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ついに実現しました! 今週は、村上春樹さんの登場です。デビューして四半世紀余、話題作を発表し続ける人気作家の世界に魅せられて、熱い投書が寄せられました。 写真の拡大
![]() 村上春樹さん
やはり、というべきか、恋愛小説の傑作にして大ベストセラー『ノルウェイの森』(講談社文庫)が最多票を集めました。 評判になり過ぎて当初は敬遠していたという岡山市の谷岡豊子さん(65)が読んだのは50歳のころ。「いま生きている世界というものに、性急に、ある時は緩やかに目覚めさせてくれる、すごいオーラと新しさを感じ、10歳は若返りました」。以来、ファンになった谷岡さんは、例えば『海辺のカフカ』(新潮文庫)の魅力を「奇想天外なことでも、読んで自然に受け入れられる物語的表現がスゴイ」といいます。 迷った末に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(同)を挙げたのは茨城県石下町の片野光子さん(41)。パラレルワールドが交互に繰り返される魅力満載の作品。「新作に心が充電され、電池が切れそうになるころ、ちゃんと新刊を出してくれる。村上春樹は私の神様です」 初期3部作を締めくくる『羊をめぐる冒険』(講談社文庫)も人気です。20年前、東京の運送会社で働いていた茨城県岩間町の伊藤靖則さん(44)は、「残業なんて当たり前、日付が変わる前にタイムカードを押せればラッキー」というハードな日々に、夢中になったそうです。「宿舎に帰り、眠気が限界に達するまで、これを読むためだけに生きていました。あれほど1冊の本に引き込まれ、生活のすべてを支えられた経験は、後にも先にもありません」 このほか、デビュー作『風の歌を聴け』(同)、『スプートニクの恋人』(同)、近刊『アフターダーク』(講談社)を推す声も。『ねじまき鳥クロニクル』(新潮文庫)は、これを読まずして春樹は語れない重要な作品です。 短編集では、最近「トニー滝谷」が映画化されたこともあってか『レキシントンの幽霊』(文春文庫)が人気。この中の「沈黙」を推すのは神奈川県相模原市の千田輝美子さん(35)。「高校時代に孤独だった記憶と重ねて読み、印象に残りました」。このほか『中国行きのスロウ・ボート』(中公文庫)など、記憶に残る短編が目白押しです。 佐々木マキさんの絵も楽しい『羊男のクリスマス』(講談社文庫)には、岡山県早島町の中学生、清水万稚さん(13)からはがきが。「不思議な話だけれど、とってもかわいくて大好きです。読むたびにシナモンドーナツが食べたくなります」 村上さんにとって一つの転機となったのが、10年前の地下鉄サリン事件。被害者の方々へのインタビュー集『アンダーグラウンド』(講談社文庫)は、いまこそ再読したい1冊です。福岡県春日市の大学生、福田詩織さん(21)は「この事件を書いたほかの著作と全く違う視点、村上春樹だから聞き出せたのでは、という被害者の方の心情があります」 紀行エッセー『遠い太鼓』(講談社文庫)を薦めるのは京都市伏見区の山田正樹さん(27)。「村上春樹ってどんな人か知りたかったんですが、生活の空気がとてもよく伝わってきます」 『村上朝日堂』(新潮文庫)、『村上ラヂオ』(同)など、エッセーの魅力を「気の置けない男友達と話しているような楽しさ」と表現する群馬県大泉町の原真美さん(39)は、「日常的なクスリとした笑い。豆腐もスパゲティもビールも猫も、近しいものになってしまいます」。 記者お薦めは『村上朝日堂 はいほー!』(同)収録のエッセー「青春と呼ばれる心的状況の終わりについて」。テーマは「喪失」とだけ言っておきます。ぜひご一読を。(山内 則史記者) 村上春樹 温かみ醸し出す小説をずいぶん昔のことになるけれど、20代初め、結婚したばかりの頃、本当にお金がなくて(というか事情があって借金をたくさん抱えていて)、1台のストーブを買うこともできなかった。その冬はすきま風の吹き込む、東京近郊のとても寒い一軒家に住んでいた。朝になったら、台所に氷がばりばり張りまくっているような家だった。僕らは猫を2匹飼っていたので、眠るときには人間と猫と、みんなでしっかりと抱き合って暖をとった。当時なぜかうちは、近所の猫たちのコミュニティー・センターみたいなものになっていて、いつも不特定多数のビジター猫がごろごろいたから、そういう連中をも抱き込んで、人間2人と、猫4、5匹で絡み合うようにして寝ることもあった。生きていくにはきつい日々だったけれど、そのときに人間と猫たちが懸命に醸し出した独特の温かみは、今でもよく思い出せる。 そういう小説を書くことができたらな、と僕はときどき考える。真っ暗で、外では木枯らしが鋭いうなり声を上げている夜に、みんなで体温を分かち合うような小説。どこまでが人間で、どこまでが動物か、わからなくなってしまうような小説。どこまでが自分の温かみで、どこからがほかの誰かの温かみなのか、区別できなくなってしまうような小説。どこまでが自分の夢で、どこからがほかの誰かの夢なのか、境目が失われてしまうような小説。そういう小説が、僕にとっての「良き小説」の絶対的な基準になっているような気がする。極端なことを言えば、それ以外の基準は、僕にとってはとくに意味を持たないかもしれない。 むらかみ・はるき 1949年、京都府生まれ。79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。『羊をめぐる冒険』で野間文芸新人賞、『ねじまき鳥クロニクル』で読売文学賞。『レイモンド・カーヴァー全集』など訳書も多数。近年、海外での評価が高まっており、英語訳『海辺のカフカ』も好評。 (2005年3月29日 読売新聞) |
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