サービス内容や料金体系がよくわからないまま、高い費用を支払うことになりかねないのが、ニッポンのお葬式。問題の一端は葬儀にまつわる古い慣行にありそうだが、ならば、風習にとらわれない「シンプルで安価な葬儀」を提供しようという外国人たちが、葬儀ビジネスに参入している。彼らの目に、日本の葬儀はどう映っているのか。
本誌 松浦一樹/撮影 明田和也
千葉県の自営業男性(50歳代)は、父親を亡くした16年前を思い出す。
病院でのことだった。父親が息を引き取ると、待っていた出入りの葬儀業者から、
「ご遺体を移動しなければなりません。知っている業者がいるなら、呼んでください」
と声をかけられた。心当たりがないので、その業者に遺体の搬送を頼んだ。
3時間後に搬送が終わると、今度もまた同じ業者に、
「葬儀店は決まりましたか」
と聞かれた。決まっていない旨を伝えると、
「先ほどの搬送費はサービスします。うちでやらせてください」
と擦り寄ってきた。自営業者は、準備をしていたわけでも、他の業者を知っているわけでもないので、声をかけてきた業者に任せてしまった。
しかし、これが後悔を生むことに。葬儀の手順は話し合ったが、言われるがままに動いているうちに、見積書を見ることなく式は進行してしまったのだ。
通夜・告別式は130人ぐらいの参列者だから1人当たり3000円としても、葬儀全体の費用は40万円ほどで収まってもおかしくないだろうと思っていた。しかし、実際に請求された金額は、その5倍強の220万円。お布施の150万円を加算すると、しめて370万円に上った。
「あんなにお金がかかるものとは、思ってもみませんでした。父が亡くなって、どうしたらいいのかよくわからないときに業者から声をかけられ、そのまま、ベルトコンベヤーに乗せられてしまった感じ。何にいくら払ったのかも、よくわからなかった」
身内の葬儀で、この男性と同じような体験をした人は、少なくないはずだ。
事実、公正取引委員会が今年7月に出した「葬儀サービスの取引実態に関する調査報告書」によれば、調査対象となった消費者の96%が「業者を選定する時間的余裕がなかった」と答えているうえ、36%が「見積書を交付されなかった」としているのだ。
格安の「生前予約」が大人気
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| 葬儀の生前予約の利点を顧客に説明するオールネイションズ・ソサエティのJ・キャム社長 |
そんな“商取引”の実態に、消費者の不満がうっ積していることを見抜いたのは、米国の葬儀社「オールネイションズ・ソサエティ」(東京都中央区)のジョン・キャム社長(34)だ。キャム社長は早稲田大学大学院で経営学を修めたが、研究テーマに選んだのが、「日本の葬儀業界」。それで、実態を入念に調べてみると、
「80年代半ばの米国と、驚くほど状況が似通っていた」
という。
米国では当時、業者側が不当に葬儀費用をつり上げているのではないか、といった不満が消費者の間で高まり、米連邦取引委員会(FTC)が業者側の「説明責任」を明確にするルールを導入。以後、消費者からのクレームが激減したという。
「日本でもサービス内容や料金をきちんと説明すれば、消費者に受け入れてもらえるはず」
そう思い、2003年11月、日本進出を果たした。
キャム社長が最初に考えたのは米国の「pre‐need」(生前予約制)を持ち込むこと。生前に自らの葬儀のやり方を決めておく方法で、米国では、1980年代に急速に広まった。確かに、この方法なら、残された家族は業者の言いなりにならなくてすむ。
現在、同社の主力商品となっているのは「セレモニーパック」(通夜・告別式セット)。1万円の会費を支払って生前予約すれば、85万円で斎場費や火葬費、霊柩車、骨壺、祭壇、写真の手配などがすべてカバーされ、葬儀の後で、追加料金が発生することはないという。
葬儀を1日で済ませたい場合は、35万円のコースもある。
日本で消費者が業者に支払う費用は、1件当たり平均140万円だから、かなりの低価格といえるが、キャム社長は、
「(従来の葬儀だと)骨壺が高額になった例もあるようですが、実のところ、原価は高くない。良心的にやれば、低価格でも可能なのです」
と強調する。そんな「良心」が消費者に伝わっているのか、これまでに2000件以上の生前予約があったという。
キャム社長の観察によれば、日本の一番の問題点は、
「葬儀業者が特定の花屋さんや仕出店、遺体運搬業者らと癒着し、カルテルのように葬儀の価格を決めていることだ」
という。業者の水面下での癒着や、消費者にはっきり見積もりを示さないなどの慣行が改められない限り、消費者の不満が解消されることはないだろう。
「故人らしさ葬儀」も続々
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| これが今時の葬儀社? スタッフと打ち合わせするサンクチュアリの直江文忠社長(右) |
消費者の不満は、価格にだけ向けられているわけではない。
8年前に母親、5年前に父親を亡くした都内の女性会社員(50歳代)は、こう言う。
「いずれも仏式の葬儀だったのですが、読経だけではどうも感動できなかった……」
ところが、友人のキリスト教会葬に参列してみると、
「とても簡素だったのですが、胸に来るものがありました。みんなで賛美歌を歌ったりして。自分のときも、こういう葬儀がいいなって思いました」。
しかも、この女性会社員は、親と同じ墓に入ることは望まず、海が好きだから、「東京湾で散骨してもらいたい」のだという。
最近、この女性のように、葬儀で「自分らしさ」を表現したい人たちが増えているようだ。
そんな消費者の動向に見合うような葬儀を開発しているのは、「サンクチュアリ」(東京都港区)の直江文忠社長(28)。同社長は、台湾出身だが、幼いころ、母親が日本人と再婚し、帰化した。やはり、ここでも、外国出身の知恵者が旧態依然の日本の葬儀に着目し、新しいビジネスを起こしている。
同社は、一昨年の創業。葬儀ビジネスに足を踏み入れたのは、日本の葬儀で「腹立たしい出来事」に直面した経験がきっかけだ。直江社長は話す。
「初恋の台湾人女性の葬儀だったのですが、彼女の遺影が傾いているのに、ご住職も業者も、それを直そうとしなかったんです。すごく失礼だと思った」
一方、台湾では儒教式が主流。
「まだまだ、故人を偲ぶという本質が失われていない。心のこもった葬儀が多いんです」
そこでサンクチュアリでは、低価格の「シンプル派プラン」(40万円から100万円までの4段階)を提供しているほか、やや高額だが、「故人らしさ」を演出する「こだわり派プラン」(100万円から200万円までの3段階)を主力商品にしている。
いろいろな自分らしい演出が可能だが、最近、人気なのが「音楽葬」。故人が好きだった音楽を式場に流す葬儀だ。また、葬儀を簡単に済ませ、後日「お別れ会」や「しのぶ会」を開くケースも増えている。
葬儀ビジネスに詳しい、第一生命経済研究所の小谷みどり主任研究員は、
「今後、ホテル、レストラン、生花店などの参入も進んで、日本の葬儀サービスは多様化していくと思います」。
伝統に守られてきた日本の葬儀にも、グローバリゼーションの波が押し寄せているようだ。