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188周目:45年分の引き篭もり「100年に一度の不況だ」と政治家が繰り返して言い、新聞やテレビ等のメディアもそう報道する。でもホントかね。 100年という数字の根拠はいったい何なのか。1929年末、アメリカ・ニューヨークのウォール街で起こった株価大暴落に端を発する「世界大恐慌」を踏まえてのことなら、80年ぶりの出来事ということになる。1909年前後や200年前にもそれ相当の不況があったのか、不勉強なオイラはよく知らない。ニュース解説あたりではちゃんと報道されているのかもしれないが、オイラはワケあって年末年始はほとんどテレビを見なかったので、それもよく分からない。 80年でも120年でも細かいことはいいじゃないか、それぐらい珍しく厳しい不況なんだ、と反論が来そうだが、第二次世界大戦時やオイルショックは考慮外なのか、皆が何とも軽々しく100年百年と言っているような気がして、「本当にあなた方は100年間の歴史を知ってるんですかい」と突っ込みたくなるのは、ジジイの悪い癖だろうか。 ◇ ◇ ◇ 年末年始はテレビも見ず、遠出もせず、ずっと家に引き篭もっていた。そしてそれは今なお現在進行形であって、春まで間違いなく続くことになっている。 「非正規労働者にはこの寒さがこたえます(涙)」などと、街中でテレビカメラを向けられたら悲しげに答えてみたいところだが、だいたい街中に行くこともないので、そんな場面もありえない。 家に篭もっていったい何をしているのか。何もしていないのか。いや、100年前ならぬ過去45年間を行ったり来たりしているのだ。 分かりやすく言うと、日本国内のレース結果を最初から現在まですべて「さらう」仕事をしている。 「さらう」と言っても、すでに在るものに目を通す程度ではなくて、実際にはイチから「作る」のに近い。「レース結果を作る」とは確かに妙な言い方で、杓子定規な方からは「結果という事実はひとつしかないだろ。それを“作る”とは何事だ。偽装するのではあるまいな」と叱られそうだが、サーキットで配布される公式結果なるものも様式はまちまちで、主催者あるいはサーキットによって、さらに時代によって、異なっていて統一感に欠けている。現在では当然のように知れるデータが昔の結果表には記載されていないことも多い。それだけ計時システムが進歩したということだ。だいたい、80年代までのそれらは人が手で書いた文字であることが多く、読みづらい癖字、誤字脱字や転記間違いもないではなかった。公式結果が100%正しいと言い切れない部分もあったのだ。専門誌に掲載される(明らかな間違いを正した)結果表も上位10位までとかに限定されていて、最下位まで載っている方が珍しい。 しかし、時代が変わり、他のメジャースポーツが自らの記録を大事にし、そのことによって別の興味を喚起させているのに対して、モータースポーツ界だけはきちんとしたリザルト管理・記録保存・統計分析といったアーカイブ的な仕事がなされないままで来てしまったのが現状だ。 オイラは学生時代から暇に飽かせて古今東西のレース結果をノートに書き連ねることが習慣になっているので、主要レースの公式結果やプログラムやノート類も今や途方もない量となり、積み上げた本やノートが地震のたびに崩れたりするのを呆然と眺めつつ、その延長線上としてモータースポーツ誌の編集や執筆を30年間してきたわけで、すると時には今回のような酔狂な注文も来たりするから不思議だ。昨年半ばになって「国内主要レースのリザルトをきちんとした形にまとめてくんなまし。できれば年内に、遅くとも春までにヨロピク」と軽く言われたのだった。 ありがたいお仕事だ。統一フォーマットを決め、複数の資料を照合し、入力しながら加工、といった手順になる。いずれウェブ上で活用されるようになればいい。でもね、本当は半年やそこいらで、それもひとりで出来る仕事量じゃないんだけどね。 だって、1963年の第1回日本GPから2008年まで45年分、年間平均100大会開催されてきたと計算して、全部で4500大会。一大会につきメインや前座など3〜4レースずつ開催と見積もれば約1万5000レースとなる。そのうち、「全日本選手権」レベル以上の主要レースに限定すると3000レースくらいか。 試してみてほしい。例えば2008年スーパーGTシリーズ全9戦の結果表をエクセルで作ってみよう。総合順位・クラス別順位・カーナンバー・ドライバー・車名・型式・周回数・タイム・予選順位・予選タイムは必須だ。かなり熟練した編集者でもたっぷり一日費やすことだろう。一日では無理かもしれない。それも手許にちゃんと公式結果表や資料があることを前提にしての話だ。 それが3000レース分となれば、その333倍。333日が必要となる(休日は何処へ行ったの?)。しかも昔のレースは公式結果や資料が手許にないことも多い。学生時代に書き溜めた自前のノートが40年経って役に立つとはね。 こういう、窓際編集者あるいはアルバイト君に振られそうな地味な匿名仕事が、オイラは実は大好きだったりする。 ま、そんなわけで、年末年始を経て春に至るまで、オイラは脇目も振らず、テレビも見ずに、でも嬉々として結果表作りのために引き篭もりを続行するわけなのよ、グフフ。だからさ、こんなコラム書いてる暇も本当はないのだよ(うそうそ、気分転換には最適ね)。 あとは時間との競争だ。ン〜、なんてレースっぽいんだろう。 無事「完走」できたらアーカイブ冥利に尽きるというもので、その暁には『100年に一度の大仕事だぜ』と言ってみたいところではあるけれど、正しくは『45年に一度の仕事』なのだな。ちゃんちゃん。 (2009年1月13日 読売新聞) |
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