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Vol.89RENAULT KANGOO
ルノーのカングーは、フランス流の生活の合理性と、人々の自己主張の強さを象徴するとでもいうべきクルマではないかと思っていた。 しかしそれは、単にフランス人のライフスタイルに限られるのではなく、世界に同様の価値観を持つ人が少なからず居るというのは、カングーの97年からの累計販売台数に表れている。この6年間で、120万台以上が世界で販売されているという。 日本では、2002年春に発売され、1年半弱で1,100台ほどが売れている。東京で言えば、それでもかなり目にする存在のクルマであり、実際、ぼくの家の近所の時間貸し駐車場によく止められている。日本で人気の黄色のボディカラーが目立つこともあるが、存在がやけに気になるクルマだった。ただし、これまで個人的に試乗の機会がなかった。 この8月末から、マイナーチェンジが行われ、フロントグリルが大きく変わった。クリオやメガーヌなどにも通じる、ルノーの顔に統一された。ヘッドライトも、バンパープロテクターも同時に変更されている。 スタイリングだけでなく、エンジンも新しくなった。これまでは、1.4リッターSOHCエンジンだったが、それがなくなり、1.6リッターDOHCエンジンが搭載されている。排気量が大きくなったことでのパワーとトルクの向上だけでなく、とくに加速などで力を発揮するエンジントルクの発生回転数が下げられたのは、運転のしやすさを高めるのに効果があるはずだ。 それから、リアハッチゲートだが、従来は跳ね上げ式のみだったが、左右に6:4の比率で観音開きとなるバックドア方式も選べるようになった。
リアドアがもともとスライドドアであったのに加え、観音開きのバックドアが追加されたことで、狭い場所での乗り降りと荷物の積み下ろしの両方が、より楽にできるようになった。 試乗は、都内の一般道のみとう条件だったが、パワーアップされたエンジンと、4速オートマチックの組み合わせによる加速は、文句のない十分なスピード感を与えた。エンジンは、日本車のような、「しんッ」とした静かさではないが、ヨーロッパ車特有の、実用エンジンらしい逞しさを感じさせる音がする。4速オートマチックには学習制御が組み込まれているということなので、市街地から高速道路へ抜けるとシフトアップのタイミングなども変わり、伸びやかな加速を味あわせてくれるのだろう。 サスペンションの動きという意味での乗り心地は、かなりソフトな印象だ。アクセルを踏み、ブレーキをかけ、ハンドルを切るたびに、クルマの動きが変わるのがわかる。一方で、タイヤは同じくフランス製のミシュランのグリーンタイヤであり、路面との当りはやや硬めだ。 そうした乗り心地全般は、日本車と全く異なる。しかし、フランス車全般に通じる雰囲気はたっぷりで、ヨーロッパの石畳の道を果敢にアクセルを踏んで走り抜けるといったイメージが、頭の中で駆け巡る。そうした楽しさがある。 使い勝手の面で、後席のシートアレンジはじつに簡素だ。シートバックを左右6:4の分割で前方へ倒しこめるほか、左右のシートバック一緒にダブルフォールディング機構により、座席全体を前方にたたみ込める。 欲を言えば、せっかく左右6:4にシートバックが別々で折りたためるのだから、ダブルフォールディング機構も左右別々でも…と、思ったりする。だが、あらゆる条件を満たそうとすると、新たに不具合が生じたり、機構が複雑になったりしかねないと、自らの発想を反省した。そして、そういう発想が、日本のワゴンやミニバンを、複雑怪奇なクルマにしてしまっていると思うのである。 一方、カングーの場合、リアシートは6:4の境目となる3人掛けの中央に腰掛けてみても、ちゃんとクッションが効いて座り心地がよいようにできている。 優先順位の問題なのだが、クルマにとってシートとは何か?。その答えが明快であるとわかる。いつ、ダブルフォーディング機構を使うかわからない部分に、あれもこれも、多彩なアレンジを用意するより、まず乗車する5人が快適にクルマでの移動を楽しめる方が大切ということが、フランス人にとって重要なことなのである。それが、わかる。 シートに人が座る。その状態でクルマは、時速数十キロ、あるいは百数十キロのスピードで、走るのである。きちんと座れることが、シートベルトの正しい装着を促し、人の命を守る。 出掛けた先でのシートアレンジより、スピードを出して走ることがまず求められるクルマの性能に対し、人の命の大切さをわきまえている。まさに正当なクルマの作り方だ。たとえ市街地でのスピードでも、万一の際、きちんと座っていなければ、シートベルトをしていても装着状態が悪くなり怪我をする可能性が高まるのだ。 カングーの、リアハッチバック車が192万円、観音開きとなるリアのダブルバックドア車が195万円。この車両価格は、若干の為替変動の影響は受けるものの、フランスでの価格とほとんど変わりがないという。 200万円近いクルマにしては、灰皿の開け閉めなどプラスチックの感触にやや安っぽさを感じる部分もあるが、フランス人のエスプリを十分に伝える心地よいクルマであった。 |
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