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Vol.95DAIHATSU TANTO

ホイールベース延長で得た安定感

 イタリア語で「とても広い」とか、「たくさんの」という意味のことを、タントというそうだ。言葉通り、ダイハツの新車、タントは、室内を広々と感じさせる軽自動車だ。

 「しあわせ家族空間」を開発の狙いに、ダイハツ社内外の多くの女性の意見や要望を採りいれてタントは開発されたのだという。

 車体の高さは、1.7メートルを超える。ダイハツのワンボックスカーのアトレーワゴンに迫る背の高さだ。そして、室内は、床から天井までが1.3メートルを超え、子供が立つことのできる高さのゆとりを備えている。

 その室内空間の様子は、スタイルからも一目瞭然で、窓ガラスが大きく、見るからに背が高い。しかしこんなに大きなガラスを使った背の高いクルマを運転したら、頭でっかちで、フラフラと不安定な走りになるのではないか?という心配があったが、それは危惧に終わることになる。

 室内は、ベージュを基調とした明るく爽やかな雰囲気で、シートは、左右のつながったベンチシートタイプだが、前後の席ともに、左右別々に前後スライド調整させることができる。

 運転席に座ると、本当に自分の手が天井に届かないほど高い。そして、フロントウィンドウ脇の三角窓(といっても、三角というにはあまりに長細い形だが……)が、目の錯覚によると思うが、やや外側に反ったように見える独特の視界が目の前に広がる。

 さっそくエンジンを掛け、走らせるが、ハンドルを切って曲がるとき、重心が高いクルマにありがちな天井から横へ倒れこむような不安がないことに、驚かされた。タントのスタイルからは重心が高いクルマに見えるのに、なぜこれほど安定した走りが実現できたのかと聞いてみると、ダイハツの開発者曰く、

 「ホイールベースが長いので、それが役立った」と言う。

 タントの前後タイヤ間の距離は、軽自動車で一番長いのだそうだ。ダイハツの人気車種であるムーブより、さらに5センチホイールベースが長くなっている。それによって、要は、ピョコピョコと跳ねるような振動を抑えやすくなり、走りを安定させられたのだという。

 少し意地悪に、スラローム走行をしてみたが、それでも、不安はなかった。

 ホイールベースを長く伸ばすということは、2000ccクラスの乗用車並みを誇るタントの室内の長さを手に入れることにも役立ち、車名にふさわしい、広々とした室内を実現する上で必要だったのだろうが、それが、背の高いクルマの走りを安定させるのにも大きく役立ったのである。

 軽自動車という、限られた車体寸法の中で、常にギリギリの設計が行われてきているはずだが、本質的なホイールベースの延長という努力を払った結果、広い室内と安定した走りの二つをタントは同時に手に入れたのである。

 この安心感のある運転感覚は、どのグレードでも変わらない。

 どのグレードでも変わらないことでは、スタイリングもインテリアも、グレードによる差はないに等しいといっていい。

 99万8000円から146万円の価格差は、では、どこにあるのかというと、自然吸気エンジンであるかターボエンジンであるか、FFの2輪駆動であるか4WDであるか、オートエアコンであるかマニュアル式エアコンであるか、ほぼその違いでしかない。

 もっとも手軽な価格のグレードでも、インテリアの質などに安さを感じさせないのがいい。ターボエンジン車でも、あえてそれを誇示するようなスタイルの違いはなく、若干のエアロパーツがつくくらい。言われなければグレードの差の見分けがつかない、本質のよさを感じさせるクルマだ。

 とはいえ、走るうえでの乗り心地でもっともバランスの取れていると思われるのは、まん中のグレードのXだ。

 一番下のLは、タイヤサイズが一回り細く、その結果、タイヤの剛性の違いで乗り心地が柔らかすぎる傾向にある。ただし、それで走りが不安定になることはない。一番上のターボエンジンを塔載したRSは、ターボエンジンの鋭い加速と、サスペンションのバランスがもうひとつで、洗練さに欠けると感じた。

 最後に、タントでは、スペアタイヤが標準から外され、全車タイヤパンク修理の応急キットが標準装備となっている。

 この応急キットは、ダイハツのコペンでも採用されていたが、絵日記の高木理恵ちゃんにも好評の装備だ。手を汚さず、力仕事をせずに、応急処置をすることでタイヤ修理ができる店まで走れることになる。また女性のみならず、高齢者や、男性でも交通の頻繁な場所でのタイヤ交換はしたくないもの。タイヤ交換に際しての危険を減らす上でも、スペアタイヤではなく応急キットの標準装備がさらに進むといいと思う。

 最初に書いたように、女性の切実なる要求を真摯に採りいれたタントのようなクルマは、女性のみならず、あらゆる人にとって便利で質のよいクルマを提供することになることを、タントは世に示したといえるだろう。