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Vol.87HONDA INSPIRE
インスパイアは、前モデルがアメリカからの輸入車であったのに対し、新型では国内専用車として開発された。ただし、アメリカで販売されているアコードがそのベースにはなっている。 旧型が、セダンとはいえ、いかにもアメリカで1人、あるいはせいぜい2人で乗るためのクルマという、スタイル優先でやや室内が窮屈なクルマであったのに対し、新型インスパイアは室内空間が十分にとられ、後席の座り心地も快適だ。そして、静かな走りでもある。 インテリアも、ホンダの最上級車であるレジェンドを意識したようなデザインになっている。ただ、上級グレードの木目と革を使い分けたステアリングホイールは、手の握りに木目と皮の境目の段差を常に感じ、感触がよくない。また、ホンダらしく走りを優先するあまり、サスペンションチューニングにタイヤ選びも絡んで、走り味はどこか粗雑な印象が残る。 しっとりとして、心地よく滑るように走る高級車の味わいへの期待に反し、どこか物足りなさを覚えるのは、他に気筒制御エンジンの影響もありそうだ。 全グレードが3リッターV6エンジンとなった新型インスパイアでは、燃費向上のため、安定した走行条件の際に3気筒のみで走らせる制御を新採用している。 これによって、11.6km/lの優れた10・15モード燃費を達成しているし、実際、今回の試乗中のオンボードコンピューターに示される実用燃費は、エアコンを稼動させた状態で10km/l以上を維持した。 また、6気筒と3気筒の切り替えに際してはそれを全く気がつかないほど自然に行われる。したがってドライバーは、知らぬ間に低燃費を手に入れられるし、同時に、発進加速などV6エンジンにものを言わせた走りを期待したときには、存分にその実力を味わうことができるのである。技術的にも、走行性能においても、この気筒切り替え制御はじつによくできている。 しかし、たとえば高速道路で一定のスピードで走り続けた場合、V6エンジンは3気筒で運転されることになるわけで、そこでは多気筒エンジンがかもし出す上質さは感じにくいのである。上質さの希薄さは、そのときのインスパイアが3気筒エンジン車だからではないか、と思う。 極端な例だが、軽自動車で経済性を追求した場合3気筒エンジンが選ばれる。一方、軽自動車でも高級さを特徴とする場合は4気筒エンジンが使われる。 そのように、上質さや高級さは、エンジン自動車の場合、気筒数が感覚的に大きな影響を与える。だから、世界の名だたる高級車はV8エンジンを搭載するし、さらにはV12というような多気筒エンジンが愛用されるわけだ。 新型インスパイアでは、加速性能と低燃費の両立をひとつのV6エンジンの気筒数を切り替えることで技術的には達成したが、高級車とはどういった趣を持つクルマであるのか、といったところで、今後さらなる研究が必要であると思う。 そしてこれは、何もホンダだけの問題ではなく、環境問題から逃れることのできない今の時代にあって、高級車はどうあるべきかが世界中の自動車メーカーに問われていることを示している。 実用車に何か魅力を追加したクルマでは、その何かを体感する喜びがなければならない。一方で社会が要求する課題を、技術でどう解決し、そして感覚を満たすことができるのか。新型インスパイアはひとつの解決策を技術的に成功させたが、感覚の面でまだ十分ではない。
技術開発という面では、新型インスパイアで初めて搭載された安全機能、プリクラッシュセーフティテクノロジーの素晴らしさには舌を巻いた。 クルマが前車に追いつき、追突しそうな状況になった場合、まず警告音やメーター内のシグナルでドライバーに知らせるが、それでも減速するという運転操作が行われない場合、シートベルトを故意に自動巻き上げし、そして少し緩めるという操作を短時間に繰り返すことで、ドライバーの体に危険を知らせる。いわば、シートベルトでドライバーの肩を叩くといった合図だ。それでもなお、ドライバーが減速の運転操作を行わないときは、クルマがブレーキを自動的にかけ、追突スピードを下げるのである。 テストコースで実体験させてもらったが、警告のシグナルに加え、シートベルトを使った体への『肩叩き』シグナルは、そうとうに有効だとわかった。また、追突直前の自動急ブレーキが、かなりの威力を発揮することも確認できた。 一方で、この安全支援システムは、追突をさせないところまで自動運転を行うのではなく、ぎりぎりまでドライバーの運転で危険を回避させるように作りこまれているため、ベテランドライバーの運転に余計な介入をしない配慮がなされているのも好ましい。 自動運転と、ドライバー自身による運転の境目のサジ加減については、先の新型アコードに搭載され(この新型インスパイアにも搭載されている)車速・車間距離制御機能や、車線維持機能と同じ様に、ホンダはじつに手頃なところに仕上げている。 やたらに衝突後のボディの安全を宣伝するのではなく、衝突を起こしにくいようにする、事故前の安全機能に力を注ぎ、それでいて運転の喜びを失わせないホンダの安全への取り組みは、もっと高い評価を得るべき水準にきているといえる。 新型インスパイアは、先進の環境・安全「技術」の素晴らしさを存分に味わい、楽しむことのできるセダンということができる。 |
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