ニュース 速報 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
本文です

Vol.91HONDA LIFE

「軽」を感じさせない軽自動車

 新型ライフに乗って、感動した。

 「Fitより、いいんじゃないの?」

 と言ったら、ホンダの人に嫌な顔をされた。

 いや、別に、Fitが悪いという意味で言ったのではなく、それほど新型ライフはよくできたクルマだと感じたからだ。よくできたクルマ。そう、よくできた軽自動車だとは思わせない上質な仕上がりのクルマであった。

 実際、開発陣も新型ライフを「いい軽自動車」にしようと作ったわけではないという。車体寸法や、エンジン排気量は、軽自動車の制約があるが、彼らが目指したのは「いいスモールカー」である。

 スタイルは、以前のライフに比べずいぶん顔つきがハッキリとした。前から見た顔は、フロントフェンダーのあたりがスマートに似ているなと思ったり、後ろ姿はコルトに似てないか?と思ったりはしたけれど、それはまあ、好みの問題だ。

 ホンダ伝統の、マンマキシマム・メカミニマム思想を改めて追求し、衝突安全性能は今日の水準を十分に達成しながら、エンジンルームを極限まで小さくして客室を広げた結果が、このスタイルとなっている。

 そういう意味で、スマートと似たフェンダー処理は、スマートも全長を2.5mに抑えたシティコミューターの発想から生まれ、大型車とのコンパティビリティを考慮した衝突安全性能を備えたボディであるのだから、相通ずるところがあるのは当然なのかもしれない。

 スマートが、前方を見ている限りそれほど小さなクルマを運転していると感じないのと同じ様に、新型ライフは前のみならず、横を見ても、後ろを見ても、軽自動車とは思えない快適な室内空間のボリューム感を覚えさせる。

 なぜなのだろう?・・・と考え、質問もしてみたけれど、ハッキリとした結論はまだ出ていない。しかし、エンジンルームをより小さく抑え、フロントウィンドウがより前方に延びて、そのフロントウィンドウの傾斜角度で決まる自分の頭とフロントピラーとの距離感が、ゆとりを覚えさせるのではないか。

 その点、身長167cmの自分の場合、Fitのフロントピラーは近すぎて、斜め右前方の視界も悪く、運転中に不安な心持にさせられるのである。ところが、Fitより小さなはずの新型ライフでは、運転中の視界も広く、角を曲がる際に、あるいは道路のカーブを切れ込んでゆく際にも、見えにくいことによる心細さはなかった。

 快適さは、室内空間のゆとりだけではない。

 新開発の3気筒エンジンは、3気筒という独特の振動も小さく、排気音も抑えられ、非常に静かな居住性をもたらしてくれる。アイドリングで信号待ちをしているときにも、余計なエンジン振動が体に伝わってこない。

 ホンダの軽自動車用オートマチックトランスミッションはようやく4速を手に入れ、発進加速の出足はもちろん、ある一定スピードでの巡航中もエンジン回転が抑えられるためわずらわしさがなくなった。

 エンジンそのものも、低速トルクがあって、市街地で運転しやすい。さらに、ターボエンジンは、いわゆるターボラグを体感させない大排気量エンジンの感触を持ち、スピード全域において快い走りを提供してくれる。しかも、モード燃費が自然吸気エンジンと大差ない。

 サスペンションの設定は、オデッセイのアブソルート的なしっかりダンパーの減衰が働いている確かさが伝わるスポーティな味わいだ。それでいて、路面変化をうまく吸収してしまうので乗り心地が悪くなることもない。この、いわゆる走行中の乗り心地も、たとえばマイナーチェンジをした際に登場したFitの1.5リッター車のようにしっかりとした手ごたえに、かつ上質な感触を新型ライフは備えているのである。

 実は、新型ライフは女性ユーザーを強く意識した開発が行われたという。だが、いわゆる男が考えた女性仕様という押し付けがましい作りは微塵も感じられなかった。なるほど、セールス部門の開発責任者は女性であり、その厳しい目がクルマ開発に常に注がれていたのだろう。

 たとえば、シートアレンジひとつとってみても、社内の上司への報告書用に競合他車と数を競うなどというユーザーをないがしろにした内容ではなく、本当に「あったら便利」と使う人が実感できるアイディアに絞り込んで作られている。あるいは、ドアの取っ手が、背の高さに関係なくあらゆる方向から開けやすく、なおかつデザイン的にもほほえましい形に作られているのも、買う人を中心に考えられた発想だ。

 ホンダ車に乗る喜びは、そういうところにある。ホンダ車の開発は、ライバルに勝つために行われてはいないからだ。

 新型ライフは、これまで経験がないほど気分のいい軽自動車だ。そして、乗っている間ずっと、自分が軽自動車に乗っていると感じさせられることはなかった。近くを大型トラックにすり抜けられても、あおられる恐怖は微塵もない。

 「Fitよりいいんじゃないか」

 それは、素直な感想なのだ。