次期米大統領は、民主党のバラク・オバマ(46)、ヒラリー・クリントン(60)、共和党のジョン・マケイン(71)の各上院議員3人に絞られてきた。そこで3人の対日政策をみた。次期政権で日米関係はどうなるのか。
本誌 大屋敷英樹/撮影 清水健司
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| 米大統領「スーパーチューズデー」で、選挙結果に喜ぶオバマ上院議員の支持者(2月5日、米イリノイ州シカゴで。清水健司 撮影) |
まず、2月5日の「スーパーチューズデー」後、各州の予備選・党員集会で9連勝中と、勢いに乗るオバマ候補である。
上院議員になって3年というオバマ候補の外交政策を予測・分析するためには、「誰が政策ブレーンを務めているかが重要な手がかり」(日米外交筋)となる。オバマ候補に限らないが、米国では新政権発足に伴って中央官庁人事も総入れ替えとなり、ブレーンから閣僚はもちろん、中央官庁幹部に任命されることも多いからだ。
知日派がそろうオバマ陣営
オバマ陣営が擁する外交ブレーンは専門家ら約200人というが、顔ぶれは意外に知日派が多い。クリントン前政権(1993〜2001)で国防総省日本担当部長、国防長官特別補佐官を歴任したミッチェル氏や、オバマ候補の対アジア、対日政策立案に関与したシファー氏ら若手実力者がそろっている。オァー前ボーイング・ジャパン社長は東京大学で政治学博士号を取得し、滞日経験は計22年に及ぶ。妻も日本人という親日家だ。
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| オバマ上院議員(清水健司 撮影) |
大統領選主要候補の選対本部・政策アドバイザー人名録を作成した久保文明・東大教授は、
「安倍、福田首相の訪米時、オバマ氏は一早く歓迎声明を出しました。対アジア政策における日本の重要性はよく認識しているようです」
と指摘する。
例えば、安倍首相(当時)が訪米した07年4月、オバマ候補が上院本会議で行った発言では、日本を「米国の最も緊密な同盟国の一つ」と位置づけ、北朝鮮の核開発やミサイル計画の脅威に協調して対処し、対テロ戦争やアフガニスタン支援、平和維持活動、環境問題での貢献を評価している。
その一方で、日本への要望として、「日本経済にはまだ輸入や外国直接投資に対して閉鎖的分野がある」と強調し、規制撤廃を求めたほか、(従軍慰安婦問題など)過去の歴史と真摯に向き合うよう求めている。
オバマ候補自身もアジア地域に深い関心を抱いているようだ。日系人の多いハワイで生まれ、6歳から10歳まで母親の再婚相手であるインドネシア人男性の地元、ジャカルタで暮らした。
自著「合衆国再生」でもインドネシアでの政変や人権抑圧、汚職、貧困に強烈な印象を受けた様子を記している。その後、再びハワイに戻り、大学進学までを過ごしており、高校時代の初恋の相手が日系人だったとの報道もあった。ただし、訪日歴は少なくともオバマ候補が97年にイリノイ州上院議員に就いて以降確認されていない。
日本に関心ないヒラリー
それに引き換え、ヒラリー候補があまり日本に関心を持っていないのは多くの関係者が指摘している。ファーストレディー、アーカンソー州知事夫人時代に計4回の訪日歴があるが、日本には親しい政財界要人もいない。
外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に昨秋寄せた論文でも、日本に言及したのは2か所だけ。「日中両国と協力し、地球温暖化対策に取り組む」「豪州、インド、日本、米国はテロとの戦いで協調する」と述べているが、前者は「米中関係は最重要の2国関係」、後者は「インドは特別な重要性を持つ」と前置きしたうえでの関連記述の中に登場するだけだ。
ヒラリー候補のアジア政策の中で、日本は完全な脇役。同盟国でもない中印の後塵を拝した格好だ。
この「日本軽視」ぶりが日本側の不評を買ったため、ヒラリー候補の外交顧問を務めるホルブルック元国連大使は今年1月、同候補の声明を発表し、「日米同盟は米国のアジア・太平洋地域の基礎」と強調してみせた。「ホルブルック氏は、日本の反応を随分気にして釈明に汗をかいた」(関係者)ようだ。
ヒラリー政権誕生なら、そのホルブルック氏が国務長官に就任する可能性が高いという。同氏について、越智道雄・明治大学名誉教授は、こう解説する。
「クリントン政権下の1995年、国務次官補としてボスニア問題でデイトン和平合意に導き、外交手腕は高く評価されている。正真正銘、本物の外交官。アジアより欧州重視のイメージが強いが、カーター政権でも東アジア担当の国務次官補として日米関係に関与している」
このほか、ヒラリー候補の政策アドバイザーには、オルブライト元国務長官、ペリー元国防長官、ルービン、サマーズの歴代財務長官などクリントン政権の大物閣僚が並ぶ。もちろん極め付きは、夫のビル前大統領だ。
日米貿易摩擦の際、「ジャパン・バッシング」(日本たたき)で鳴らしたゲッパート元下院民主党院内総務もいる。前出の久保教授は、「古い世代の超ヘビー級アドバイザーがそろっている。新鮮味には欠けるが、政策も予測しやすく、安定感がある点は強みになる」と評する。
クリントン時代には、日本に規制緩和、市場開放などを強硬に求めるバッシングを行う一方、外交面では日本を素通りして高度成長を続ける中国に傾斜して「ジャパン・パッシング」(日本軽視)と呼ばれた。そんな”悪夢”を思い出させる顔ぶれでもある。
しかし、元外務審議官の田中均・東大客員教授は、「中国の軍備増強、環境、エネルギー、食品安全のどれを取っても米中の2国間で解決できる時代ではない。日米中が中心となって東アジア全体で取り組むべき課題。日本が主体的に関与していけば、ジャパン・パッシングなど起きない」との見方だ。
日米関係重視のマケイン
共和党のマケイン候補はどうか。「米外交の大きな潮流で、共和党はアジア重視、民主党は欧州重視」(越智教授)と言われるが、3人のうち、日米同盟を一番重視しているのが、安全保障や国防政策のエキスパートであるマケイン候補だ。
マケイン候補のブレーンには、ブッシュ政権下で対日政策を取り仕切ったアーミテージ元国務副長官、故・椎名素夫衆院議員秘書を務め、日本語に堪能で日本政界とのパイプも太いグリーン元国家安全保障会議アジア上級部長、07年に日米同盟強化の提言作成に関与したシュライバー元国務次官補代理ら知日派がそろう手厚い陣容だ。
キッシンジャー、ヘイグ、シュルツ、イーグルバーガーといった4人の歴代国務長官もついている。
ただ、知日派だからといって、日本に甘い顔をするとは限らない。マケイン候補は日本を標的とした貿易関連法案に反対する一方で、日本の軍政ミャンマー支援を批判したこともある。91年の湾岸戦争時は、「関係国は応分の負担をすべきだ」と日本に厳しい姿勢を示した。
アーミテージ元国務副長官も、真偽不明ながら、米同時テロ後、日本側に「ショー・ザ・フラッグ(日の丸を見せよ)」と対米支援を迫ったと一時話題になった。マケイン政権になれば、日米同盟や対テロ戦争で一層の貢献を要求してくる可能性もある。
だが、足立正彦・住友商事総合研究所シニアアナリストは、
「ベトナム戦争の英雄であるマケイン候補は対アジア政策に関心が強く、上院軍事委員会にも所属しています。同候補のブレーンは沖縄のデリケートな県民感情も知り抜いており、日米関係は双方向で構築すべきだと考えています。経済外交でも自由貿易を重視しているので、高圧的な対日姿勢は取らないでしょう」
と話す。
空洞化進む日米同盟
ところで、現在の日米関係はどうか。特に日米安保体制を中核とする日米同盟は「一貫して日本外交の要」(外務省)のはずだが、
「新政権の発足に先駆けて、日米同盟の空洞化が進んでいる」
と指摘するのは、外交ジャーナリストの手嶋龍一氏だ。
「ゼーリック前国務副長官は、就任直後に次官級の日米の戦略対話を取りやめてしまった。その結果、日米は共通の対中戦略を協議する場もない。また日本の国連安保理常任理事国入りについても、ブッシュ政権は口先では支持を表明しながら、ついに具体案を示さず実質的に葬り去った。日米同盟が機能していれば、あり得ない事態だ」
そのゼーリック氏は現在、マケイン陣営の国際経済・通商政策に関する非公式顧問という。
米国は北朝鮮に対しても、拉致問題が解決していないのにテロ支援国指定解除に踏み切ろうとして日本側の反発を招いた。3候補の対北朝鮮政策も気がかりだが、滝田賢治・中央大学教授は、「北朝鮮は既に核を保有しているので、3候補とも外交交渉を主軸に据えており、腰が引けている」とみる。
昨秋実施の読売新聞社と米ギャラップ社の「日米共同世論調査」によると、現在の日米関係を良いと思う人は日本で計39%、米国で計46%。00年以降で最低の数値となり、両国の国民感情悪化を示している。米軍の普天間基地移設問題は進まず、今年に入って沖縄県での米海兵隊員による女子中学生暴行事件が起こり、地元住民の反基地感情を一層高めた。
日米間に小泉・ブッシュの蜜月時代の雰囲気はもう残っていない。3人のうち誰になっても、日米関係は再構築を迫られそうだ。