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「幻」と「現」の境界線で遊ぶ魔法使いに憧(あこが)れない子供はいない。エキゾチックな呪文(じゅもん)。精霊たちを呼び出す魔法の杖(つえ)。魔神たちから身を守る防御の円。 童話や漫画に登場する魔法使いに憧れ、その力を自分のものにできたら、と子供は願う。そしてもしかしたら自分にも魔法の力が眠っているのではと想像し、魔法使いごっこに興じるのである。 けれど、フロイトのいう「現実原則」に目覚めた子供は、やがてその魔法の夢から覚めてゆく。大人へのステップを踏み出してゆく。 しかし、世の中にはそんな魔法の夢から覚めずに年齢を重ねてしまう、奇妙な少数派も確かにいるのだ。かくいう、ぼくもその一人である。 魔法に憧れたぼくは、10代半ばになってもその夢から抜け出すことができず、神秘学やら魔術やらといった黒い輝きに満ちた書物におぼれてゆく。挙句(あげく)の果てに、イギリスにまで出かけて、魔法使いのグループに入門するようにまでなった。 そこで、魔法を使えるようになったか。 うーん、むずかしい。箒(ほうき)で空を飛ぶことはおろか、念力でスプーンを曲げることさえできない。 ただ、星のシンボルやイメージを人間の言葉に翻訳する占星術やら、その関係の書き物で日々の糧を得ることができるようになったのだから、まあ、幼いころの夢はかなったといえるのかもしれない。 いや、いや、もっと強気でいおう。ぼくは魔法の力に確かにふれている。知っている。それは人間の想像力という不思議なエネルギーのことだ。それは、ぼくたちが普通に考えているような、フワフワしたヤワなものではない。 たとえば貨幣という強力な呪物(フェティッシュ)は、それを生み出したはずの人間をかくも翻弄(ほんろう)しているではないか。 本書店には、魔法やスピリットへの想(おも)いという、いわゆる「幻」こそが、一見、堅固とした「現実」を生み出しているということを知らしめ、そしてその境界線で上手に遊ぶための書物をそろえてある。 さあ、お立ち会い。ここに幻と現(うつつ)の交差点をみなさんにご覧にいれましょう。 かがみ・りゅうじ 1968年、京都府生まれ。心理占星術研究家、翻訳家。平安女学院大学客員教授。国際基督教大学大学院修士課程修了。英国占星術協会会員。著書に『オルフェウスの卵』、訳書に『魂のコード』など。 店主の一冊 ●『黒魔術の手帖』(澁澤龍彦著、河出文庫、600円)魔法世界の大先達、澁澤龍彦による魔法伝説の紹介。黒い輝きに満ちた、幻想世界に触れることができる名文。 ●『黄金と生命』(鶴岡真弓著、講談社、2800円)人類の憧(あこが)れ、「黄金」をめぐる壮大な博物誌。黄金をめぐる魔法がユーラシアを駆け巡り、現代人をも動かしていると明かす。 ●『王と最後の魔術師』(エレン・カシュナー、デリア・シャーマン著、ハヤカワ文庫、上下各780円)魔法世界と理性の時代の境界を舞台にしたファンタジー小説。井辻朱美訳。 ●『UFOとポストモダン』(木原善彦著、平凡社新書、720円)20世紀が生みだした最大の「幻想」であるUFO神話が、社会をそのまま映す鏡であることを鮮やかに示す。 ●『心霊写真』(ジョン・ハーヴェイ著、青土社、2400円)心霊写真をイコンとして解読しようとする大胆な試み。心霊写真こそ、先端的なアートだったと納得。松田和也訳。 ※丸善丸の内本店(JR東京駅前)の2階で、近日中に鏡リュウジさんの「空想書店」コーナーが登場します。 (2009年6月16日 読売新聞) |
書店員さんがあらゆるジャンルのお薦めの本を紹介する読書日記。
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