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登山ブームの落とし穴? 山岳遭難に備える保険


ファイナンシャル・プランナー 竹下さくら

 この冬も雪山遭難が相次いでいます。山ガールや中高年の登山ブームなど、登山を親しむ人の増加が背景にあります。

 遭難の原因は、準備不足や、気候を無視した無理な登山計画など、本人の認識の甘さによるところが多いと言われています。

 けれども、いざ遭難となったとき、大変なのは家族です。精神的にキツイだけでなく、数十万〜数百万円もの捜索費用を負担するケースもあります。

 今回は、そうしたリスクに備える保険について取り上げます。

遭難者の7割超が中高年

 警視庁の発表によると、平成22年中の山岳遭難の発生件数は1,942件(前年対比+266件)、遭難者数は2,396人(前年対比+311人)で、昭和36年以降で過去最高でした。

 このうち、1,270人は無事に救助されましたが、死者・行方不明者は294人、負傷者も832人に上りました。

 年代別でみると、40歳以上の人の割合は全遭難者の76%に及び、中でも55歳以上の遭難者が全遭難者の59.9%を占めました。

 なお、昨年(平成23年)の山岳遭難件数については、各都道府県ベースで発表されています。たとえば、岐阜県警によれば、県内で発生した山岳遭難の件数と遭難者数が、ともに統計を取り始めた1981年以来、過去最多に。 

 その遭難件数にして85件で、遭難者数は101人でした。そのうち、40歳以上の中高年が7割以上で、亡くなった9人のうち8人を占めています。

 また、遭難者の6割以上が「登山届」を出していませんでした。

 登山届には氏名や連絡先、行程や装備品などを記入することになっていて、これがあると遭難地点や緊急度を推測して円滑な救助に役立てることができます。けれども、実際は、ちゃんと事前の計画ができていない人ほど提出しておらず、救助も難航しやすいという傾向がうかがえます。

 自分が遭難した時に誰も気が付かなかったというのでは救助の可能性もゼロですので、迅速な捜索活動を行ってもらうためにも、登山届はとても重要と言えるでしょう。

捜索費用は数百万円単位にも

 さて、遭難という事態で気になるのが、遭難した場合の捜索費用ですね。たとえば、予定を過ぎても帰宅しないことを心配した家族から捜索願が出されると、まず、地元の警察や消防などが捜索に動き出します。この捜索は公的機関によるもののため、費用は税金でまかなわれるので、遭難者から見れば通常は無料の扱いです。

 ただ、2日間で100万円超の税金が使われることもあるため、雪山登山やスキーが人気の都道府県では、遭難者急増で、もはや税金で賄うのは限界というところも出てきています。

 今年の年初に起きたスキー場での遭難事故では、利用者が立ち入り禁止区域に入って道に迷ったことが原因でしたが、このときにかかった遭難救助費用は、条例によって、遭難者に請求されました。

 また、捜索となると、大量の人間や機材で一気に捜索しないと助かりません。警察だけでは人手が足りず十分な捜索ができないことも多いため、民間の山岳救助隊に捜索補助などを要請するケースは少なくありません。この部分は有料となるので、遭難者やその家族に費用の請求が行くことになります。

 民間の山岳救助隊の1人あたりの日当の相場は、夏山で3万円前後、冬山で5万〜10万円程度(危険度などによる)。少し高いと思うかもしれませんが、民間の救助隊員は普段は別の仕事をしていることが多く、捜索に参加するとその分収入が減ってしまうため、こうした相場になっています。また、危険な区域での捜索で命がけの活動となり、捜索中に二次遭難に巻き込まれてしまう可能性もあるため、危険手当が含まれています。
そして、日当の他に、食事代や用具の費用、交通費や宿泊代も請求されます。実際には15〜20人程度の編成で山に入ることが多いので、冬山では1日につき100万円単位で捜索費用がかかる計算です。

 さらに、よく報道ではヘリコプターが捜索活動で使われているのを目にしますね。自治体や警察など公的機関のものであれば無料ですが、それらが出払っている場合には民間のヘリコプターが要請されることになります。

 このときの費用は、1回のフライトで100万円程度はかかると言われています(時間や天候、場所などによって異なる)。つまり、1日の捜索で済まなければ、数百万円単位でお金が課金されていくことになるわけです。

山岳保険の受け取りには「登山届」が必要

 このように、登山者の遭難時に高額な捜索費用がご本人や家族に請求されても何とか対応できるように、保険を上手に活用したいところです。

 こうした遭難時の事故による捜索や救助の費用をカバーできる保険は、一般的には「山岳保険」と呼ばれています。山岳団体と損害保険会社・共済がタイアップしたり、特定の保険代理店専用に作った一般的なプランの契約にあたっては、それぞれの山岳団体・保険代理店等に申し込むことになります。また、近年登場した少額短期保険(ミニ保険会社)では直接申し込みができます。

 基本的な補償内容は、傷害保険(傷害総合保険や国内旅行傷害保険、海外旅行傷害保険など)に遭難捜索費用担保特約を組み合わせたものが一般的です。

 それぞれで補償内容や契約条件などが異なり、年間保険料も2,000円程度から数万円まで様々です。以下のようなものがあります(詳細はそれぞれにご確認ください)。

・日本費用補償少額短期保険「レスキュー費用保険(捜索・救助費用保険)」
・日本山岳救助機構合同会社「日本山岳救助機構会員制度(jRO:ジロー)」
・日本山岳協会山岳共済会「山岳遭難捜索保険」
・日本勤労者山岳連盟「新特別基金・賠償保険制度」
・モンベル「山岳保険(傷害総合保険)」「野外活動保険(傷害総合保険)」
・木村総合保険事務所「登山・ハイキング保険」「山岳登山の総合保険」「海外登山用の海外旅行保険」など
・有限会社セブンエー「山岳ガード(山岳登はん対応傷害保険)」
・アルピコ山岳クラブ「山岳保険」
・グラフィス「山岳保険」「ハイキング保険」
など

 なお、山岳保険の利用にあたっては、「登山届」をきちんと出しておくことが重要です。というのは、ベースになっている傷害保険は自殺の場合は保険金が支払われないしくみのため、登山届が出ていないと自殺のつもりで山に入った可能性を排除できないからです。

 つまり、自殺ではなくレジャーとしての登山であったということの証明として、登山届が使われているわけです。速やかな捜索救助活動をしてもらう上でも、また、保険をしっかり生かす上でも、登山届は重要ですね。
【私のつぶやき】
 登山のリスクで意外に多いのは、落石を人に当ててけがをさせる事態ではないでしょうか。どれだけベテランの人であっても避けることが難しい上に、重傷を負わせてしまったり、女性の顔にけがをさせてしまうケースでは、数百万〜数千万円もの賠償額になることもあり得ます。
 山岳保険に加入する際には、賠償責任の補償も付いているか、ぜひご確認を。特約などで付けられるはずなので、忘れずに付けておくことがおすすめです。

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プロフィール
竹下さくら  (たけした・さくら)
 1969年生まれ。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。「なごみFP事務所」を共同運営。損保・生保の本店業務部門を経て、独立系FPに。ライフプランをベースにしたコンサルティングのかたわら、講演・執筆活動を行う。
2012年1月26日  読売新聞)

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