現在位置は です

本文です
第24回日本ファンタジーノベル大賞作品募集 第18回大賞受賞、仁木英之さんに聞く
写真の拡大 写真
作家の仁木英之さん。東京都千代田区の文芸春秋で。2011年10月6日撮影

真心のウソ 読みたい

 文学に新風を吹き込んできた日本ファンタジーノベル大賞(読売新聞東京本社、清水建設主催、新潮社後援)の第24回の作品募集がスタートした。鈴木光司、畠中恵、森見登美彦の各氏ら多くの人気作家を生みだしてきた伝統の賞。近年の受賞者から、中国歴史もので人気の第18回大賞、仁木英之さん(38)を中心に活躍を紹介するとともに、初回から選考委員を務める荒俣宏さん(64)に賞の歴史を聞いた。(聞き手・佐藤憲一)

 デビューから無我夢中の5年間でしたね」。2006年、中国・唐代のニート青年が美少女仙人と天地を旅する『僕僕先生』(新潮文庫)で大賞を受賞した仁木さん。同作はシリーズ化され現在5作、文庫を含めて累計40万部近いヒットとなるなど人気はうなぎ登りだ。

 「『僕僕』のシリーズは2作目の原稿がなかなかOKがもらえず、やめようかと思ったことも。ようやく原稿が通ったときに、専業作家になることを決めました。あの苦労のお陰でここまで続けてこられた」。発表した作品は16に及ぶ。

 信州大で中国文学を専攻、北京への留学経験もあるなど、中国文化に精通しているのが強み。近作の『海遊記』(文芸春秋)では、唐から天竺(てんじく)へ取経の旅をした義浄に光を当てた。「海路をたどり『西遊記』で有名な三蔵法師に負けないくらいの冒険をした義浄の旅の面白さを紹介したかった」。東南アジアの海賊たちとの戦いや不思議な事件が、幻想のロマンに誘う。

 史実と虚構のあわいから軽妙な空想譚(たん)を紡ぎ出す秘訣(ひけつ)を「息を吐くようにウソをつく」と解く。「人が話すとき、3割はウソをついている。小説でもそのバランスがとれたとき、アッとだまされるファンタジーが生まれる」

 来年は、日本の戦国や幕末、ギリシャ神話にも挑戦、さらに作風を広げるという。「僕は空手の初段ですが、5年というと頑張って初段をとれる年。たくさん練習して作家の黒帯を得られたとしたら、そこからが本当の始まりです」

 来年の応募者には、「力を出し惜しみせず、真っ白に燃え尽きるぐらいの意気込み」で臨んでほしいという。「100%の真心でウソをついてください」

受賞作家 多彩な活躍

 プロ作家としての定着率が高いことで知られるファンタジーノベル大賞。近年の受賞者を中心に多彩な活躍を紹介しよう。

 17回大賞の西條奈加さんは、『涅槃の雪』(光文社)など市井の人々の哀歓をとらえた本格的な時代小説に進出し、期待される一人。19回優秀賞の久保寺健彦さんは『中学んとき』(角川書店)、16回優秀賞の越谷オサムさんは『階段途中のビッグ・ノイズ』(幻冬舎文庫)など思春期を思い出させてくれる青春小説で注目を集める。

 日常と異界が溶け合うファンタジーでは、20回大賞の中村弦さんの『ロスト・トレイン』(新潮社)、18回優秀賞の堀川アサコさんの『幻想郵便局』(講談社)など心温まる作品が評判に。5回優秀賞の南條竹則さんと14回大賞の西崎憲さんは世界の幻想文学の紹介、翻訳でも知られる。佐藤哲也、沢村凛、粕谷知世、平山瑞穂の各氏らも、着実に執筆を続けている。


【出身作家の主な活躍(敬称略)】

 第1回大賞 酒見賢一→『後宮小説』、『墨攻』で直木賞候補2回。『周公旦』で新田次郎文学賞。
 第2回優秀賞 鈴木光司→『らせん』で吉川英治文学新人賞。『仄暗い水の底から』で直木賞候補。
 第3回大賞 佐藤亜紀→『天使』で芸術選奨新人賞。『ミノタウロス』で吉川英治文学新人賞。
 第4回優秀賞 北野勇作→『かめくん』で日本SF大賞。
 第6回大賞 池上永一→『風車祭』で直木賞候補。『テンペスト』が話題に。
 第9回大賞 井村恭一→『不在の姉』で芥川賞候補。
 第10回大賞 山之口洋→『われはフランソワ』で直木賞候補。
 第11回大賞 宇月原晴明→『安徳天皇漂海記』で山本周五郎賞受賞、直木賞候補。
 第15回大賞 森見登美彦→『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞受賞、直木賞候補。『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞。

◆第23回大賞 「さざなみの国」勝山海百合さん

 695編の応募が寄せられた第23回日本ファンタジーノベル大賞の受賞作が今月22日、新潮社から刊行された。

 大賞を受賞した勝山海百合(うみゆり)さん(44)の『さざなみの国』は、中国奥地の湖のほとりの村に育った少年さざなみが、滅びゆく村を再生する方法を探して旅に出る歴史ファンタジー。自身の体に関わる神秘的な力が、さざなみを思わぬ運命に巻き込んでゆく。

 岩手県出身の勝山さんは、東北に拠点を置く同人誌で長く活動、既にプロデビューを果たしている。物静かな語り口で紡がれる主人公の哀切な半生と希望の灯は、東日本大震災を経験した今の日本に通じる深い情感を呼び起こすはずだ。

 選考委員からは、「非常に静かな、庶民の日常感にあふれた戦時奇談」(荒俣宏選考委員)、「安定した堂々の力作登場」(椎名誠選考委員)、「物語の運びは見事」(鈴木光司選考委員)などと絶賛された。

◆優秀賞 「吉田キグルマレナイト」日野俊太郎さん

 一方、優秀賞の日野俊太郎さん(34)の『吉田キグルマレナイト』は、ヒーローショーのアルバイトを首になった京都の大学生・葉一が、奇妙な力を有する着ぐるみ人形の劇団に加入し、劇団存亡の危機に立ち向かう。

 役者の経験がある日野さんだけに、着ぐるみに情熱をかける劇団員の人間模様はリアル。不思議と隣接する古都の魅力を背景に、青春の涙と笑いがはじけ飛ぶ痛快な成長物語だ。

◆宇宙感覚の文学見たい 選考委員・荒俣宏さん

 賞が始まった1989年当初は、たまに作品は出ても、日本にジャンルとしてのファンタジーがない状態だった。だから、日本人が連想する童話やおとぎ話とは全く違う、文学として斬新で面白い作品を送り出そうというチャレンジングな精神で始まったんです。

 第1回大賞に、東洋の架空の国の後宮を舞台にした酒見賢一さんの『後宮小説』(新潮文庫)を選んだときも、大うそ話がどう受け入れられるか心配したけれど、幸い広く迎え入れられました。

 初期の頃は、選考委員も実験性を求めていてハードルは高かった。後に『リング』(角川ホラー文庫)がベストセラーになる鈴木光司さんの『楽園』(新潮文庫)も、第2回の優秀賞だったんです。

 一種の破壊的パワーを持った受賞作から、近年は、現実から離れた世界の癒やし効果がある作品に落ち着いてきていますね。江戸の大店(おおだな)の息子が妖怪と一緒に暮らす第13回優秀賞の畠中恵さんの『しゃばけ』(同)は、その典型でしょう。激辛ではなく、熟成された漬物のような旨(うま)みのあるファンタジーを、今の時代が求めているのかもしれない。

 でも、私の理想としては、地球の常識とは違う超新星を生みだす宇宙感覚の文学も作ってほしい。リアリティーや人間観察を中心にした日本の近代文学を、幻想や妄想でひっくり返す裏技の文学を成立させようとしたのがこの賞なのだから。

 受賞者の方には、そこで満足せず、ずっと書き続けてほしい。この賞は文化勲章でなく、スタート地点に立つための新人賞。書くのをやめてしまうのはもってのほか。本人が不満でも、100年後に評価されるかもしれない。受賞作よりばかばかしいものをというおおらかな意気込みで、自由に空想を広げてください。(談)

◆選考委員
 椎名 誠氏
 荒俣 宏氏
 小谷真理氏
 鈴木光司氏
 萩尾望都氏

◆作品募集要項

 創作ファンタジー小説を募集します(2012年4月1〜30日受け付け)。

 【応募規定】 自作未発表の創作ファンタジー小説(日本語)。400字詰め原稿用紙300〜500枚。別に原稿用紙5枚程度の概要を添付してください。
 【応募資格】 プロ・アマを問いません。
 【応募方法】 〒住所、氏名(ペンネームの場合は本名も)、年齢、性別、職業(学校名、学年)、電話番号を明記の上、〒162・8711新宿区矢来町71新潮社内「日本ファンタジーノベル大賞」係へ。
 【発表】 2012年8月上旬、読売新聞紙上ほか。
 【賞】 大賞(1編)賞金500万円、優秀賞(1編)100万円◇受賞作品は新潮社から単行本として刊行されます。
 【問い合わせ】 同大賞事務局(03・3564・1813 平日午前10時〜午後5時)。

 主催=読売新聞社、清水建設 後援=新潮社

(2011年11月24日  読売新聞)




現在位置は です



編集者が選ぶ2011年海外ミステリー

海外ミステリーが傑作揃いだった2011年。各社担当編集者のベスト5を紹介します。

連載・企画

海外ミステリー応援隊【番外編】 2011年総括座談会
世界の長・短編大豊作…やはり新作「007」、「犯罪」不思議な味、北欧モノ健在(11月29日)

読書委員が選ぶ「震災後」の一冊

東日本大震災後の今だからこそ読みたい本20冊を被災3県の学校などに寄贈するプロジェクト

読売文学賞

読売文学賞の人びと
第63回受賞者にインタビュー

リンク