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Vol.55MASERATI SPYDER
現在、マセラティは、コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドが総代理店として日本への輸入を行っている。他に、フェラーリ、ロールスロイス、ベントレーを扱う会社で、どれも高級車ばかりだ。フェラーリの傘下にあるマセラティには、4ドアサルーンのクアトロポルテ、2ドアクーペの3200GTがあり、今回試乗をしたのはその3200GTをベースに2人乗りのオープンカーとした、スパイダー・カンビオコルサである。 マセラティは、どれもターボエンジンを搭載することで親しまれてきたが、スパイダーは新開発のV8自然吸気エンジンである。しかも、他のターボエンジンを上回る390馬力を誇る。また、なかでもカンビオコルサは、フェラーリ360F1と同じセミオートマチックの6速トランスミッションを備えていえる。 1295万円もするようなクルマに乗り込む際は、緊張を伴うものだ。しかも、普段から乗り慣れた車種ではない。まずは、スタッフからセミオートマチックの操作方法を教わる。 マセラティが生まれたボローニャの市章である海の神様、ネプチューンの三つ又鉾のマークがホーンボタンにあしらわれたステアリングホイールの後ろ側に、シフト操作用のパドルがある。細長いレバーの右がシフトアップ、左がシフトダウンだ。 イグニッションキーをひねりエンジンを始動。すると、メーター内のインジケータにニュートラルを示す「N」の文字が現われる。そこから、右側のパドルを手前に引くと、1速。それを繰り返すことで2速、3速・・・とシフトアップが行われる。逆に、左のレバーを手前に引けば、順次シフトダウンが行われ、停車をして、ニュートラルに戻す場合は両方のレバーを同時に手前に引く。リバースは、センターコンソールにある控え目なレバーを人差し指と中指の間に挟んで持ち上げながら手前へ引くと、インジケータに「R」の文字が現われる。 ギアを1速に入れ、アクセルをそっと踏み込む。その発進はとても滑らかで、ギクシャクするところがない。通常のオートマチック車のように勝手に動き出しはしないが、動き出しは滑らかなので、バックする際にもアクセル操作の通りにクルマが動いてくれ、不安がない。390馬力もの高性能エンジンを搭載しているにもかかわらず気難しさがないため、これなら誰にでも運転ができると思った。 とはいえ、最初は自分でも肩に力が入っているのが分かる。それほど特別なクルマと思わせる雰囲気がある。エンジン音は、よくスポーツカーのエンジンで例えられるように乾いた金属音で、それでいて、金切り声のような神経を逆なでする騒音ではない。同乗の理恵ちゃんと二人、自然に笑みがこぼれたのはなぜか。歓喜の心を揺さぶるコルネットかフルートでも奏でられるがごとき音色であったからだろう。 国産車で言えば、ホンダのVTECエンジンは、その力強さと、それに伴うエンジン音の変化でスポーツ心を掻き立てるが、カンビオコルサのエンジン音は闘争心を起こさせることはない。スピードに浸り、それに酔う心地よさを備えている。 オープンボディは、路面の変化でフロントウィンドーを時に揺すったりするが、走りに関わる足元のシャシー剛性はびくともしない作りで、レーシングマシンに通じる操縦安定性を実現している。そして390馬力のエンジンが、1.7トンを超える車重を想像だにさせない軽快なフットワークをもたらす。 インテリアは優美にして甘美。貴婦人の気高さと情熱的な色気を兼ね備える。アイボリーを基調とした色使いは、きらびやかさと気品に満ちている。そのように優雅な装いでありながら、切れ味のあるシャシー性能と、陶酔させるエンジン音を調和させたこの趣は、まさにクルマの芸術と呼ぶにふさわしい。 たしかに1295万円という価格は安くはないが、このカンビオコルサが備える価値からすれば、バリュー・フォー・マネーの点で価格を上回る価値を持っており、買い物としての満足度は計り知れないほど高いはずだ。 カンビオコルサを乗り回せるほど、華のある人生は他にないのではないだろうか。あらゆるクルマを乗り継いだ末に到達する喜びを備えたスパイダーである。 |
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