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読売ウイークリー

架空投資の「リッチランド」

佐伯会長の詐欺哲学

 「財宝を積んだ沈没船を引き揚げる」などといった架空の投資話で約500億円もの金を集めていた健康食品会社「リッチランド」(東京・北区)が、1月30日に詐欺容疑で摘発された。逮捕者は17人にのぼる。首謀者の佐伯万寿夫容疑者(61)はなんと、消費者金融の支店長を抱き込んで、被害者に投資資金を融資させていた。金の亡者たちの「ウソと欲」を取材した。

本誌 伊東謙治

 「リッチランド」といういかにも金が集まりそうな、この詐欺会社が、架空の投資話を次々に捏造し始めたのは、1999年秋ごろからだという。

 東欧の不動産事業などへの投資話のほか、財宝を積んだままインドネシア沖に沈没したとされるオランダ貿易船の引き揚げ事業などなど。スケールは大きいが、真偽を確かめにくい話ばかりだ。投資金額は1口50万〜300万円と、庶民でも出せそうな“絶妙な”額に設定してある。

 同社のシステムは、出資済みの投資家に紹介料を支払い、新規の出資者を勧誘させていく、まさに「マルチ商法」そのものの手口で、全国の実に約1万3000人もの人々から500億円も集めた。

 同社が集めた金のうち約100億円は、欧州の銀行の複数の個人口座に送金されていたが、前述の壮大な事業に投資された形跡はほとんどなかった。それどころか、新たな出資者から資金を集めては、別の出資者への配当に回す自転車操業を繰り返していたのだ。残る約400億円の大半も、この配当資金に充てられたらしい。

(上)リッチランドの入会登録申請書
(右)逮捕され警視庁に入る佐伯容疑者(中央。清水敏明 撮影)
(左)説明会で話す佐伯容疑者(01年3月、静岡県焼津市で)

消費者金融を巻き込み

 今回の事件直後、主犯格でリッチランド会長の佐伯容疑者と交渉した経験がある人物に会うことができた。

 その男性によると、2000年暮れ、都心のホテルに現れた佐伯容疑者は自信満々の様子で、

 「私に任せてくれれば、資金が倍になるんですよ」

 と話し始めた。

 「上品な容姿で笑みを絶やさず、腰も低い上場企業の重役といった感じ。たしかに、人を信用させる雰囲気があった」

 と男性は振り返る。それだけに、逮捕後、テレビに映ったふてぶてしい表情や報道陣に暴言を吐く姿は、

 「顔は同じだけど雰囲気が全然違う。とても同じ人とは思えなかった」

 と驚いたという。

 さて、佐伯容疑者がこの男性との交渉に臨んだ理由は、男性の知り合いである大手消費者金融会社のトップを紹介してほしいと思っていたからだった。リッチランドの事業に興味を持っている人の中に、投資する金が足りない人がいる。そういう人に金を貸してあげてほしいというのだ。佐伯容疑者は、

 「私がやっている事業は絶対に儲かる。それに出資する人たちだから返済は問題ない。消費者金融の利益にもなる。保証は私がする」

 という“三段論法”で男性を説得しようとしたという。

 結局、この男性は、事業内容にうさん臭さを感じて、消費者金融会社トップに紹介をしなかった。ところが、佐伯容疑者は、どこでつてを作ったのかその後、リッチランドの説明会で同じ消費者金融会社の申込用紙を配ったり、出資希望者をマイクロバスに乗せて消費者金融の支店に運んだりしていたという。佐伯容疑者は説明会に集まった人たちに、

 「今回、リッチランドの事業を見込んで(消費者金融会社が)特別な計らいをしてくれた」

 と、話していた。もちろん、これはウソで、佐伯容疑者はその後、この男性に、

 「(消費者金融の)支店長をソープ漬けにしたんですよ」

 と打ち明けたという。

 今回の事件の1万3000人にものぼる出資者の中には、収入がない女性や高齢者などが大勢含まれていたが、佐伯容疑者に抱き込まれた消費者金融会社の支店で金を借りて、出資したケースも多かった。

出資者には“セミプロ”も

 前出の男性は、佐伯容疑者に招待されて、01年3月に静岡県焼津市のホテルで行われたリッチランドグループの一つの「E&C」社の説明会をのぞいたことがあるという。

 健康食品販売事業の説明会。見本の健康食品は、商品名すら印刷されていない粗末なチューブに入っており、商品の素晴らしさを説明する壇上の識者は、それぞれ「認定産業医」や「美容研究家」という肩書を持っていたが、どこか怪しげな雰囲気が漂っていた。

 そうしたインチキ臭い集まりだったが、用意された数百席はすぐに埋まり、立ち見も出る人気ぶりだった。その理由を佐伯容疑者に尋ねると、「新規事業発表会」というチラシや手紙を出すだけで多くの人が集まるのだという。「新規事業発表」という文言で、わかる人にはマルチ商法の説明会だとピンとくる。マルチ商法と聞くと大勢の被害者を連想するが、マルチシステムのピラミッドの上のほうにいれば、その下の加入者から配当が集まってくるので、かえって儲けのチャンスと感じる“セミプロ”もいるのだ。

 説明会の後にはパーティーがつきもので、なぜか北海道や沖縄から来た人もいて、それぞれが顔見知りだというケースも多かったという。前出の男性は、こう振り返る。

 「いくつものマルチ商法を渡り歩いてきている人たちでした。こうした連中の中には事業内容なんてどうでもよくて、マルチ商法の特性で、早めに参加すれば大儲けができるチャンスがある、ということだけを考えている人もいました」

 こうした常連は特に、一千万円以上という資金を出資している人に多かったという。だが、今回の事件では、リッチランドから多額の紹介料をもらい、新規の出資者集めに協力した出資者も逮捕された。

 捜査当局は、04年に摘発した健康食品事業をめぐるマルチ商法「グランドキャピタル」事件以降、社員だけでなく出資者も悪質な場合は逮捕するようになっている。かつては悪質なマルチ商法が事件になった場合、出資者は一律に被害者だったが、流れは変わってきているのだ。

参加者集めの必需品

 さてマルチ商法では、どのように参加者を大勢集めるかが勝負だが、こうした業者の必需品がある。高配当をうたった資金集めで02年11月に警視庁に摘発された「全国八葉物流」事件の顧客名簿だ。この事件の出資者約4万人の名前、住所、携帯電話番号、口座番号などが入ったCDが、一時は数百万円で取引された。マルチ商法などの業者が購入したと言われる。

 前出男性も、これを入手して佐伯容疑者に譲ろうとしたが、

 「もう持っているよ」

 と笑われたという。

 今回の事件では、佐伯容疑者とともに、リッチランド相談役の深山正規容疑者(62)も大きな役割を果たした。一連の架空投資のノウハウの指導役とされ、97年に摘発された「和牛預託商法」事件の主犯格で有罪判決を受けている。佐伯容疑者と違い、少しヤクザっぽい雰囲気という。出資者から「違法なのではないか」などという質問があると、

 「うちの兄貴が神奈川県警の本部長をしているので、守ってくれます」

 と話していた。たしかに、深山という名前の本部長はいたが、もちろん深山容疑者とは何の関係もない。

 こうしたあきれた連中のせいで泣くのは、いつも一般出資者だ。老後の生活資金を失ったり、前述したように高利の借金で出資金をまかなった人も多いという。

 被害者弁護団は、摘発を受けて浜松市内で記者会見し、「逮捕まであまりに長すぎた」と話した。佐伯容疑者の妻は、05年ごろまでに総額約1億2000万円の配当を受けるなど、同社幹部の周辺者は多額の配当や紹介料を受け取っていた。果たして、どれほど回収できるのだろうか。

 逮捕されなかったメンバーの中には、すでに別のマルチ商法を立ち上げて説明会を繰り返している人もいる――。