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ご存じ世界最古のラブロマンスにして日本文学の最高峰。美貌(びぼう)と知性、富と権力、すべてを兼ね備えた理想のヒーロー光源氏に、1000年の時を超えファンレターが集まりました。「難解だ」とお嘆きの皆様もご安心を。読みやすく工夫された名訳、漫画版の情報が多数、寄せられました。 現代語訳では、原文の一語一語に即してなお流麗な『潤一郎訳 源氏物語』(中公文庫)。紫式部その人が語りかけてくるような与謝野晶子『全訳 源氏物語』(角川文庫)。いずれも言論統制された戦時中に、作家が黙々と手がけた名訳です。富山県大門町の元教諭、田辺節夫さん(76)は「谷崎の新訳が出版されたのは1951年5月。戦争が終わったという実感をかみしめました」と。 戦後の読者を魅了してきた『円地文子の源氏物語』(集英社文庫)、田辺聖子訳『新源氏物語』(新潮文庫)、瀬戸内寂聴訳(講談社)。いずれも平明、優美な口語体が読者を王朝絵巻の世界にいざないます。新潟県豊栄市の主婦、鈴木妙子さん(35)のお薦めは橋本治著『窯変(ようへん)源氏物語』(中公文庫)。「光源氏の一人称で語られ、心情がリアルに迫ってくる」のだとか。 解釈次第でさわやかな貴公子然として見えたり、女々しい男に思えたり、計算高い政治家だったり。様々な表情を見せる光源氏、その一筋縄でいかないナゾの深さが読者を刺激します。恋の苦悩を懸命に昇華し生きようとする女君たちは、西洋近代小説の女性像にも通底する気がしませんか? 漫画なら、延べ1700万部超のベストセラー、大和和紀著『あさきゆめみし』(講談社)を受験勉強に役立てた人は多いはず。福岡市西区の主婦、塚本昌代さん(36)は「私が中学時代に読んだ漫画に今、中学生の娘が熱中しています」。オールカラーで五十四帖(じょう)のあらましが1冊でわかる小泉吉宏著『まろ、ん? 大掴(おおづかみ)源氏物語』(幻冬舎)や、解釈は過激ですが写本の字体そのままの原文と現代語訳、漫画が同時進行する江川達也版『源氏物語』(集英社)の試みも一見の価値あり。 読む側の人生経験に即して心に響く。愛読者はそう口をそろえます。光源氏が栄華の絶頂にある「『藤裏葉(ふじのうらは)』巻が好き」と言うのは京都市上京区の大学生、伊藤侑希さん(18)。年齢を重ねると、源氏晩年の愛別離苦を凝視する『御法(みのり)』『幻』巻や、愛に迷う源氏の孫、子世代を描く『宇治十帖』が、より味わい深くなるかもしれませんね。 大阪府八尾市の主婦、辰巳由紀子さん(38)は、高校時代は退屈だった『若紫』巻が、母親となって「少女の髪が揺れるさま、雀(すずめ)の子が逃げてべそをかく描写のすがすがしさに心打たれた」そうです。 王朝の雅(みやび)に心奪われた読者も多いはず。東京都品川区の家事手伝い菊池八千代さん(34)は、近藤富枝著『服装から見た源氏物語』(朝日文庫、品切れ)などを併読、「姫君たちの個性に合わせた装束の色目の面白さに目覚めました」。 徳島県石井町の会社員福島尚美さん(30)は、各帖をイメージした花々を色墨で描いた曽祖父の画帳に触発されて読み始めたと言います。なるほど、後世の文学にとどまらず美術、風俗、さらには本居宣長が〈もののあはれ〉と言った日本人の情緒、感性に『源氏物語』が及ぼした影響は計りしれません。教養として、家庭生活に浸透していた様子がうかがえます。 四世代に及ぶ“大河ドラマ”だけに人間関係を把握するだけで大変。でも、その奥深さと言ったら……。投書を下さった方々と、電話で夢中で話し込んでしまいました。ご協力に感謝します。(西田 朋子) ◆大和 和紀 原作の魔力にひきずられ 『あさきゆめみし』は完結まで15年、自分でも珍しいほどエネルギーを注いだ作品です。原作の魔力にひきずられた気がします。 十代で『源氏物語』に出合い、読むたびに「これほどの物語が1000年前に描かれたなんて奇跡だ」と圧倒される思いだった。なのに感動を分かち合える友人がいない。「だれも読まなくなる前に漫画化できないか」と思うようになりました。 漫画の場合、表情によってセリフの意味がまるで変わります。だから円地文子さん、田辺聖子さんらの名訳を頼りに、原典にもぐり込むような気持ちで読み込みました。また装束の文様から有職故実(ゆうそくこじつ)まで、外国人にもわかるくらい正確に描こうと思った。絵巻物や文献を調べ、専門家にお聞きして、凝りに凝ったんです。 この女君はどんな顔? 好きな花は? 食べ物は? 色は? と想像を巡らせていると、現代女性と変わらないな、と思う方が多かったですね。連載後に私の人生観が変化したのか、源氏が晩年、女三(おんなさん)の宮に裏切られて足元が崩れるようなショックを受ける『若菜 上・下』巻などは、今思うと面白かった。 日本が誇る古典でありながら、学究対象になりかけていた『源氏』の1000年の命を、再び一般読者のものとして50年くらい延ばせたとしたら、もう最高の気持ちです。少女漫画風の甘めの源氏ですが、私の作品を読み「大学で古典を専攻しました」などの声を耳にするたびに、ちょっぴり誇らしい気持ちになるのです。(談) (2004年11月2日 読売新聞 無断転載禁止) |
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