投資信託は本当に初心者向きか?![]() ファイナンシャル・プランナー 石原 敬子2011年の運用環境は、非常に難しかったと思います。投資信託の運用も厳しい年でした。ところでこの投資信託、運用の初心者向けの金融商品という位置づけで語られることが多いものですが、本当にそうでしょうか。基本に戻って考えてみたいと思います。 なぜ「投資信託は初心者向き」と言われるのか?投資信託は「投資の初心者向け」というイメージが定着しています。その理由は、主に2つあると思います。1つは、投資信託は額面1万円単位で購入できる銘柄が多く、少額から投資できることです。 まだご自身の投資スタイルが確立されていない投資初心者の方には、「ご自身がどれだけリスクに耐えられる性格なのか、家計の状態はどうなのかを、まず試しに、少額ずついろいろな性格の金融商品を購入してみましょう」といったご提案をすることがあります。投資信託は、このような場合に適しています。身銭を切って実際の値動きを体験すると、ご自身の投資への考え方が明確になるからです。トライアルという目的なら少額で十分ですし、タイプの違ういくつかの投資信託に分けることも容易です。分散投資すれば、リスクを抑えることもできます。 もう1つは、投資信託では、投資の前提となるマクロ経済の調査・分析や個別銘柄の調査・分析と対象の選別を、投資信託会社(運用会社)にアウトソースすることができるからです。 運用の方針に合った投資対象を投資信託会社に選んでもらうだけでなく、その後も相場環境に応じて機動的な運用を行ってもらえます。つまり、本来は投資家自身が行う投資判断などを投資信託会社に任せることで手間が省けます。知識のみならず、投資にかけられる時間が十分でない投資家も、調査・分析を投資信託会社にアウトソースするシステムを利用して効率よく投資成果を享受することができます。なお、投資信託の手数料は、このアウトソーシングシステムにかかるコストとなっています。 ここまでお読みいただくと、投資に関する知識力が不足している投資初心者には、やはり投資信託を活用する意義があるのではないか、と思われることでしょう。それでも、私が「投資信託は初心者向きではないのではないか」と感じるのはなぜだと思いますか? 投資信託の前に、最低限の金融商品知識が必要投資信託は、それ自体が投資対象というよりは、投資信託会社が投資家から集めた資金を、投資信託会社が厳選した投資先で運用するパッケージです。この仕組み自体が、金融商品として複雑でわかりにくくさせているのではないかと思うのです。 パックの中身は、その投資信託に組み入れられている株式や債券、外貨建ての金融商品、不動産、金などの商品取引などです。投資信託の購入者は、これら投資対象の特徴や価格変動の要因について十分理解しておく必要があります。 なぜ株価が上下するのか? 金利と債券価格の関係は? 為替が変動するとどうなるのか? などと、投資にまつわる疑問は多々あります。株式、債券、為替は、投資対象としては基本のものです。これらを組み入れた投資信託の値動きのメカニズムがわかりにくいのは想像がつくことでしょう。 商品性としては、投資対象の素材となっている債券や株式などの方がずっとシンプルです。「だから、債券や株式を買いましょう」ということではありません。債券や株式などへの投資知識が、まず投資信託の予備知識として必要だということを言いたいのです。 どのような状況で株価や金利、為替が変動するかなどが理解できれば、投資信託の価格変動の要因もだいたい理解できることと思います。 さらには、それ以前の問題で、「投資信託を持っています」とおっしゃる方の中に、どのような運用対象に投資している投資信託なのかを分かっていない方が意外と多いことに驚かされます。そもそも、ここでつまずいていたら、ご自身の資産がどういう状況かも遠い世界の話になってしまいます。 このように考えると、投資信託には、株式や債券、外貨建ての金融商品、不動産、金などの商品取引などで直接運用するのと同じぐらいの商品知識が求められることがお分かりいただけることと思います。ですから、私は「投資信託が投資の初心者向き」と安易に位置づけることに疑問を持つのです。 数多くある投資信託の違いを見極められますか例えば、外国債券型投資信託というだけでも、うんざりするほど銘柄はたくさんあります。似たような運用方針を打ち出すあまたある投資信託について、それぞれの良しあしを見極め、自分の投資方針に合ったものを選ぶことは、そう簡単ではないでしょう。 投資信託はアウトソーシングといいましたが、それは運用のシステムの話です。自分の投資方針に合った投資信託を選ぶのは、投資家自身です。投資家の立場としては、将来の経済環境や金融市場のシナリオを組み立て、運用のゴールを明確にし、それとマッチングする投資信託を探さなければなりません。 これを、一般の投資家はどこまでできるのでしょうか。また、そもそも、自分の投資方針や運用目標をはっきりさせている投資家はどれぐらいいるでしょうか。これらは何らかの形で投資経験を積んでおかないと思い描きにくく、現実的な投資方針を立てることは難しいものです。その上、投資方針に合った投資信託を選ぶとなれば、ハードルは決して低くはないと思います。 アウトソーシングするのは運用、投信選びではない個々の投資信託を比較・検討することが難しいからでしょうか、私は、この探す作業を販売会社(銀行や証券会社)に任せようとする投資家が少なくないと感じています。 反対に、投資信託を購入する際に、販売会社からある一定のシナリオを刷り込まれることも、無きにしもあらず。また、販売会社の担当者が、顧客の投資方針を理解しないまま、相場環境だけを考慮し、特定の投資信託を勧めるケースもよくある話です。 相場やマクロ経済の調査・分析をアウトソーシングしたパッケージが投資信託なのであって、投資信託選びをアウトソースするのではありません。販売会社の店頭に数多く並んでいる投資信託のパンフレットの中から自分に合った銘柄を選ぶのは、あくまでも投資信託の購入者自身です。 これらのことを総合的に考えると、投資信託を購入・保有する投資家にも、予備知識が求められます。まず投資家自身が自分の投資方針を明確にしておくこと、投資信託に組み入れられている金融商品の基本的な知識、同一の運用方針を掲げる複数の投資信託間で比較検討ができること、などの一定の準備や心構えが必要です。 このような理由で、私は、投資信託が単純に「投資初心者向けの金融商品」と決めつけられないと思っているのです。
(2012年2月9日 読売新聞)
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