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『マイナス50℃の世界』 米原万里著

 ロシア語通訳として活躍していた米原万里さん(1950〜2006)は1984年から85年にかけて、冬になるとマイナス50℃まで下がる極寒のシベリアに旅した。

 その体験を記した処女作が初めて文庫化された。

 オドロキの連続である。飛行機のタラップを下りて1分ほどすると、人々のまつげもまゆ毛も真っ白になる。吐く息が凍り、毛の一本一本に氷が張り付いてしまうからだ。目の水分も氷の膜におおわれ、まばたきするのも力まねばできない。

 見ること聞くこと、日本の常識外。それを好奇心いっぱいに見つめ、明快に紹介する。永久凍土の上にある大地は、冬の凍結と夏のゆるみを繰り返すため、木造の建物は傾き、50年とはもたない。そんな事実まで、最後までたまげる話のてんこ盛りだった。

 帯に〈こんな毎日、想像できる?〉とある。もちろん想像できなかったが、極寒の地で衣食住に工夫を凝らすヤクート人の暮らしの楽しそうなことといったらない。人間の(たくま)しさも伝える卓抜な紀行だ。(角川ソフィア文庫、476円)(飼)

2012年2月15日  読売新聞)

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