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Vol.60BMW 7 Series

運転を楽しむ悦び欲しい
BMW 7 Series

 BMWのフラッグシップである7シリーズが8年ぶりにフルモデルチェンジをした。そしてさっそく、1000台の受注を受けているという。メルセデスを含め、ドイツの高級車への根強い人気をうかがわせる。

 BMW7シリーズは、その大柄な姿にもかかわらず小型の3シリーズなどと変わらぬ運転の楽しさを味あわせてくれるクルマであった。身体の隅々にまで染み渡る、その運転の楽しさには感慨深いものがある。なぜこのように大きな、一見、運転手付きのハイヤーのようなクルマがこんなにも身軽に駆け巡るのか。これまで7シリーズで味わってきたその感慨が、新しい7シリーズではどのように進化しているのか。非常に楽しみな気持ちで試乗会へ出掛けた。

 結論から先に言えば、しかし、そうした期待は少なくとも満たされることはなかった。期待が大きかっただけに、反動も強かったというのが正直なところだ。

 一番の失望感は、運転の楽しさが感じられないことだ。これではBMWを選ぶ意味がないと思う。もし、目をつぶって新しい7シリーズを運転をしたとしたら、このクルマが何であるのかイメージはわかないだろう。極論すれば、メルセデスでもセルシオでもかまわない。BMWだという実感が伴わないのである。

 なぜだろうか。運転を始めてまず感じるのは、クルマが走っているという手ごたえが薄いこと。ゆっくりとした速度で角を曲がって、試乗会場を離れ、通りに出てスピードを上げる。その一連の走りの中で、自分が操作をしているという感触がないのである。あえて言えば、テレビゲームという映像の中でクルマは走り、乗っている自分は動くことのない部屋の中に居る。そんな感覚だ。

 これはどこかで体験したことがある。と、思い出してみると、十数年ほど前の国産車がさかんに力を注いだアクティブサスペンションの世界に似ている。コンピュータ制御を駆使することで、今まで不可能と思われたクルマの走りに対する人間の支配ということが試みられた時代。だが、先進のコンピュータよりはるかに優れた人間の感性は、いくら速い演算が行われたとしてもコンピュータの計算速度より敏感に動きを感じているのだ。だから、人間の感覚とクルマの動きとの間に時間的ギャップが生まれる。それを違和感として感じる。

 新しい7シリーズは資料で、『テクノロジーの追求のみによって快適性と安全性の向上、駆け抜ける歓びと高性能を実現するのではなく、「より簡単、より快適、より個人的」という全く新しいコンセプトを融合させた』と、説明されている。そのために、『新たなテクノロジーを人間に順応させ、人間が意のままに操れるようにすることです。決して人間をテクノロジーに順応させるのではありません』とあるが、その熟成はまだ十分ではないようだ。

 新しいエレクトロニックキーは、いわゆる金属の鍵の部分がなく、プラスチックの箱をダッシュボードのスロットに差し込み、ホンダS2000のようなスタータボタンを押すのみである。新しい7シリーズでは、エンジンを停止する際もそのボタンを押す。そして、スロットからエレクトロニックキーのボックスを引き抜くと、万が一オートマチックのシフトレバーをDレンジのままにしていても、自動的にPの位置になる親切な設計だ。

 オートマチックのシフトレバーは、ステアリング脇に設置されたレバースイッチ式になっており、これまでのようにフロアのレバーを操作するのではなく、スイッチを切り替える感覚だ。もはやシフトレバーを動かすことなど必要ないと自分でも思っているが、とはいえ、7シリーズのシフトレバーの操作はどこか違和感がある。その理由は、どこにシフトされたのか、メーター内のインジケータを見なければ確認できないからだ。つまり、位置で感じていたシフト操作が目で確認しなければならないことによって、神経を使うのである。

 オーディオ、エアコン、カーナビなどの操作は、センターコンソールの丸いダイヤルスイッチで一括して操作をする。その操作状況も、ダッシュボード中央の画面で確認しなければならない。資料の説明では、ひとつのコントローラーで全てを操作することができ、ドライバーは余計な目の動きをしなくて済むというが、たしかに目線の動きは従来の個別スイッチより少なくなるものの、その分、操作画面をじっと見続けなければ、機能の選択を含め、操作状況が確認できないことになる。どちらのほうが気が散るだろうか。

 コンピュータ操作のように、簡単な操作でクルマが動かせることによって、誰にでも簡単にということなのだろう。しかし、コンピュータの盲点は、全てを目で確認しなければ機能が先へ進まないため、目が非常に疲れることだ。クルマの運転は、ただでさえ、前方のみならず後方や側面の、他車や歩行者などに気を配りながらしなければならないのに、クルマの操作画面も凝視しなければならないようなクルマが、本当に誰にでも運転しやすいものなのだろうか。

 運転感覚を含め、操作の面でも、新しい7シリーズは、まだテクノロジーを人間に順応させるのではなく、人間をテクノロジーに順応させなければならない仕上がりに止まっていると感じた。それが運転を楽しむ悦びを薄れさせ、BMWに対する期待に失望を与えたのだと思う。

 しかし、ドイツの自動車メーカーは年を追うごとにクルマを磨き上げていく。新しい7シリーズも、何年か先になればきっと素晴らしいクルマに仕上げられるだろう。そのことに、大いに期待したい。