恋愛はちょっと重い
会社の隣の席でぼんやりメールチェックをする女の子だって、心ときめく恋を夢見ているかもしれない。「どちらかというと聞き役で、タイミングが悪い」会社員の小百合が、高校時代のあこがれの先輩との恋愛に踏み出してゆく物語は、そんな空想を読者に抱かせ、温かな余韻を残す。
昨年のクリスマスイブに、ラジオドラマとして放送された。「イブの夜に番組を聞いているような人の顔を思い浮かべながら書いた」と話す。
2002年の「パーク・ライフ」で芥川賞を受賞したこの作家が、恋愛小説に挑んだのは、東京・品川の港湾労働者と台場で働くOLの2人が登場し、フジテレビ系でドラマ化された「東京湾景」に続き2度目だ。「ずぶとくなったのか(恋愛を書くことに)照れがなくなってきた」と語る。
一方で、「今回の話をどこを舞台にして書こうかと思ったとき、場所がなかなか浮かんで来なかった」とも打ち明ける。考えているうちに現在の生活にどこか満足できない主人公の性格が先に固まり、自分が住む街をポルトガルの首都、リスボンと重ね合わせて暮らす設定にたどり着いた。
ジェロニモス修道院前、ガレット通り、ドン・ペドロ4世広場……。心の中で小百合が話す地名から浮かぶ地中海の街と、文中に描かれる海に面した地方都市のイメージが重なり合う。現実と幻想、甘さとせつなさが入り交じった空間に、「パーク・ライフ」や「東京湾景」では生まれなかった密(ひそ)やかな情熱を内に籠(こ)もらせた恋が芽生えた。
物語の後半で、小百合は「あなたって、自分は何色だと思います?」と尋ねられる場面がある。この作家にとって、恋愛は何色に見えるか聞いた。
「こんな色ですね、なんか」。あごひげを触りながら照れ気味に指さしたのは本のカバー。雨が降る夕暮れのくすんだ空の青色だった。「恋愛という言葉は重い。ちょっと寒い。邪魔くさくもある……」
若い女性をうっとりさせそうな恋物語は、恋愛をどこかで突き放して見る目を持っているからこそ紡ぎ出されたのだろうか。(新潮社、1300円)(待)
(2005年1月11日 読売新聞)
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