境の悪さは日本でも変わらない。東京都心では、新築マンションでも、全戸数の駐車場を確保することは難しい。森地名誉教授は「都市が抱える問題は、東京、ロンドン、パリも基本的に同じ。日本でもカーシェアリングが定着する素地はある」とみる。

 マイカーを共有する考え方は、草の根レベルでも始まっている。東京のベッドタウン、埼玉県志木市にある「志木ニュータウン」(約3500世帯)では、2004年から、住民有志がNPO組織を設立してカーシェアリングを運営する。

 現在、小型車1台を15人の会員が共有している。料金は1時間300円、走行距離5キロごとに100円を加算していく。

 ただ、日本の自動車メーカーにとっては、所有の形態が多様化することは、国内では未知の世界。早くから車のリース契約が定着している欧米で、過去に苦い経験があるためだ。

 三菱自動車は1999年から02年にかけて、米国を中心にリース契約を大幅に伸ばした。しかし、低所得者層のユーザーからの支払いが滞り、約1000億円の焦げ付きを抱えた。

 自動車は自らが所有するものとして定着してきた日本。車との付き合い方は今後、どんな方向に向かうのだろうか。

夢の「走る家」 軽で実現

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運転席の上にボードを取り付ければ、2段ベッドに早変わりする軽キャンピングカー(埼玉県越谷市で)=田村充撮影

 もしも、「走る家」があったなら……。そんな車好きの願いを形にしたのが「キャンピングカー」だった。国内に登場して四半世紀。ワンボックス型の軽自動車を改造した「軽キャンピングカー」が、静かなブームを呼んでいる。

 キャンピングカーといえば、米国車を改造し、居住スペースや収納式のベッドなどを作りつけたものが主流だった。車体が大きいため道幅の狭い日本には不向きで、価格も500万円超と高額なため、なかなか支持を集めなかった。

 これに比べ、軽キャンピングカーは、日本独自の規格である軽自動車を改造したもので、全長340センチ、全幅148センチ以内。狭い道でも運転に困らない。改造費用がかかるため割高だが、それでも価格は200万〜300万円。国産中型車とそう変わらない。

 専門誌「オートキャンパー」の編集部によると、「小回りが利き、買い物や通勤など日常的にも使える」と、昨年夏ごろから人気に火がついた。これまで数えるほどしかなかったが、手がける業者が増え、今では全国で20種以上が製造・販売されている。

 そんな軽キャンピングカーの愛好家は、「団塊世代」やファミリー層だ。

 東京・有明の国際展示場「東京ビッグサイト」。今月6〜7日に開かれた住宅関連展示会の一角に置かれた2台の軽キャンピングカーの周りに中高年夫婦の人だかりができた。

 「車内は何人まで寝られるのか」「価格はいくらか」。夫婦で興味深そうに室内をのぞき込み、大人4人が寝られる格納式ベッドや水回りなどの装備品を一通り試した後に、カタログを手にしていく。

 この車を出展したのは名古屋市の製造販売会社「ホワイトハウス」。購入者の約8割が50歳代以上で、毎月20〜30台が売れるという。納車まで4か月は待つ必要があるという人気ぶりだ。酒井裕二郎・ゼネラルマネジャーは、「退職後の人生を悠々自適に楽しみたいと定年間近の人たちが買っていく」という。

 神奈川県三浦市の米谷恒朗(つねあき)さん(61)は、魅力にとりつかれた一人。横浜市役所を定年退職後、長年の夢だった「妻と2人の日本一周旅行」を実現しようと、今年1月に乗用車から乗り換えた。

 妻の幸子さん(62)と2人でまず向かったのは四国。さらに、北海道や九州にも足を延ばし、各地の名勝、温泉を訪ねた。食事は地元のスーパーで手に入れた食材を使い、持ち込んだコンロで調理する。宿泊地は幹線道路沿いの「道の駅」や高速道路のサービスエリア。宿代がかからないから、出費も2人で1日4000円程度しかかからない。

 「自宅にいるのは月に3、4日程度。あとは2人でずっと旅の空ですね」と米谷さん。走行距離はすでに地球1周を超え4万5000キロ。年末には新しくできた仲間と紀伊半島に集う約束をしている。

 「小さなキャンピングカーという発想は、欧米では絶対に出てこない。低価格の軽自動車に工夫を凝らして広く使おうという発想はいかにも日本的だ。車で旅行を楽しむ人のすそ野がさらに広がるのではないか」

 自動車評論家の国沢光宏さん(49)はそうみる。

 ゆっくりマイペースで全国を走り回る軽キャンピングカー。日本発の新しいドライブの形かもしれない。

(2007年10月17日  読売新聞)